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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
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緊迫した空気  参

 そうして、仏師の森と明智女史、細川女史は広間奥にある厨房のような小部屋に入り込み、そして、その奥にある勝手口から外の様子を見に行った。また、男集団の三人は広間から出て、客間のある方とは反対側の廊下を進んで行きトイレや風呂場を確認しに行く。私と中岡編集、丹羽は宿の受付台の裏手や、その奥に用意されている荷物などを預かっておく為の小部屋の中などを確認した。


「受付裏とかに居たり、奥の部屋に居る可能性も考えましたが姿は無いですね……」


 丹羽が頭を掻きながら云った。


「きゃああああああああああああああっ!」


 外の方から女性の叫び声が聞こえてきた。


「な、なにかあったようですよ!」


 中岡編集が緊張した顔をしつつ、声がした方を探るように左右に顔を向ける。


「外からですよ、女性の声です」


 私は言及する。


「行ってみましょう!」


 丹羽は広間の方へ体を向けた。


「あ、あの、イケメン、何かしやがったか!」


 中岡編集がさも悪者だと決め付けるような言い方をする。


「ち、違いますよ、何かを見付けたんじゃないですか? あの仏師さんは変な事なんてしてませんし、しませんよ!」


「何だか随分庇うな、こんな状況だぞ、あの男が今回の事件を引き起こしている犯人かもしれないのだぞ。まあ、向こうからすれば、僕や君がこの事件を引き起こしている犯人に見えているかもしれないが……」


「こんな状態ですから、もう全員怪しい事は怪しいですけどね……」


 丹羽が、僅かに猜疑的な視線で私達を見た。


「とにかく、早く叫び声のした方に行こう」


 中岡編集は叫んだ。


 広間に入り込み、そのまま厨房のような小部屋まで足を踏み入れる。その奥には戸があり、その戸を引き開け、我々は外に出てみた。


 丁度宿坊の裏手になるような位置であり、そこには大型のごみ箱や物置などが置かれていた。宿坊を管理する上で必要なのだろう。


 そんな物置の奥側に仏師の森と明智女史、細川女史が立ち竦んでいるのが見えた。その視線の先は物置の影になって見えないが、不穏な存在があるように思えてならない。


「ど、どうしましたか?」


 丹羽が近づいて行って声を掛ける。蒼白になった顔を上げ、仏師の森が物置の影を指差した。


「あ、あれを見てください……」


 私と中岡編集も近づき物置の影に視線を送ってみる。


「ひっ!」


 そこには、胸にナイフが突き立てられ絶命している寺男の老人の姿があった。


「ああっ、お爺さんまで……」


 私は口に手を当てる。


「矢張り、仏像と同じような姿で殺されていましたよ……」


 明智女史が呟く。


 それまでは希望的な観測でもあるが、最初の殺人しか起こらず、個人の恨みなどから発生した一事件なのではないかという思いがあった。若しかしたら行方が解らなくなった前田が犯行を行い、その罪から逃れる為に逃亡しただけなのではないかと……。そう、単なる一確執からくる事件で、自分達には何ら関わりがない事件だと……。しかし、仏像の件も含め、寺男のお爺さんまでもが殺されたとなると、単なる確執とは思えなくなってくる。矢張り明智女史が云うように見立て殺人による。全員を殺害するという狂気的な連続殺人なのではないかと思わずにはいられなくなってくる。でもなんで私たちまで…… 私の背中には冷たい汗が流れ落ちる。


「ど、どうしましたか?」


 勝手口から、三人の男が姿を現した。柴田達だ。


「あ、あの、お爺さんは残念ながら殺されていましたよ……」


 私は緊張入り混じる声で説明する。


「こ、殺されていた! 本当ですか?」


「そうなんです。胸にナイフを刺されて……」


 イケメン仏師が遺体の方を手で指し示し、残念そうに呟く。


「そ、そんな……」


 柴田と滝川は近づいてきて、寺男の遺体に視線を送る。強張った顔で固まっている佐久間はそんな状態を見たくないのか、やや震えながら首を横に振ってその場から動かなかった。


「ほ、本当にナイフで胸を刺されているのですね……」


 そう云うと柴田は大きくふうと息を吐いた。横では滝川が目を瞑り手を摺り合せる。


「……も、もう、さすがに皆で纏まって対策を講じないといけないかもしれませんね……」


 柴田も私と同じように、まだ単なる一事件で自分達に危害が及ぶとまでは、そこまで考えていなかったのかもしれない。だが此処まで来た以上、自分達も殺される可能性があるのではないかという思いが浮かんできているようだった。


「取り合えず、広間に戻りましょうか……」


 柴田が続けて言及する。


「そうですね…… 明智さんが先程説明されていたように、整理して考えなければいけないのかもしれませんね」


 丹羽が返した。


「ええ、そうですね。すぐにする必要があると私も思い始めてます」


 柴田が明智女史を見る。明智女史は静かに頷いた。


 そうして、寺男の老人の体を物置の庇の下まで動かし、上に茶羽織を被せ、その場を後にする。皆の顔には更なる緊張が浮かび上がってきていた。

お読みいただいている方々にご連絡させて頂きます。畏れ入りますが、地獄巡り殺人事件なのですが、登場人物の名前を適当に付けてしまった為、書いている当人も誰が誰だかよく解らなくなることも多く、名前を忘れがちになってしまうこともあります。それなので、ちょっと覚えやすい名前に変更をしていきたいと存じます。誠に勝手ながらお許し下さい。


稲本女史 → 明智美津子、明智女史

岡村女史 → 細川幽子、細川女史


五人連れメンバー


山下  → 柴田勝夫

村木  → 織田信助

長谷川 → 前田利之

松浦  → 佐久間茂

小林  → 滝川益貴


仏師  → 森 圭介


御師  → 丹羽正樹

寺男  → 平手政男


誠に勝手ながらこんな感じに変更していく予定です。尚、名前の変更だけなので話の筋には関係はありませんです。


 しかしながらクローズドサークルものを書くのは二回目なのですが、いずれにしてもどうにも暗くなってしまい。ギャグっっぽいのを仕込み難いですね……。困った困った。

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