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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
186/539

事件発生  肆

 そんな状態の所へ、あの森というイケメン仏師が駆けつけてきた。朝だというのにサラサラな髪を靡かせ爽やか過ぎる事この上ない。殺人事件が起こったという、重く居た堪れない状況なのに、別の意味で私の胸の高鳴りが始まってしまう。


「ひ、人が亡くなったですって?」


 イケメン仏師は緊張の面持ちで質問をする。


「え、ええ、それも殺されたようです……」


 寺男の老人が答えた。


「そ、そうなんです…… 首が切り落とされているんですよ……」


 顔の長い柴田が搾り出すように云った。


「く、首が切られている…… ですか……」


 イケメン仏師はそう呟きつつ躊躇いがちながら、皆が注視する部屋の中を覗き見た。


「うっ、こ、これは酷い……」


 そうして口に手を当てた。


「しかし、どうしてこんな真似を……」


「解りませんよ、恨みに思ったのかもしれませんが……」


 柴田が叫ぶように云う。


「と、ところで、一体どなたが殺害されたのですか?」


 イケメン仏師はちょっと解らないといった顔で質問した。


「それは、私等の仲間の織田という男ですよ」


「あの、その…… 首から上はどちらに? は、端の方にあるのですか?」


「えっ?」


 柴田は戸惑い気味に声を上げた。


「く、首から上はまだ見ていませんが……」


「こ、殺されたのは、本当にその方で間違いないのでしょうか?」


 仏師の森が真剣な顔をしながら聞いた。


「えっ、でも、ここは織田の寝ていた部屋だし…… 織田以外の面子は全員いるし……」


「い、いや、ちょっと待て、確かに、首から上が無いんだ…… 本当に織田かどうかは解らないな……」


 横で柴田と仏師のやり取りを見ていた仲間内の前田が言及する。


「一応だが、本当に織田が殺されたのかどうか確認してみる必要があるかもしれない……」


 そう呟いた前田が、廊下に座り込んで震えている佐久間という小太りの男に視線を送る。


「おい佐久間、お前、織田の部屋まで入ったのか? 部屋の中に首はあったのかよ?」


 その佐久間はガタガタ震えながら顔を横に振る。


「……い、いや、そ、その扉を、あ、開けたら、中の襖戸も開いていて…… そ、……そこに、首の無い織田が布団の上に横たわっているのが見えて……」


 佐久間が搾り出すように云った。


「じゃあ、部屋の中には入っていないんだな? 織田の頭部は見ていないんだな?」


 前田の問い掛けに、佐久間は弱弱しく頷いた。


「という事のようですよ。となると一応は確認はしておいた方が良さそうだ…… そうしたら俺が見てくるよ」


 前田が言及する。


「ち、ち、ちょっと待ってください、少し気をつけないといけない事が……」


 私は気になり手を挙げ声を上げた。


「何をだ?」


「いえ、現場を荒らすのは拙いですから気を付けないといけませんよ。警察が来たときに配置とかが変わっていたりすると捜査の妨げになる事も…… 布団とかは動かしては拙いと思います…… それと一人ではなく二人で行かれた方が良いと思いますけど……」


「解ってるよ…… じゃあ、そこの案内人さん、一緒に来てくれよ」


 前田は丹羽に声を掛ける。


「わ、私ですね」


「ああ、仲間内じゃない方が良さそうだしな……」


「解りました。この宿坊を管理している身としてちゃんと見てきたいと思います」


 そうして、前田と丹羽が恐ず恐ずと部屋に足を踏み入れた。


「うっ…… こ、これは酷いな…… 何もここまでしなくても……」


 奥の襖戸を抜け部屋の内部に踏み入れた所で辛そうな声が聞こえてくる。


「そ、そうですね、しかし、物凄く血生ぐさいですね……」


 二人が死角に入って見えなくなったかと思ったら、布団の奥側に姿が見えた。一歩一歩足元を気を付けながら歩いている事が伝わってくる。そうして再び死角に入ったかと思ったら、襖戸の近くから姿を現し、此方へと引き返してきた。


「どうだった?」


 柴田が聞いた。


「いや頭部は見た所無かった…… それと胸から腹にかけて掛かっている布団の端の方にあるかもと思って凝視してみたが、膨らみ具合からしてあの下に隠れているとは到底思えなかったな……」


 横で丹羽が頷く。


「ただ、眼鏡が落ちていた…… あれは織田のに間違いはない…… それと背の高さというか体の大きさ、体の感じは、ほぼ織田だと思う、背が高いからな、あいつは……」


「そ、そうか……」


 皆は揃って頭を垂れた。


「と、兎に角、警察に連絡をしに行かないとですね……」


 中岡編集が気が付いたように言及した。


「そ、そうですね…… では誰と誰で行きましょうか?」


 丹羽が聞いた。


「そうしましたら丹羽さんと、あなたに行って頂ても?」


 顔が長い柴田が中岡編集を見ながら言及する。


「えっ、僕ですか?」


「ええ、私達の仲間内ではない方のほうが良いような気もしますし……」


「それはそうですね。解りました僕が行きましょう」


 中岡編集は頷く。


「そ、それと、あの女性二人組にも、もう何が起きたのかを伝えるべきのような気がしますが……」


 私は思い出し言及する。後で何があったか教えて下さいね。とも云われていたし……。


「それじゃあ、その件は私が伝えに行ってきますよ」


 イケメン仏師が手を上げる。


「じ、じ、じ、じゃあ、私も!」


 私も声を上げた。頼まれた責任がある。イケメン仏師が行くからなどではない。


「じゃあ、ご一緒に」


 イケメン仏師が微笑み掛けてくる。


「ええ、一緒です」


 横で中岡編集が怪訝な顔で私を見ていた。

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