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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第一章       ● 其ノ五 地獄巡り殺人事件
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松島へ  弐

 新幹線は、郡山を通過して、福島、白石蔵王、仙台へとどんどん進んでいった。


 上手く小事件を回避した私と中岡編集は、車窓左手に見える蔵王連峰の雄大な姿を眺めながら、穏やかな心持でお茶を啜る。


「さて、じゃあ、そろそろいつもの如く、今回の取材先について少々説明しておこう……」


 改まり中岡編集が声を上げる。


「宜しくお願い致します」


 私は小さく頭を下げた。


「今回の目的地は宮城県の松島になる」


「日本三景の松島ですね」


「ああ、その松島なのだが、我々はその美しい景色の松島を見に行く訳ではない。松島のある松島湾は、南に位置する七ヶ浜半島と北側に位置する宮戸島に囲まれているのだが、その宮戸島の裏側、まあ更に北側と云った方が良いかもしれないが、そこに萱野崎という岬があり、更にそこから船で渡らなければ辿り着けない島がある…… そこが今回の目的地になるんだ」


「岬の先の島ですか…… 随分外れの方に行くのですね? そこには何が?」


「ふふふ、知る人ぞ知る。曹洞宗のお寺があるのだ。そして、そこはちょっと変わった趣向が凝らされているのだよ」


 中岡編集が何だが良く解らないが自慢げに云う。


「……寺、と云う事はまた宿坊体験なのですか?」


 私は前に行った大華厳寺を思い出す。


「まあ、宿坊には泊まるが、今回は宿坊体験的な事はしない。まあ、その変わった趣向を見学する為の観光に近いかもしれないな……」


「変わった趣向ですか? そのお寺には一体何が?」


 私は訝しく思いつつ訊いてみた。


「あの辺りは侵食を受けた地形でね、その為に奇岩などが多い事で知られている。その奇岩を利用してある物が作られているという……」


「奇岩を利用した物?」


「ふふふ、実は、奇岩を利用して地獄の世界を再現しているのだよ」


「地獄ですか?」


「ああ」


 中岡編集は楽しげに答えた。


「へえ~、随分と変わった事をしているのですね……」


「まあ、同じような試みをしている施設は、長野の鬼押し出しとか青森の恐山とか別府の血の池地獄とか、日本には幾つかあるがね、ここに関しては穴場中の穴場だと云われているのだ」


「何だか凄そうですね、奇岩を利用して地獄を再現とは…… 広いのですかその島は?」


「いや、そんな大きな島じゃない、江ノ島位の島だな。だが、その島全体が地獄の世界となっているのだ。いやいや面白そうだろう?」


「ま、まあ、面白そうというか、ちょっと恐ろしげな感じもしますが……」


「僕は死後に地獄などへは行きたくないが、地獄の世界がどうなっているかには興味があるんだ。真面目で罪などに一切縁がない僕は天国に行くことは間違いないが、一応見るだけは見てみたいじゃないか、ははははは」


 罪などに縁がないとか云っているが、いつも私を執拗に侮辱している罪はどこに行ったんだ? 私としては侮辱地獄にでも行ってもらいたい位だが……。


 そんな説明を色々受けているうちに、私達の乗った新幹線は静々と仙台駅へと入り込んでいった。


 新幹線から降り仙台駅に降り立った所で、中岡編集が案内表示を指差しながら声を上げた。


「さて乗換えだ。ここからは在来線の仙石線で、野蒜駅まで向かうのだ。


「いつもの鈍行ですね」


「まあ鈍行は鈍行だが、松島湾が車窓から見えるから絶景だぞ」


「へえ~海沿いを走るのですか? 車窓が日本三景だというのは楽しみですね」


 そうして、私と中岡編集は十時四十九分発の仙石線へと乗り換えた。海側の席に陣取った仙石線は、のんびりとしたスピードで、陸前高砂駅、多賀城駅、本塩釜駅と進んでいく。


「あっ、海が見えてきましたよ」


 本塩釜駅辺りから車窓に海が広がってくる。


「いよいよだな、十年前位にこの列車に乗った事があるが、やはり景色が素晴らしかった記憶があるぞ」


 海の上には沢山の島々が折り重なっていた。近い島は色が濃く、遠くの島は色素を失い灰色に近い色合いをしていた。それがまた趣があり、絶景たらしめている。


「あの沖にある大きめの島が桂島だ。その後ろが宮戸島になる。僕等が行くのはその宮戸島の更に後ろ側になるのだ」


 松島海岸駅まで近づくと、近い位置に小さな島が見えてきた。


「あれ、島に向かって赤い橋が架かっているのが見えますよ、その先にお寺の屋根みたいなのも……」


「ああ、有名な五大堂だな、那智の滝と傍に建つ大社の塔もそうだが、あれも松島の絶景を更に際立たせている物になる。あの寺は平安時代頃からあるらしいぞ。一応現在の建物は一六〇〇年代に再建された物のようだか、もう松島の景観の一部と化している事だろう……」


「そうですね、絶景と云われるようになった頃に既に建っていたのなら、もう絶景の一部ですね」


 私は頷いた。


 そんな松島の絶景を眺めつつ列車はひた走り、陸前大塚駅を経て、目的の野蒜駅へと到着した。




 この小説の設定は昭和五十八年頃をイメージしております。東日本大震災により野蒜駅は2011年から2015年まで使えない状態になっていました。東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈り致します。


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