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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
191/539

状況の考察  参

「えっ? す、推理小説家だって?」


 そう言及した柴田も、その他の者たちも驚いた様子で明智女史を見る。


「ええ」


 明智女史はさも当然といった顔で頷く。


「そ、そうなのか…… な、なら、ある程度は任せても平気なのかな?」


 柴田は疑問形で問い掛ける。


「ええ、任せていただいて平気ですよ」


 明智女史は自信ありげに答えた。


「…………」


 柴田は少し首を傾げつつ口を噤む。


「夜の十時頃までは織田信助さんは目視されていましたが、その後は朝に遺体として発見されるまで、その姿を見た人はいないという事になりますよね? ただ此処の部屋は全て個室となっていますから、夜の間中誰かと一緒にいたという方が難しい状態になるかと思います。逆に朝までずっと誰かと一緒に居たという方は手を挙げてもらえますか?」


 明智女史の質問に皆は顔を見合わせながら顔を横に振る。


「まあ、私に関しても、編集の細川とは十一時頃までは一緒に居ましたが、その後はお互いの部屋で寝ました。なので十一時から朝までは一人でいましたから、アリバイ的なものはありませんけどね」


 明智女史の発言に皆は頷く。


「あ、あの、私と寺男の平手は、色々やらなければいけない事があったので十二時頃まではほぼ一緒に居りましたよ、まあ、その間でお互いの姿を見てない時はある程度ありましたけど……」


「寝られた部屋は一緒ですか?」


「い、いや、別々の部屋ですよ」


 丹羽は顔を横に振りながら答える。


「となると、ほぼ全員が大体一人で居た事になりますね……」


「そ、そうだよ、だから誰が怪しいとか、誰が殺ったとかを特定するのは、まだ無理だよ!」


 柴田は叫ぶように言及する。


「それでは、織田さんのお部屋の両隣のお部屋に泊まられた方々に聞きますけど、夜中にぎこぎこといった音を聞かれたとかはありませんでした?」


「えっ、ぎこぎこという音だって?」


 柴田は聞き返す。


「ええ、実の所、首を切り落とすのは意外と大変なんですよ、一筋縄にはいかないものなのです」


 明智女史は自信ありげに言及する。


「で、でも、よく切腹した後に介錯とか云って首を落としているじゃないか」


「あれは熟練の達人が切れ味鋭い日本刀を使っているので出来る代物なのです。そもそも日本刀なんでそうそうある物じゃないですし、見た所も無さそうです。仮にあっても素人に簡単に出来るような事ではありません。普通なら鋸でぎこぎこ切り落とすしかないのです。その音が聞こえたかどうかを教えて欲しいのですよ」


「お、織田の部屋の右隣は一応俺だけど、そんな音は聞こえなかったけどなあ……」


 そのまま柴田が答えた。


「左隣はどなたですか?」


「左隣は前田の奴だ。だけど今は海を見に行って……」


「あれ、そう云えば、先程、海を見に行かれた方の戻りが遅いですね……」


 明智女史が気が付いたように言及する。


「そういや遅いな…… あいつ、何やってるんだか」


「う~ん、その件を聞きたいのもありますけど、ちょっと心配ですね…… 誰か迎えに行った方が良いかもしれませんよ」


 明智女史が呟いた。


「そ、そうだな、ちょっと心配だな…… だったら俺が見てくるよ」


 柴田が躊躇いがちに言及する。


「で、でも、一人で行かれるのは危険ですよ」


 丹羽が云った。


「私もそう思います」


 明智女史も言及する。


「じゃあ、私が一緒に行きましょう」


 イケメン仏師が爽やかに手を挙げた。


「なら、僕も行きますよ」


 ちょっと躊躇いがちに中岡編集も手を挙げた。


「じゃあ、私も……」


 私はイケメン仏師が行くならと思い手をそそくさと挙げてみる。


「いや、女性は此処に留まっていた方が良いですよ」


 イケメン仏師は顔を横に振る。


「そうしたら滝川も一緒に来てくれよ」


 柴田が求めるように言及する。


「えっ、僕もか?」


 滝川という奴は嫌なのか躊躇いがちに聞き返す。


「良いじゃないか、佐久間の奴はあんなだし、俺も心許ないんだよ」


「わ、解ったよ、行くよ」


 滝川は渋々といった様子で頷いた。


 そうして、私を含めた女性陣と、なんだか弱りきっている佐久間という男、丹羽と寺男の老人を残して、他の面子は海岸に船を見に行った前田を捜しに出掛ける事となった。


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