宿坊へ 参
「ああ、織田様ご一行様方、お待ちしておりました。では、お席へご案内致します。どうぞ此方へ……」
騒がしい声に気付いた丹羽が直ぐに近づいて来て、五人を席へと案内する。
席に赴く途中で、その五人連れの内の小太りな男が、私達の方をチラリと確認するように視線を向けてきた。
そして、案内された席は私達と女性二人組みの間に位置するの席だった。
「おおっ、見ろよ中々美味そうだぞ。天婦羅まであるぞ」
よく喋る小太りな男が嬉しそうな顔で中岡編集と同じような事を云った。体型が似ていると云う事も似るらしい。
「良いな、上品そうな感じで…… 銀杏も美味しそうだ……」
眼鏡を掛けた賢そうな印象の男が落ち着いた声で返す。
そんなこんなしながら、その五人が着座して落ち着いたかと思ったら、入口の方から先程、本堂で仏像の修復をしていた仏師の男が入ってきた。
改めて見るが、矢張りイケメンだ。格好は相変わらず作務衣姿のままだが、襟元から見える長く細い首筋、男にしてはとても綺麗な肌。そして、ぴんと伸びた背筋も相まって本当に格好が良い。
そのイケメン仏師はそのままつかつかと奥側の小部屋の方に近づいていく。
小部屋の前に待機していた丹羽は、そんな仏師に気が付いたようで歩み寄った。
二人は近接し二言三言言葉を交わしたかと思ったら、仏師は奥の小部屋近くに用意されていた膳の前に腰を下ろした。どうやらあのイケメン仏師は客扱いという訳ではないらしい。
そのイケメン仏師の座った膳近くにはよく見ると他に二つの膳が置かれていた。その膳の上には私達の前の膳に載っているような朱塗りの碗などではない器などが置かれており、そんな所をみると、賄い的な膳なのかなと思えてくる。
丹羽が改まり、我々の方へ向きながら声を上げ静々と頭を下げてきた。
「え~、私はこの宿坊の世話係りを勤めさせて頂いております丹羽と申します。皆様、本日は態々当宿坊の方までお足をお運び頂きましてありがとうございます。さぞお疲れの事と存じます」
私は小さくそれに返す。廻りの人々も同じように顎を下げた。
丹羽の声が上がっている最中、奥の小部屋から寺男の老人も出て来てイケメン仏師の横に静々と腰掛ける。
「大した物は用意できませんが、山の幸をふんだんに使い拵えた精進料理で御座います。ご堪能頂けると幸いで御座います。では、どうぞお召し上がり下さいませ」
その声を聞いた男集団の小太りの男が箸を持ち料理に手を付け始める。それを見た周りの者達も倣い料理を摘み始めた。
「じゃあ僕等も頂くとするか」
中岡編集が箸を取り、舞茸の天婦羅に箸を伸ばした。
「頂きます」
私は呟き、銀杏が細い竹の串に三つ連なったものを指で掴み口に含む。
「うん美味しいですね」
塩が少し降ってあり、その僅かな塩気が銀杏の味を引き立てている。
「舞茸の天婦羅も美味しいぞ」
中岡編集もうんうん頷きながら味を堪能していた。
料理のレベルは高いようで、男集団の方でも皆満足そうに堪能してしているように見受けられ、あの明智女子、細川女史も嬉しそうな顔で料理を摘んでいた。