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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
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状況の考察  弐

 自分の想像とは少し違う明智女史の説明は更に続く。


「兎に角です。警察に連絡をするという試みは続ける必要はありますけど、すぐに警察に連絡出来ない場合の対処も行わなければ駄目じゃないかと思います」


「と、云うと?」


 柴田か訊く。


「それはですね、一応ですけど犯人が誰なのかを考察するという事ですよ」


「ああ、成程それをするのですか……」


 瞬間、皆は微かに猜疑的な目でお互いを見合った。


「あの部屋で亡くなられた方は、あの部屋で一人で寝ていられたようですけど、それは間違いないですか?」


「そ、それは宿坊だし、部屋も一人しか寝られない広さだし、当然そうしていたよ」


 柴田が丹羽の方をちらりと確認しつつ答えた。


「ただ、寝る前には部屋の行き来は当然あったと思います。私も隣の連れの細川の部屋に遊びに行きましたし、一緒にお風呂に入りに行ったりもしました。その辺りの亡くなられていた方の動きはどうだったですかね?」


「そうだな……、夕食を摂り終った後、一度皆で前田の部屋に集まったよ、確か十時頃まで皆で話をしたりして……」


 柴田は眉根を寄せながら答える。


「皆で話ですか…… その皆さんで話をしていた際に、喧嘩とは云いませんが、言い争いの類などがあったとかはどうですか?」


「えっ、いや、喧嘩とか言い争いとかはしていないよ、ただ、俺が佐久間の奴と織田の奴に……」


 そう云い掛けて、柴田はちらりと私を見た。


 な、なんだ、その視線は……。


「お前等、お、お隣さんの事を、坂本龍馬に似ているとか云っちゃ駄目じゃないか! とか苦言を云ったけど……」


 おいおい、また、そのネタ引っ張り出すのかよ! もう勘弁してくれよ、部屋に戻ってまで私の話をするんじゃないよ! 


 私は怪訝な顔を柴田に向ける。


「でも、良く似てましたよね…… って僕が云いました」


 印象が薄い滝川という男がボソリと呟いた。


 そんなに細かいのは要らんわ! 


 私はその男をも睨みすえる。


「成程…… 龍子さんが似てる似てない、その事を云うべきか云うべきでないかといった件で少し揉めたと……」


 龍子じゃなくて亮子だよ! 聞こえが似ている微妙な云い間違えなので突っ込むに突っ込めない。


「いやいや、も、揉めた…… まではいきませんがね……」


「その他はどうですか?」


「いや、大した話はしてないよ、内輪の話だよ、特に角が立つような事は話してない……」


「そうですか……」


 明智女史は深い考えがあるかの如く腕を組み考え込む。


「そ、それで十時過ぎには、それぞれの部屋に戻った感じかな……」


 柴田が付け加えた。


「じゃあ、お風呂などはどうしましたか?」


「俺と前田は十時過ぎに直ぐに入りに行ったよ。皆のいる部屋の中で、そうしようと示し合わせたからね」


「僕は入りませんでした」


 滝川が手を挙げて呟く。


「そちらの方は?」


 明智女史が佐久間に声を掛けた。


「……じゅ、十時半ごろです……」


 佐久間は震える声でなんとか答えた。


「では、殺された織田さんという方は何時ごろ行かれたのですかねえ?」


「さ、さあ、適当に入るとか云っていた様な気がしたが……」


 柴田は少し頭を傾げながら答えた。


「因みに私と、細川の方は九時頃二人でお風呂に入りに行きましたけど、龍子さんと中岡さんは何時頃お風呂に行かれましたか? 十時より遅い時間にですか?」


「いや、僕は七時半頃だよ…… 出る時に坂本の奴と入れ違いになったから坂本の奴は八時頃から入った感じだと思う」


「龍子さんは八時からですか?」


「あ、あの、私の名前は龍子じゃなくて亮子なんですけど……」


 私は流石に訂正する。


「あ、ああ、そうか…… 間違えちゃった…… そうか亮子だったか…… 龍の印象が強すぎたから…… すみませんでしたね…… まあ、それは置いて於いて八時からというのは合っていますか?」


「……えっ、ええ、大体その位の時間からでしたよ……」


 まあ、って置いて於くなよ…… 本当に大丈夫かこいつで……。

 

「じゃあ、寺男のお爺さんと、丹羽さんとイケメンさんはどうですか? 十時より遅い時間にお風呂に行って、その際に亡くなられた織田さんを見掛けられたとかは?」


 明智女史は宿坊関係の人々に視線を投げかけ質問する。


「私はいつもお客様がお済になられた後に入るように心がけていますから、十二時頃からです。でも織田さんとすれ違ったり、お見掛けしたという事はありませんでしたよ」


 丹羽は真剣な表情で答えた。


「わ、私は二日に一度にしているので入りませんでしたよ」


 寺男の老人はしわがれた声で言及する。


「私の方は十一時半頃に入りに行きました。でも織田さんだけではなく、他の誰とも擦れ違ったり会ったりはしませんでしたよ……」


 イケメン仏師が良い声で説明をした。


「そうですか、イケメンさんも被害者を見ていないことになると…… となると被害者が生きている姿を最後に見たのは十時が最後となりますね…… 十時から翌朝の発見時の間に殺され首を切断されたと…… となると、その間の全員の行動確認をしておいた方が良いですね……」


 更に話を進めようとする明智女史に対して柴田が怪訝な顔を向ける。


「ちょっと待ってくれ」


「何でしょうか?」


「いや、確かに今の所は上手く纏めているように見えるが、本当にあんたに任せて平気か? やや危なっかしさを感じるんだが…… それに俺としては、誰が犯人かという事より、島を出る事とか、早く警察に連絡する方を進めた方が良いと思うんだけど…… 泳ぐのはどうかと思うけど前田が見に行ったように、船を何とか回収する方法を考えたり、ゴムボートとかが仕舞われていなかとかを考察したりする方が先じゃないかと……」


「ざ、残念ですが、ゴムボートは有りません……」


 寺男の老人が呟いた。


「だから例えばですよ! ほら他に狼煙みたいなのを焚いて、近くを通る漁船に気が付いてもらうとかそういった方法を試してみるとか……」


「当然、それもしなければいけないとは思いますけど、やっぱり誰がこんな事をやったかを突き詰めておいた方が安心ですよ、それでその事が簡単に解ったら、犯人を動けないように拘束して、その後に落ち着いて連絡する手立てを進められますもん」


「もん、って…… あの、あのさ、やっぱり、丹羽さんとかに纏めてもらった方が良いんじゃないかな? どうも君じゃ心許ないような気がするし……」


 柴田は云い辛そうに言及した。


「いえ、大丈夫ですよ、私、自信がありますから」


 明智女史はさらりと云う。


「いや、自信があるかもしれないけど、俺から見て少し心許ないような気が……」


「気のせいですよ」


 おいおい。


「いやいや、気のせいじゃなくて……」


 柴田が頭を掻きながら云った。


「大丈夫です。私、実は推理小説家なんです。私達は推理小説家の明智光子と、その連れ担当編集の細川幽子なのです」


 ほ、本当かよ! 


 私はあんぐりだ。


 る、類似品登場だぞ……。




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