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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
152/539

再び伊賀の町へ  肆

 そうして私達三人は上野市駅に向った。


 駅からは、赤茶色をした二両編成の列車に乗り、青山町のある伊賀神戸駅へと赴く。そこから大村神社までは徒歩十分程の道のりだった。


「真奈美は、お札を返して、新しいお札を買って帰っただけですが、一体何を確認するのですか?」


「いえ、ちょっと」


 私は二人を引き連れ、大村神社の参道を抜け、そのまま本殿に前まで歩み寄る。


「一応、お参りもしたいと思います」


「え、ええ解りました。お付き合い致します」


 脇坂刑事が頷いた。


 私と中岡編集、脇坂刑事は揃って賽銭箱に五円玉を投げ込み、二礼二拍手一礼をした。その後、お札返却場所を確認して、お札の販売所へと赴いた。


「す、すいません、昨日お札を購入した女性の事を、警察に聞かれたと思うのですが、その時の詳細をもう一度お伺いしたいのですが宜しいでしょうか?」


 私は申し訳なさそうに声を掛ける。


「ああ、昨日のお話ですね、では、その時対応した者に代わります」


 そう答えた年配の販売員は奥へ下がり、若い女性を連れてきた。


 連れて来られた女性は困惑した顔をしていた。


「……昨日の事ですか?」


「ええ、聞いた所によると、その女性はお札を購入したとの事ですが、お札とは別に何か買われませんでしたでしょうか? 例えばお守りみたいな物とか?」


 私は頬を掻きながら質問する。


「え、ええ、ご購入になりましたよ。お守りをです」


「そうですか…… そうしましたら、そのお守りと同じ物を私も買いたいのですが宜しいですか?」


 「えっ、あなたもですか?」


「……私では、まずいですか?」


「いえ、大丈夫です」


 女性店員が差し出してきたお守りには結婚成就と書かれてあった。


「ほお~、君には丁度いいお守りじゃないか。でも結婚成就の前に、待ち人望むとか恋愛成就の方が先のような気がするが……」


 隣に居た髷野郎が余計な事を口走る。


「私、これを肌身はなさず持っていようと思います。いつかイケメンで優しい良い人と結婚できるように願いながら……」


 私は軽く中岡編集を睨んでから、女性店員に笑顔を向けた。


「……それでなのですが、昨日の女性はそのまま真っ直ぐ帰られました? おみくじなどを引かれたりなどはありませんでしたか?」


「いえ、おみくじは引かれませんでしたけど、絵馬を書かれていきましたが……」


 販売員の視線の先には紐に結び付けられた沢山の絵馬があった。


「ああ、絵馬ですね、なるほど、お話有難うございました。それでは失礼します」


 私は礼をして、絵馬の置いてある方へ体を向ける。


「……中岡さん余計な事を云わないで下さいよ」


 販売所から数歩離れた所で私は再びキッと睨む。


「いや、だって事実だろう? ま、まあ、イケメンと出会えると良いな…… そのイケメンに雑に扱われるかもしれないが……」


「だから、それが余計なお世話だと云っているでしょ!」


 怒り気味に返している私に脇坂刑事が声を掛けてきた。


「いや、大丈夫ですよ」


「……何が大丈夫なんですか?」


 中岡編集が不思議そうな顔で聞き返す。


「あっ、いや、坂本さんはきっとイケメンと出会えますよ」


 おい、適当な事を云ってないか?


「……どうしてそう思うのですか?」


「えっ、いや、出会えそうな気がするから…… です」


 きっと励ます為に云ったのだろうけど、中岡編集にしつこく追求されてすぐに言葉に詰まり始める。


「それと大丈夫だ。などと気休めな事を云っていますが、イケメンに出会えたとしても、その後に雑に扱われたとしたら不幸ではないかと考えますが、それでも大丈夫なのでしょうか?」


「…………えっ、いや……」


 脇坂刑事は頬を掻く。余計な一言を云ったと後悔しているに違いない。


「この大きく龍馬そっくりな女性がイケメンに出会い、そして付き合う事になった際、あの女は身の程を知らないのよ、だとか、釣り合うとでも思っているのかしら、とか、弱みを握っているのよだから付き合えていられるんだわ、とか、鏡見た事あるのかしら、とか周囲の女性から罵詈雑言を浴びせ掛けられるかもしれませんよ……」


 女子でもないのに凄い想像力だな…… しかしながら私に随分失礼な事を云ってないか?


