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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
196/539

緊迫した空気  肆

 広間に戻ったものの、本格的な連続殺人事件の様相を呈してきたのもあり、皆の緊張はより一層高まっているように見受けられた。殆ど全員が猜疑的な視線を他の者に送っている。


「……これは、矢張り、連続殺人事件なのでしょうか?」


 しばらく沈黙が続いた後に、柴田がなんとか声を発する。


 それを受けた丹羽がゆっくり顔を上げそれに答える。


「で、でも、なんでそんな事を? 理由は何ですか? なんで私達が殺されなければならないのですか? 例えば柴田さんや織田さん達がどんどん殺されていくというのなら、柴田さん達に何か恨まれるような事があったという事になりそうですが、なぜ、私共の平手まで殺されてしまったのか……」


 丹羽は苦しそうに顔を横に振る。


「……そうですね、柴田さん達だけが殺されているのなら、何かの因果関係が見出せるかもしれませんけど、寺男の平手さんまで殺されたとなると理由や動機に関して絞るのが至難となってきますね……」


 真剣な眼差しで考え耽っていた明智女史が徐に声を発した。


 そんな明智女史に柴田は躊躇いがちに訊く。


「あ、あの、明智さん、さっきは中断させてしまったけど、全員の行動確認をした方が良いとか仰っていましたよね?」


「今でもそう思ってますよ」


「そうしたら、その全員の行動確認というのを、明智さん主導で纏めてもらっても良いかな?」


 柴田は云い辛そうだった。さっきは強引に自分で中断させてしまったから当然だろう。


「ええ、構いませんよ」


 明智女史はそんな事は余り気にしていない様子でさらりと答える。


「ただ、もう先程とは状況が違いますよ。先程までは、織田さんだけが殺され、そして、首を切られている状況でしたが、今は船を見に行った前田さんが行方不明となり、寺男のお爺さんがナイフで殺されてしまった状況へと変化してます。残念ながら被害者は増えてしまいましたが、行動確認をして行動が妙だった人物を見出しやすくなったとも云えます」


「そうですね、確かに」


 柴田は頷いた。


「なので、そんな状態を加味しつつ、行動確認をしていきたいと思います」


 皆は緊張の顔をしつつ顎を引く。


「まず、最初の被害者である織田さんなのですが、昨夜の十時頃から、朝の七時頃に発見されるまでの間に殺害されました。後で再度遺体を確認して、死亡推定時刻を絞りたいとは思いますが、時間に余裕がありますから、ある程度までは絞れますが、誰がそんな事をしたかの特定までは難しいかもしれません。下手をすると全員犯行が可能であるという所から先に進めないかもしれません。まあ殺されたのが意外と早く、十一時台や十二時台だったとしたら、宿坊の管理をされていた丹羽さんや寺男さんには殺害は不可能だったという事になるかもしれませんが……。その辺りで絞込みは終わってしまう可能性もあります。ですが皮肉ながら寺男のお爺さんが殺害された事により、誰がお爺さんの殺害が可能だったのか、誰が不可能だったのかという第二の絞込みが出来る状態になりました。なのでその辺りを整理したいと思いますね」


 明智女史の説明に皆は納得気味に頷いた。


「確か私の記憶ですが、柴田さんや中岡さん達が前田さんを探しに行く前までは、寺男のお爺さんはまだ健在だったと思います」


「ああ、広間に君達と残っていたよね?」


 柴田は確認するように聞いてくる。


「ええ、残っていました。広間と厨房風の小部屋を行ったり来たりしていたと思います…… でも皆さんが出掛けて戻って来た時には居なかったような…… ねえ、龍子さん? あのお爺さんはいつ頃から見ていませんか?」


「あ、あの、龍子じゃなくて、私は亮子です。もう間違えないで下さい! それでですが、しばらくは色々されていたと思いますけど、前田さん探しに行かれた方々が戻って来られた頃には、もう見ていなかったような気がしますけど」


