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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第二章
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事情聴取  捌

「えーと、私の考えですよね…… まず、私なりに動機の方から考えてみますと、怨恨というのは取りあえず無視して、正冶郎さんが死んで徳をするのは誰かという事が重要なのではないかと思います……」


 私は警察に気を遣いつつ小声で説明をし始める。

 

「順当だな」


「こういう大きな屋敷を持つ家には相続や跡目問題が起こる事が多いと思います。まあ通常ですと家の主人が亡くなった後は長男が家を引き継ぐ事になりますよね?」


「そうだろうな」


「しかし、正治郎さんは次男ですのでその辺りの跡目問題に関しては影響は及びにくいと思われます」


「確かに」


「ですが、この事件は布石で今後に正一郎さんも殺されるような事があるなら、百合子さんも怪しく。もし、その百合子さんまで殺されるような事があれば、藤林家の人間を全て始末して、徳次郎さんや富子さん、将太さん、真奈美さんが利を得るという考えも無い訳ではありません」


「なるほど…… だが、あの美しい百合子さんがそんな事をするとは思えないけどな……」


 また自分好みの女性を贔屓目に見てやがる。


「ただ、その辺りに関しては持っている情報が少なすぎますので、動機は置いて於いて、どうやって犯行を行なったかを考えてみたいと思います」


 中岡編集は小さく頷いた。


「まず問題となるのはあの密室をどう作り上げたかです。正直それが解けなければ話にならないし、事件の解決の兆しには遠く及びません。でも逆にあの密室をどうやって作り上げたかさえ解れば、犯人が自ずと見えてくる可能性も高いとも云えます」


「君が得意の密室の謎だな」


「えーと、因みに私が推理小説を書く上で、密室を作るパターンは大きく別けて三つあります。それは第一に心理的に密室に見せる方法と、第二に扉など隙間を外から気付かれないように固めて密室にしてしまう方法、そして第三に何らかの方法を使って鍵を閉める方法になります。簡単に説明しますと第一の心理的な方法と云うのは、本当は密室ではないのに、鍵か掛かっているなどと説明して、戸を破壊して開けた後、一番最後に部屋に入り、その部屋の鍵を気付かれないように部屋の中に落としたりするやり方です。壊した戸の中に鍵があるので密室だと錯覚してしまうという訳です」


 中岡編集は黙ったまま頷いた。


「次に扉を固めてしまう第二の方法と云うのは、戸の隙間を氷や接着剤などで固めて物理的に開かなくするものです。更に取っ手を破壊したりすれば、内側から鍵を掛けられているように錯覚させられます。痕跡を上手く処理すれば本格的な密室に見えてくるのです。そして、最後の何らかの方法を使って鍵を閉めると云う方法は、鉄の棒を引っ掛ける型の鍵のなどで、引っ掛かる部分の隙間に氷を差し込んで、その上に鉄の棒を乗せておくやり方などです。時間が来ると氷が溶けて自然に鍵が掛かるという仕組みになります」


 私はそこまで説明してから天井に向かって大きく息を吐いた。


「さて、今回の件をその三つの方法を照らし合わせて考えてみますと、第一の方法を使った場合では、犯人は戸の傍にいなければいけません」


「ん、百合子さんと富子さんがあの時は戸の前に居たな……」


 少し緊張した顔で中岡編集が頬を掻いた。


「第一の方法を使ったとするならば、中岡さん贔屓の百合子さんか富子さんが犯人と目される事になります」


「…………」


「しかし今回の場合は扉を壊した訳ではなく鍵を開けて中に入りました。富子さん、百合子さんの順番で……。そんな入室状態で、鍵が部屋の入口付近に落ちていたのなら百合子さんの可能性が高くなりますが、鍵は正治郎のポケットの中から発見されたと云う事でした」


「ひ、贔屓は関係なく、僕は百合子の後ろにいたけれど百合子さんが鍵をポケットの中に入れ込んでいようには見えなかったぞ。そして、そんな時間も機会もなかったと思うが……」


「私もそう認識しています」


「そうだよな」


 中岡編集は少し安心したような顔で頷いた。


「それでは続いて第二の方法が使われたと仮定してみましょう」


 中岡編集は頷く。


「ですが、これに至っては、戸の破壊もしていないので無視して良いと考えられます……」


「僕も省いていいと思う」


「となると第三の方法が一番怪しくなってきます。戸の形状は片開きの襖戸です。鍵の形状はもう一度確認しなければいけないと思いますが、確か表側は引き手の下に鍵穴があったと思います。部屋の中側の鍵部分は確か襖に似合うような色形をしていましたがサムターン形式だったような記憶があります。それをいかに閉めるかが肝ではないかと……」


 ようやく睡魔が襲ってきたのか、私は大きな欠伸を天井に向かって吐いた。


「……ただその部分はよく見てちゃんと観察した訳ではなく、うろ覚えなので、現在の状態で想像するには限界があります。もう一度それを見てみないと正直それ以上の事はいえないと思います……」


「じゃあ、明日になったらそれを確認してみようか?」


「そうですね、この先の話はそこを見てからです。ふああああああああっ、なんだか眠くなってきましたよ……」


 私は再び欠伸をする。


「僕も少し眠くなってきてしまったかな……」


 中岡編集も目を擦り始めた。


「じゃあ続きは明日の朝にしましょうか……」


 そんなこんなで私と中岡編集は座布団の掛け布団を腹に乗せたまま、いつのまにか眠りに落ちていってしまった。


 事件の件やアロマの件で精神的に疲れていたのかもしれない……。

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