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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第三章
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宿坊へ  陸

 場が落ち着いた所で、皆は再び静々と料理を摘み始めた。私も大きく深呼吸をして心に平静を取り戻しつつ天婦羅に箸を伸ばした。


「良かったじゃないか、イケメンに庇ってもらえて……」


 中岡編集がボソリと言及してくる。


「というか、なんで中岡さんは庇ってくれないんですか? それどころか火に油を注ぐような事まで不用意に云って……」


 私は隣の席に聞こえないような小声で苦言を云う。


「えっ、僕は事実を述べただけだが……」


「じ、事実だと?」


 私は厳しく睨み付ける。


「い、いや、まあ、それに面と向かって馬鹿にしていた訳じゃないから注意しにくいだろ、あの男はよく云ったもんだ。ああ云える奴はそうそう居ないぞ、正義感が強くて、云ってみれば学級委員タイプだな……」


「素晴らしいじゃないですか、正義感が強くて、はっきり物が云えるなんて……」


 私の事を綺麗だとも云ったし……。


「ああ、凄い奴だ。堂々としているし、立派な奴だ。だが感性はちょっと変だがな……」


「感性が変?」


「ああ、目が変だというか…… 美意識がズレているというか……」


 中岡編集は眉根を寄せつつ呟く。


「ど、どうしてですか?」


「いや、だって君の事を綺麗だとか云っていた……」


 何だと!


「め、目が変じゃないですよ! そう思ったんですよ! 私のようなうりざね顔が綺麗だと思っているんですよ、だって昔はうりざね顔が綺麗だったから、古風な顔立ちが綺麗だと認識しているんですって!」


 私は綺麗という言葉を連呼してしまった。


「古風な顔が綺麗ねえ…… 仏師だからかな……」


「仏師だから?」


「ああ、弥勒菩薩もうりざね風だしな、弥勒菩薩像もそういえば龍馬顔をしている……」


「弥勒菩薩が龍馬顔?」


 初めて聞いたぞ。


「きっと龍馬顔が好きなんだろう……」


「ち、違うでしょ、仏師だから弥勒顔が好きなんでしょ! だから弥勒顔、いえ菩薩顔の私が綺麗なんでしょ!」


 私は剥きになって云った。さり気無く私が綺麗だとも云ってしまった。


「菩薩顔?」


「ええ、菩薩顔です」


「いやいや、君の顔はそんな菩薩のように柔らかくない。もっと男顔だ。だから龍馬顔だよ」


 ムカっ!


「だ、だ、だ、だから! もう龍馬顔って云うな! 龍馬に似ているとも云うな! 注意されただろ! 私は弥勒顔よ、菩薩顔だわよ!」


 私は周囲に気を使いつつ小声で叫んだ。いつも云われ慣れている事だが、あのイケメン仏師に綺麗だと云われた後だからか恐ろしく耳障りに思えてならない。


「もう、もういいですよ、もう結構ですよ、もうこれ以上話もしたくない。ほら食べてください。私も食べます。無言で食べます」


 私は顔を背け、一心不乱に精進料理を口に運んだ。


「…………」


 中岡編集も無言で精進料理に箸を伸ばした。



 そうして波乱の食事は何とか終了した。


 周囲の席では食事が済んだ者は静々と広間から出て行く。私と中岡編集も箸を置き料理に手を合わせてから席を立った。


 広間から出て、廊下を進み、自分達の宛がわれた部屋の前まで戻ってくる。


「さて、これからどうする? 後で君の部屋の方へ行こうか?」


 いらんわ、もうお前の顔は見たくない。


 私はあのイケメン仏師の顔を思い浮かべながら、綺麗だと云われた事を反芻するんだ。


「……いえ、もう私は寝ます……」


「そうか……」


 そのまま私は自分の部屋の戸を引き空け中へと入り込んだ。中岡編集も自分の部屋の戸を引き空けていた。

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