「確かに途中までは姿が見えていたが、いつの間にか居なくなっていたな……」


 丹羽が呟く。


「となりますと、前田さんを探しに行かれている間にお爺さんは殺されたという事になりますね……」


 明智女史は真剣な眼差しで言及する。


「じゃあ、明智さんと細川さんと坂本さんと、丹羽さんと俺達の仲間の佐久間の五人の誰かが犯人だと?」


 柴田は躊躇いがちに聞いた。


「違いますよ、私はそんな事しませんから」


 明智女史はきっぱりと云った。


「わ、私もそんな事しませんよ、それに私はずっと明智と一緒に居ましたし」


 細川女史は首を横に振る。


「私もしません。私は大抵皆さんが見える場所に居たと思います」


 丹羽が少し怒ったように云う。


「お、俺もやっていない…… ずっと座っていたから……」


 佐久間は顔を横に振りながら言葉を発した。皆が私を見る。


「わ、わ、私だってやってませんよ! 私も殆ど座っていましたし……」


 皆が猜疑的に見るもんだから、私はどもり気味になってしまった。逆に怪しくなってしまったぞ。


「トイレとかは行ったのか?」


 中岡編集が徐に聞いてきた。っていうか何故連れの私にわざわざそんな質問をするんだ。まさか私を疑っているのか?


「と、トイレは一度行きましたけど…… でも少しの時間だけですよ」


「でも、少しの時間でも犯行は可能な状況だぞ」


 何故、そんな冷たい突き放しをする?


「ち、ちょっと待ってください、何なんですか、中岡さん、私がそんな事をするとでも思ってるんですか? 他の人に疑われるならいざ知らず、私達仲間じゃないですか! なんで変に疑うんですか? 信じてくださいよ私はそんな事しませんよ、ねえ、しないでしょ?」


「信じたいが、何があるかは解らんから何とも云えんな……」


 がーん。


「……でも、私もトイレ位は行きましたよ……」


 そんな私達を横目で見つつ、明智女史は自ら告白する。


「ほ、ほら」


 何が、ほら、なんだかよく解らないが、私は中岡編集に目配せしつつ何度も明智女子に視線を送る。


「でも、でもですが、前田さんを探しに行かれた方々にも犯行の可能性が無いとは言い切れないと思います。時間も結構掛かっていたと思いますが、ずっと一緒に居られたのですか?」


 明智女子が真剣な顔で考えつつ質問する。


「さっきも云ったけど、船着場までは四人で行った。でも船も前田の姿も見えないから、そこで二手に別れて海岸沿いを探しながら島の反対側まで行って、そこで合流して戻ってきたんだ」


 柴田が説明する。


「二手に別れた後は、ずっともう一人の方と一緒に行動されていたのですか? それとも同行者の姿が見えなくなっていた時があったとか?」


「いや、前田を探すというのが目的だから、同行者の姿が見えない時も、それはある程度はあったと思うよ……」


 そんな柴田答えに同意するように中岡編集が頷いた。


 な、なんだよ、お前も怪しい部分があるじゃないかよ! 


 私は横目で中岡編集を睨む。


「そうですね、私達の方でもお互いの姿が見えない時がしばしばあったと思います。私が海に近い場所、滝川さんが山に近い場所を探していた時もあれば、その逆も……」


 イケメン仏師の森が、横に立つ滝川に視線を投げかける。滝川は同意とばかりに頷いた。


「だ、だけど、俺達は島の外側を歩いていたんだぞ、ここまで戻ってきて犯行を起すのは難しいだろうよ」


 柴田が弁解気味に云う。


「いえ、外周をまわってるからこそ時間が掛かっていますが、岸から直接ここまで上がってきて、そこからすぐに戻るとしたらそこまでは時間は掛からないのではないかと思いますよ」


 明智女史が指摘する。


「そ、それはそうかもしれないが、結構大変だぞ、それに、そんな余裕はあったかな?」


 柴田は中岡編集を見ながら問い掛ける。


「まあ、兎に角、寺男のお爺さん殺害に関しても、残念ながらまだまだ絞りきれない状況のようですね……」


 明智女子はふうっと息を吐いた。

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