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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
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状況の考察  壱

 そのまま前田は皆に視線を送りつつ声を上げる。


「誰か泳ぎに自信がある人は居ないか?」


「お、俺は駄目だぞ、お前も知ってるだろう」


 顔の長い柴田が顔を横に振る。


「解ってるよ、それじゃあ、あんたはどうだ? ガッチリとしていて肉付きが良いし浮力もありそうだ」


 前田が中岡編集を見ながら声を掛けてきた。


「えっ、僕ですか? いや、僕はカナヅチなもんで……」


 中岡編集は顔を強張らせながら横に振る。


 ……中岡さんはカナヅチなのか…… 初めて知ったぞ……。


「……駄目なのか…… じゃあ案内人さんはどうだ?」


「いやいや、プールで二十メートル位は泳げますけど、海はとても無理ですよ、波もあるし……」


「皆駄目なのか?」


 皆は殆ど揃って小さく頷いた。


「う~ん、どうしたものかな…… 仕方が無い、取り敢えず、俺ちょっと船の様子を見てくるよ、潮の流れ次第では距離が縮まっているかもしれないし……」


 前田はそう言いつつ玄関部分へと足を向ける。


「一人で行かれるおつもりですか? 何かあるといけませんよ」


 丹羽が前田の背中に声を掛けた。


「ちょっと見てくるだけだから平気だよ、まあ、一応気を付けながら行って来る。とはいえ誰かと一緒でもそいつが殺人犯だったら目も当てられないぞ…… まあ、すぐ戻るよ……」


 前田はそのまま玄関部の方へ向かって歩いていった。


 皆はその背中を見送る。


 いずれにしても立ち尽くしたまま、どう振舞えば良いのか判断がつかないといった感じだった。


「そ、そうしましたら、取り敢えずは食事を摂って頂いた広間の方に移動しましょうか? ここに立ち尽くしていてもどうにもなりませんし…… 正直ここに居続けるのは辛いですし……」


 丹羽は顔を顰めつつ殺人が行われた部屋を眺める。


「そうですね、移動しましょうか……」


 顔の長い柴田が同意の頷きをみせる。


 確かに、血の匂いが漏れ出してくるこの場所に立ち尽くしているのは気分が悪い……。


 そうして我々は、首を切り落とされた織田という男の横たわる部屋の戸を閉じ、皆で連れ立ち広間の方へと向かって行った。


 広間には、朝食の準備をしていた形跡があり、昨夜の夕食時と同じように膳が並んでいた。ただ膳の上には器などは載っておらず只々膳があるだけだった。


 皆は指示をされた訳ではないが、そのまま昨夜自分達が座っていた場所へと腰を下ろす。


 だが、余りに衝撃的な事が起こった事もあり、皆無言のまま押し黙ったままでいた。


「……しかし、なぜ、こんな事が起こったんだろう?」


 しばらくして、柴田が俯いたままボソリと声を上げた。


「わ、解らない…… 意味が全く解らないよ……」


 仲間の滝川が喘ぐように応える。


「どうして、織田が殺されなければならないんだ? それも首を切り落とすなんて事までしなくてもよ……」


「……」


 首の無い死体を最初に見付け、ショックを受けていた佐久間という小太りの男は、まだ無言のまま首を横に振る。昨日はあんなに軽口を叩きつつ私に対して失礼な事を云っていたが、随分な消沈ぶりだ。


 そんな中、徐に明智女史が手を挙げて口を開く。


「あ、あの、ねえ、ちょっと一度、整理して考えませんか?」


「整理して考える。ですか?」


 山下が問い返す。


「ええ、今置かれている状態を整理して、どうした方がいいか、どう対処するべきかを判断する必要があると思うのですよね」


「それはそうだが……」


 柴田は頭を掻く。


 明智女史がそんな柴田を見ながらふうと大きく息を吐いた。


「そうしたら、私がまとめ役というか、議長役をやりましょうか?」


 お、おいおい、私を男と間違え、そして、それに対して、間違えちゃった…… とか軽く反省の欠片も無い様な事を言及していたお前にそんな高度な真似が出来るわけないだろう! 


 私は明智女史の身の程知らずな言葉に思わず突っ込みを入れる。


「じゃあ、私が今置かれている状態に関して改めて言及していきたいと思います。良いですね?」


 皆はよく解らない明智女史の勢いに押されて只々頷く。男連中は思考が上手く働いていないようで、寺男や丹羽に関しても自分達の管理する施設での大変な事態に動揺しているのか反応が鈍かった。云われるがままになっている。


「えーと、私が聞いた所を整理してみると、朝、そちらの方が、亡くなられたお友達の部屋を訪ね、部屋の戸を開いた所、部屋の中に首を切り落とされた遺体があったと…… つまりこの施設で殺人事件が起こっている事になる訳ですよね?」


 明智女史が小太りの佐久間を見ながら聞いた。


「え、ええ……」


 殆どしゃべらない佐久間の代わりに、柴田が答える。


「それと船が無いとか、警察に連絡出来ないとか云っている所とか、見たところ電話が無さそうな所とか、電線なんかも見当たらない事から、通信手段が無いので警察に連絡出来ずに困っていると……」


「そ、そうですね」


 柴田は再度答える。


「そして、犯人が誰だか解らない状態ながら、犯人を含め、この島に閉じ込められた状態に至ってしまっている可能性もある……。因みに、この島には昨晩此処で食事を一緒に摂った人間以外に誰か居るのですか?」


「い、いえ、他には誰も住んでいませんし…… 誰も居りませんよ」


 丹羽が答えた。


「となると、先程船を見に行った男性を含めた此処にいる人の中に、犯人が居る可能性が高い事になりますよね? あっ、そういえばこの島まで送ってくれた、あの船頭さんはこの島にお住まいではないのでしょうか?」


「いや、あの船頭は、対岸の方に住んでいます。昔から対岸辺りに住んでいた男なのですが、地域の人間に馴染めず、仕事がなく食うに困っているというので、寺の方で船を貸し与え、この島までの人の行き来を担う仕事で生計を成り立たせるようになったと……」


「そうすると、あの船頭さんが犯行を行ったかもしれないという可能性もありますね…… まあ、それ以外にも船を持っている人間がこの島に乗り付けて殺人を行ったという可能性もありますけどね……」


「そうなりますかね」


 丹羽は少し考えてから顎を引く。


 あ、あれれ、何だか、意外と理路整然としてるぞ、確か明智さんモブだったよね?

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