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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第二章
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円海寺  漆

 自然と私達二人と女性二人の距離は近くなり、うりざね顔の女性が笑顔で中岡編集に話し掛けてきた。


「凄いですよね此処、本当に恐ろしくて、私、さっきからゾクゾクしっぱなしですよ」


「いやいや、僕も予想以上で驚いているよ、僕なんかは品行方正だから当然天国行きかと思っていたのだけど、地獄の基準が厳しすぎて地獄行きになってしまいそうだよ……」


 中岡編集が頭をポリポリ掻いた。


「同感です。 私も地獄行きになっちゃいそうです」


 明智と名乗った女性はうんうん頷く。そして笑顔のまま口を開く。


「ところで、男性同士でこんな所をご旅行とは、不思議な感じですね、何か反省すべき事でもあったのですか?」


 な、な、な、なぬ! お、男同士だと! 


 聞き捨てなら無い事を耳にして、私は瞬間的に表情を強張らせる。


「ふっ、あっはははははっ、男同士、僕等が男同士に見えましたか?」


 中岡編集が噴出すように笑った。お前、なに笑ってんだよ、そこ笑うとこじゃないだろ!


「えっ!」


 その明智という女性と細川という女性が覗き込むように私を見る。それもそれで失礼な所業だぞ。


「あっ、違う、この人、女の人だ!」


 明智が叫んだ。


 その一言一言が私の心にグサグサ突き刺さる。


 この女ぁ、口を慎め! ……あ、あっ、ごめんなさい、大変失礼しました。とか云えないのかよ! 


 私は取り敢えず心の中で毒づく、そして憮然とした顔で明智女史を睨み付けつつ言及した。


「……そうです…… 私は女ですが、何か?」


「す、すみません。間違えちゃった……」


 ちゃった…… だと! このやろう!


 さっきのイケメンはちゃんと私を女だと認識していたぞ、なんで間違えるんだよ! 


「駄目じゃん、光子、ちゃんとよく見て云わないと……」


 細川の方が苦言を呈す。


「だ、だって……」


「すみません。この子近眼なもので……」


 細川という女性の方が改まって謝罪してきた。


 まあ、貴方の方は少しは礼儀正しいようだ。でも、さっき貴方も男か女か確認していたよね?


「すみませんでした。以後、気をつけます」


 明智の奴も一応ながら深々と頭を下げてきた。でも、以後って謝るの間違ってるぞ! もう以後は間違えようがないから!


「まあまあまあ、そんなに気になさらないで下さい。君ももう許すよな?」


「えっ? ええ……」


 許すよな? って云われて許さないとは云えないぞ!


「まあ、茶色っぽい装いの上で、パンタロンだか、応援団が履いているような太いズボンを履いて、百七十五センチ程もある大きな体と、パーマの掛かったボサボサな髪形をみれば、男と間違えるのは無理もない」


 む、む、む、無理も無いだと! 私は般若の形相で中岡編集を睨み付ける。


「あっ、いや、まあ、以後は気を付けた方が良い。ほ、ほら変に恨まれでもしたら良くないからさ……」


 中岡編集は尻すぼみ気味に付け加える。


「すみませんでした。気を付けます」


 二人は再度頭を下げた。


「…………それでは、この血の池地獄について説明をしていきます…… 宜しいでしょうか?」


 私達のそんなやり取りに、我関せず状態だった案内役が口を開いた。


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