「更にそのイケメンからもそのうち浮気されたり、イケメンの顔が整い過ぎているが故に激しい劣等感に苛まれたり、性交の際に大きすぎて抱きにくいなどと失礼な事を云われる可能性だってあるのですよ、それでも大丈夫と云えますか?」


「……あ、いや……」


「因みに脇坂さん。あなたはこの坂本と付き合う事が出来ますか?」


 口を挟む間もなく中岡編集が質問する。その質問を受け脇坂刑事がさりげなく品定めするかのようにちらりと私を見た。


「……い、いや、わ、私には妻が居りますから……」


 一呼吸置くなよ! それにそれ逃げ口上だぞ!


「……付き合えないと……」


「いえ、付き合えますけど…… 妻が……」


 どうにも煮え切らない。


「ふう、とにかく大丈夫ではないですね。イケメンと出会い付き合う事になっても決して大丈夫ではないのです。兎に角、分相応が一番です。イケメンではなく凡庸が良い。優しく大らかなのが良い。ついでに体も大きく太っていると坂本の大きさも目立たなくなる。力士なんかが一番良いかも知れない……」


 何やらイケメンが全然駄目みたいな言い草だ。百八十五センチメートル位ある細身で優しいイケメンでは駄目なのだろうか? 私としてはそういう感じが良いのだけど……。


「す、済みませんでした。私、軽はずみな事を云ってしまったようです……」


 もう勘弁してくれと云わんばかりに、脇坂刑事が私と中岡編集の方を向いて頭を下げる。


「……そ、それはそうと、ほら、そろそろ絵馬を見ないと……」


 話を元に戻したいらしく脇坂刑事が叫ぶように云った。


「ええ、真奈美さんが書いたと云う絵馬を私としても見てみたいのですね……」


 私もこの件から離れたいので、絵馬が連なっている場所を指差しながら声を上げる。


「イケメンが駄目だということは、もう解って貰えただろうか?」


 しつこく中岡編集が言及する。


「ええ! もう解りましたよ。兎に角、探しに行きましょう」


「ええ」


 脇坂刑事が頷いた。


 私はそそくさと絵馬のある場所へと歩を進める。


 絵馬の近くまで来ると紐に沢山の絵馬が結ばれてあった。私は絵馬に書かれた内容を確認していく。絵馬は四十個ほどが結ばれていた。脇坂刑事と中岡編集は裏側に回って内容を見てくれている。


「あっ、これじゃないか?」


 中岡編集から声が上がった。


「どれですか?」


 私と脇坂刑事は中岡編集の傍に近づく。


 中岡編集が触っている絵馬には、可愛らしい女性の字で、(大好きな人と結婚できますように。 まなみ)と書かれてあった。


「これですね、なるほど……」


 私は頷いた。


「僕にはよく解らないが、真奈美は誰かの事を好きだったという訳か? しかしそれが何の関係があるんだ?」


 中岡編集は今一理解できないといった顔で聞いてくる。


「いえ、これはこれで一つのヒントだと思います。あくまでまだ仮説ですけれど……」


 私は答えた。


「それでは脇坂刑事、それと中岡さん。もう戻りましょう」


「もういいのですか?」


 脇坂刑事が訊いてくる。


「ええ、ここには、これ以上のヒントは無さそうなので……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて、一気読みしちゃいます! 最後まで読むつもりですが、終わっちゃうのが寂しい、、。 コツコツ読もうかな、、 [気になる点] 特になしー!面白い作品です [一言] 久しぶりに読んでて楽…
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