円海寺 漆
自然と私達二人と女性二人の距離は近くなり、うりざね顔の女性が笑顔で中岡編集に話し掛けてきた。
「凄いですよね此処、本当に恐ろしくて、私、さっきからゾクゾクしっぱなしですよ」
「いやいや、僕も予想以上で驚いているよ、僕なんかは品行方正だから当然天国行きかと思っていたのだけど、地獄の基準が厳しすぎて地獄行きになってしまいそうだよ……」
中岡編集が頭をポリポリ掻いた。
「同感です。 私も地獄行きになっちゃいそうです」
明智と名乗った女性はうんうん頷く。そして笑顔のまま口を開く。
「ところで、男性同士でこんな所をご旅行とは、不思議な感じですね、何か反省すべき事でもあったのですか?」
な、な、な、なぬ! お、男同士だと!
聞き捨てなら無い事を耳にして、私は瞬間的に表情を強張らせる。
「ふっ、あっはははははっ、男同士、僕等が男同士に見えましたか?」
中岡編集が噴出すように笑った。お前、なに笑ってんだよ、そこ笑うとこじゃないだろ!
「えっ!」
その明智という女性と細川という女性が覗き込むように私を見る。それもそれで失礼な所業だぞ。
「あっ、違う、この人、女の人だ!」
明智が叫んだ。
その一言一言が私の心にグサグサ突き刺さる。
この女ぁ、口を慎め! ……あ、あっ、ごめんなさい、大変失礼しました。とか云えないのかよ!
私は取り敢えず心の中で毒づく、そして憮然とした顔で明智女史を睨み付けつつ言及した。
「……そうです…… 私は女ですが、何か?」
「す、すみません。間違えちゃった……」
ちゃった…… だと! このやろう!
さっきのイケメンはちゃんと私を女だと認識していたぞ、なんで間違えるんだよ!
「駄目じゃん、光子、ちゃんとよく見て云わないと……」
細川の方が苦言を呈す。
「だ、だって……」
「すみません。この子近眼なもので……」
細川という女性の方が改まって謝罪してきた。
まあ、貴方の方は少しは礼儀正しいようだ。でも、さっき貴方も男か女か確認していたよね?
「すみませんでした。以後、気をつけます」
明智の奴も一応ながら深々と頭を下げてきた。でも、以後って謝るの間違ってるぞ! もう以後は間違えようがないから!
「まあまあまあ、そんなに気になさらないで下さい。君ももう許すよな?」
「えっ? ええ……」
許すよな? って云われて許さないとは云えないぞ!
「まあ、茶色っぽい装いの上で、パンタロンだか、応援団が履いているような太いズボンを履いて、百七十五センチ程もある大きな体と、パーマの掛かったボサボサな髪形をみれば、男と間違えるのは無理もない」
む、む、む、無理も無いだと! 私は般若の形相で中岡編集を睨み付ける。
「あっ、いや、まあ、以後は気を付けた方が良い。ほ、ほら変に恨まれでもしたら良くないからさ……」
中岡編集は尻すぼみ気味に付け加える。
「すみませんでした。気を付けます」
二人は再度頭を下げた。
「…………それでは、この血の池地獄について説明をしていきます…… 宜しいでしょうか?」
私達のそんなやり取りに、我関せず状態だった案内役が口を開いた。




