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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
188/539

事件発生  陸

 殺害現場となった部屋の前まで戻ると、先程と余り変化もなく寺男の老人と四人の男集団が呆然とした様子で佇んでいた。座り込んでいた小太りの男は一応立ち上がっており、寝ている所を無理やり起された滝川という男も、もう随分としゃんとしているよう見受けられる。


「こ、この部屋で起こったのですか?」


 細川女史が恐る恐るながら首を伸ばした。


「あっ、だ、駄目ですよ!」 


 イケメン仏師が鋭い声を上げる。


「見ないほうがいい、いや、見ちゃ駄目だ……」


 声のトーンを落としてイケメン仏師が説得するように言及する。


「そ、そうですよね…… 済みません…… 不用意でした」


 細川女史は反省したように呟く。


「あっ、いえ、見てしまうとショックを受けらトラウマになられてしまうかもしれませんので…… すみません強く云ってしまって……」


 イケメン仏師は困り顔を作りながら説明をした。叱りつつも優しさを垣間見せる。細川女史まで惚れてしまわねば良いが……。私は気が気でない。


「どうですか? 船着場に向かった二人は戻って来られましたか?」


 イケメン仏師が、未だ表情を曇らせ佇んでいる寺男に問い掛ける。


「いやいや、さすがにまだまだ掛かるでしょう…… 渡し守の池田も一時間に一度位しか往復しませんし…… 常日頃からタイミングが合わないと結構長く待たないといけませんからね……」


「そういえばそうでしたね……」


 イケメン仏師が頷く。


「あ、あの、皆さんのご友人の方が亡くなられていたのですよね?」


 この場に到着したばかりの明智女史が、強張った顔で佇む四人の男達に視線を向けながら質問した。


「え、ええ、そうです…… 彼が朝に部屋を訪ねて戸を開いたら、中で俺たちの連れの織田信助が殺されていたのを見付けて……」


 顔の長い柴田が答えた。


「あの~ ちょっと思ったんですが、心当たりは無いのですか?」


「心当たり?」


 柴田は度惑い気味に返す。


「ええ、殺されたのなら、殺される心当たりみたいなのは無いのかと?」


「こ、心当たりですか…… いや、私には思い当たる事は有りませんね…… まあ、私の知らないところで彼が恨まれたりしていたのかも知れませんが……」


「他の方々は心当たりは?」


 明智女史が他の面子を見る。


「い、いや、俺も解らないな……」


 小柄な前田が顔を横に振った。


「……」


 小太りの佐久間という男は、まだ少し震えながら顔を横に振る。


 その横に立つ滝川は眉根を寄せつつ口を開いた。


「織田の奴が殺された理由ですか?」


「ええ、だって理由も無く殺されないでしょう?」


 明智女史が至極当然といった顔で声を上げる。


「ま、まあ、そうですよね……」


 滝川は頷く。


「でも、何だろう…… 心当たりはないけどなあ……」


 滝川は天を仰いだ。

 

 そんな最中、玄関の方から丹羽と中岡編集が慌てた様子で戻ってきた。


「おい、た、大変だ! 大変だぞ!」


 中岡編集が叫ぶ。


「ど、どうかしたのですか?」


 顔の長い柴田が何事かと聞き返す。


「渡し舟が来ない…… というか渡し舟が沖の方で漂っている状態で、全然此方にくる気配がないんだよ」


「漂っている状態だって?」


 小柄な前田が丹羽と中岡編集を交互に見ながら聞く。


「え、ええ、やって来る気配も去る気配も全然ないのです…… 本当に漂っているといった感じで……」


 丹羽が激しく頭を掻きながら答えた。


「船頭さんは? 船頭さんはどうしているのですか?」


 前田は止まらず質問する。


「い、いや、船に人が立っている風には見えませんでした…… 誰も乗っていない船が海を彷徨っているといった感じで…… 船の中で横になっているのかもしれませんけど……」


 丹羽は動揺した様子のまま答える。


「人の姿が見えず、沖で漂っているだけですって…… そ、そんな馬鹿な……」


 顔の長い柴田が強張った表情で言及した。


「あ、あの、となると、この島から本土の方へ渡ることも出来ないという事ですか?」


 細川女史が誰とはなしに戸惑い気味に質問する。


「そうなってしまいますね……」


 イケメン仏師が小さく答えた。


「人が死んでるんだぞ! は、早く警察に連絡しなきゃいけないのに!」


 柴田の横で前田が拳を固く握り締めつつ声を上げた。


「漂っているとなると、船が流されちゃった…… て事ですかね?」


 前田の横で徐に滝川が御師に訊いた。


「い、いや、そこまでは解りかねますが、もしそうなら船守りの方で気付いて何かしらの手立てを講じるのではないかと…… それと、此処へ来たいと思っているお客様も居られると思いますので、変だと気付けば本土の方である程度動いてくれるのではないかと……」


「おいおい、悠長な話だな……」


 前田が顔を顰める。


「む、昔、台風が来た時、船が流され同じような状況に陥った事が御座います。その時は二日程本土との交流が途絶えましたが、本土の方で漁船を出してくれて事なきを得ましたが……」


「ただ今回は人が死んでいる…… いや、殺されているんだ。そんな悠長に待っていられないぞ……」


 前田は少し考え込む。


「あ、案内人さん。因みに船はどの位沖にあるんだ?」


「えっ、船ですか、結構沖の方です……」


「岸から見てどの位の大きさなんだ?」


「岸から見てですか…… 護摩つぶ位ですかね……」


「ご、護摩か…… かなり遠いじゃないか」


 聞いた前田は唖然とする。


「だから結構沖だと…… どうしてそんな事を?」


「い、いや、泳いで船まで行けないものかなと思ってさ……」


「えっ、お、泳ぐですか? 水は今の季節はかなり冷たいですよ…… それと泳ぐにしては些か遠すぎるかと……」


 とても無理ではないか? といった顔で丹羽は答えた。


「出来れば、俺だってやりたくはないよ、でも、ここで手を拱いていても……」


 そう答えつつ、前田は考え込む。


「取り敢えず、俺は自分の目で状況を見てくる。船まで泳ぎ着けるか見てきたいと思うよ」


 前田は泳ぎに多少自信があるのかそう言及した。



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