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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第二章
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事情聴取  参

 しばらくすると百合子と脇坂刑事が戻って来た。脇坂刑事の表情は何故か少し引き攣っていた。


 脇坂刑事の後ろから、着物姿の女性を筆頭に、二人の刑事風な男が入ってきた。その着物姿の女性は年の頃は四十歳前後と思われ、中々に大人の魅力を携えている。


 だが、妙な所があり、髪はやや高い位置で一つに纏め上げられており、着物は男物の着物であった。そして身丈の長い着物ではなく、薄蒼い上着物と袴、そして羽織を身に纏っている。


 どうして着物姿なんだろう……。


 私はそう思わずにはいられない。


「し、紹介します。県警の石田警部です」


 脇坂刑事がその着物の女性を指し示し紹介する。その女性は涼しげな顔をしながら一歩前に出て軽く頭を下げた。


「私は三重県警の警部で石田三成子と申します。三成子と書いてみなこと読みます。本殺人事件の責任者を任されました。宜しくお願いします」


 なんだか嫌な気配がする。脇坂刑事がツボった原因がここにあるような気がしてならない。


 藤林家の人間は、その石田三成子警部に軽く頭を下げる。


 脇坂刑事は先程まで自分が座っていた場所を石田三成子警部に譲り傍に立った。


「恐れ入りますが失礼いたしますぞ」


 石田三成子警部はその席に静々と腰を下ろす。兎に角所轄である伊賀署から県警に担当が変わったようだった。


「さて、今回、伊賀署の脇坂刑事から聞いた話によると、鍵の掛かっていた部屋の中で、誰にも気付かれる事無く、この家の次男である藤林正治郎さんが日本刀で刺し殺されていたと…… ご愁傷様でござりまする」


 石田三成子警部は目を瞑り手を合わせた。妙に物腰が美しい。何かの稽古のようだ。


「さて、まだここに戻られていない方もいるようですが、ここにいる方々の事件があった頃に何をされていたかをお伺いしていきたいと思うのですが宜しいでしょうかな?」


 石田三成子警部は切れ味鋭そうな顔で聞いてくる。


 藤林家の人々は顔を見合わせながら複雑な顔をするも、頷いて同意の意を示す。


「当然で御座います。お答えしてまいります……」


 先程まで座っていた自分の場所に腰を下ろしながら改まって百合子が応えた。


「恐れ入ります」


 石田警部が静々と頭を下げる。


「と、ところで、女の警部さんというのは珍しいですね、それと和服だというのも…… 弓道か何かの稽古のお帰りの途中とか?」


 百合子も気になったのか質問する。


「いえいえこれは私服です。私服が洋服であるという決まりはありませんのでね、日本人は和服が一番。和服の警部というのがいても良いでしょう。もっと皆さんも和服を着たほうが良い」


 石田警部は笑って答えた。そして部屋を見回しつつ少し躊躇いがちに口を開く。


「……因みになのですが、こちらのお屋敷は随分広く立派でありますな…… そして、このお部屋も広く使い勝手が良さそうです。それで差し出がましいお願いなのですが、事件がある程度落ち着くまで捜査の拠点としてこの部屋をお借り出来ると有難いのですが難しいでしょうか? いえいえこの家まで登ってくる道は随分と細く、車が入ってこれんのですよ、それに一番近い河合駐在所も五キロ程離れておりますし、色々と難しい状況だと云うのもありますし……」


 その質問に百合子は戸惑いながら母親に視線を送った。母親は小さく頷く。


「えっ、ええ、それは別に構いませんが……」


 百合子が戸惑いながら答えた。


 こんな状況に出くわすのは勿論初めての事だろう。警察の要望を断って良いのか、従うべきなのかの判断が付かないと思われる。


「おお、それは助かる。有難うござりまする」


 石田警部は額を畳に擦り付けんばかりに頭を下げお礼を云った。一々大仰だ。


 そして、改まり、百合子の方へゆっくり視線を送った。


「……それでは、そのまま続けてで恐れ入りますが、貴方から、お話をお伺いしていただいても宜しいですか?」


「え、ええ」


「それでは、お名前を仰って頂いた後、事件があったと思われる朝から昼間までに何をされていたか教えて頂けますでしょうか?」


 石田警部の問い掛けに、百合子は姿勢を少し正したあと、ゆっくりと話し始めた。


「わたしは、この家の長女の百合子と申します。今日は朝、九時頃に起きて、母と軽めの朝食を取りました。朝食を作って下さったのは富子さんです。十時ごろまで母とお茶を飲んだりしてのんびり過ごしていました。その後、母と父の部屋に行き、病気の父の食事の補助をしました。父は私か母の手からしか食事を摂りませんので時間を掛けてゆっくり食べさせました。確か、食事が終ったのは十一頃だと思います。父の部屋から出て、台所へ父の食べ終わった食器を運んだ後は母と一緒に神棚の掃除をしていました。それから、えーと、神棚に備える榊を入れ替えようと思い、玄関脇にあった榊の木から新しい枝を取ってこようと考え外へ出ようとした所で、そちらの方々にお会いしたのです」


 百合子は私と中岡編集をチラッとみた。


 そういえば最初に門の所で会った時、百合子が庭に生えている木の枝を折って、その枝を持ち歩いていた事を思い出した。いつの間にか枝は手から無くなっていたので、遺体発見時に何処かに置いたのかも知れない……。


「なるほど、朝から母さまとご一緒だった訳ですね、そして、そのままお母様とご一緒にお父様の部屋に行かれ、お父様の食事の後はお母様と一緒に神棚の掃除をされ、その後は小説家の先生と出版社の編集さんと一緒だったと……」


「ええ」


「因みになのですが、お一人で居られた時間はどの位ありましたでしょうか?」


 石田警部は時系列を追いながら端的に聞き返す。


「そうですね、トイレなども含めて考えてみても、完全に一人だった時間は殆どなかったと思います。あったとしても二、三分と云った程度でしょうか…… 朝食事をとったのは居間ですし、神棚があるのも居間です。父の食事の補助をしていた時も母と一緒でしたから、本当にずっと母と一緒にいたような感じです。居間から庭へ出た時は一人でしたが、すぐにそちらの方々にお会いしましたし……」


 百合子は再び私と中岡編集をチラリと見ながら云った。


 石田警部には私が小説家であるという説明をまだしていない。恐らく到着した後に脇坂刑事から細かな話を聞き及んでいるのだろう。また朝から昼まで何をしていたかを聞いて、夜中の事を聞いてこない所をみると、大凡の死亡推定時間が午前中だったという情報も聞き及んでいる可能性もある。また部屋に来るまで随分時間も掛かっていたので、正治郎の部屋の状況などに関しても色々確認しているのかもしれない……。





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