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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
192/539

状況の考察  肆

 私を含めた残った面子は広間でそのまま皆が戻ってくるのを待ち続けた。皆が出払ってしまった事で気勢が削がれてしまったのか、明智女史はそれ以降はほとんど発言をしなくなってしまった。とはいえ何か真剣な眼差しで何かを考え込んでいる様子だった。そんな様子を細川女史が横で見守っていた。


 丹羽と寺男の老人は、それでも何かをしていないと落ち着かないのか、広間の横にある厨房のような場所にしばらく入ったまま出て来なかったり、時折出てきたりを繰り返していた。


 心的ストレスが過剰に掛かってしまったような佐久間という男は、相変わらず震えながら座っている。


 探すのに手間取っていたのか二時間程もしてから、ぞろぞろと前田を探しに行った面子が戻ってきた。しかしその表情は冴えなく、当の前田の姿は見えない。


「あれ、前田さんは?」


 出迎えるように立ち上がった丹羽が問い掛ける。


「いや、それが、前田の奴、どこにも姿が見えないのですよ……」


 柴田が顔を横に振りながら答えた。


「えっ、姿が見えない? で、では何処に行かれたのでしょう?」


「さあ、よく解らない…… それもあって俺達は二手に分かれて海岸伝いに島の反対側まで行って探してみたのですが……」


 徐に私は横に居た中岡編集に質問してみた。


「……反対側というと地獄巡りの奇岩がある方にですか?」


「ああ、僕と柴田さんで右回り、仏師の森さんと滝川さんで左回りで行ってみたんだ。でも前田さんの姿はどこにも見えなかったんだよ」


 中岡編集は顔を横に振る。


「では、船はありましたか?」


 丹羽が四人に向けて訊く。


「いや、沖を眺めてみたけど船は流されたみたいで見えなくなっていましたよ。さっき丹羽さんと見に行った時は、まだ護摩粒位に見えていましたけど……」


 中岡編集が残念そうに答えた。


「ああ、そんな…… 船は完全に流されてしまったのですか……」


 丹羽は哀しげに呟く。


「それで大回りしたせいで時間が掛かってしまったんだけど、島の大外を周って前田を探してみたものの、アイツの姿は何処にも見えなくて……」


 柴田がふうと大きく息を吐く。


「そんなこんなで、結局、島の反対側の血の池地獄の辺りで合流して、そのまま針の山地獄の方から登って、此処まで戻ってきた感じですよ…… 合流した後も色々周囲を確認しながら帰ってきたけど、前田の姿はどこにも見えなかった……」


 柴田は顔を横に振る。


「そ、それじゃあ、他に何か変わった事とかは無かったですか?」


 丹羽が質問する。


「変わった事というと?」


 柴田が聞き返す。


「いえ、渡し舟ではない船が接岸していたとか、鋸とか日本刀が落ちていたとかみたいな」


「いや、そんな事は特段なかったし、凶器らしき物も落ちてなかったよ」


 柴田の答えに同行した中岡編集と滝川がうんうん頷いた。


「あっ、そういえば……」


 イケメン仏師の森が何かを思い出したかのような顔をしながら手を挙げた。


「そういえば、先程、戻ってくる際に本堂の中を通り抜けて来ましたよね?」


「えっ、ああ、そうでしたね」


 柴田は頷く。


「その時、見間違えかもしれませんけど、本堂に飾られている十王像が一体少なくなっているような気がしたのですが……」


「えっ?」


 柴田が青褪めた顔で聞き返す。


 その一言を聞いた私も、背中には怖気が走るのを止められない。


「それって、そして誰もいなくなった、みたいですね」


 じっと皆の話を聞いていた明智女史が静かに呟いた。


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