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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
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事件発生  壱


 翌朝、私達は荒々しく引き戸を開ける音で目を覚まさせられた。


 私は眠い目を擦りながら襖を開け、隣の部屋が見えるようにすると、清子が緊張した顔で玄関部分に立っていた。


「お、お早うございます。一体、ど、どうしたんですか?」


 戸に近い場所に寝ていた中岡編集は、目を擦りながら何とか声を上げる。


「た、た、た、大変な事が起きました。中岡様、坂本様、一緒に来てくださいまし」


 清子は、強張った顔をして、私達に訴えてくる。


「何があったのですか?」


 中岡編集が訝しげに訊いた。


「いいから早く来てください」


 清子からは細かい説明はなされない、緊張した顔のまま促してくる。


「解りました。すぐ行きますよ」


 中岡編集は上着とズボンを履き直す。私も昨日履いていたロングスカートとカーデガンを身に着けた。余り着替えを多く持ってきていないので仕方がない。


 そして私達は眠い眼を擦りながら清子に付いて庵を出た。


 外は日が出てから一時間程経過しているようで、随分明るくなっていた。恐らく七時頃なのかもしれない。


 清子に引き連れられ、母屋の玄関脇を抜け建物の裏手側に向かうと、先の方に人垣が出来ていた。それは昨日穴山老人と対面した時、左右にいた親族や家族のようだった。


 その人垣の隙間から、私は恐ろしいものを見た。


「ひっ!」


 私は思わず声を漏らす。


人だ。人が倒れているのだ。


 その人物は、建物の土台となっている石垣から五メートル程離れた地面に顔を横にした状態でくっ付け、手は横にダランと広げ腰と尻を上げ、前傾状態で突っ伏しているのだ。


目はカッと見開かれ、鼻と口からは血が流れていた。それは昨日対面した穴山老人、その人であった。


 私は驚きのあまり、悲鳴以外の声が出てこない。ただただ、その穴山老人の恐ろしい形相を見続けた。そして、その目も当てられぬ惨状に、激しい怖気が背筋を這い進んでくるのを止められない。


「ど、ど、どうしてこんな事に……」


 横にいる中岡編集も動揺気味に声を上げる。


「け、今朝、私が屋敷の前庭に出た所、このような状況に出くわしまして……」


 傍にいる眼鏡を掛けた、五十歳前後の男性が声を震わせながら呟いた。


「あ、あそこから落ちてしまったのでしょう……」


 傍に居た妻の静子が、まるで天守のような構造である屋敷の上部を見上げた。 


 見ると最上部の部屋の襖が大きく開け放たれていた。その襖の前にはベランダのように張り出した廻縁が下側の屋根に乗っかる様に設けられている。


 あそこは確か穴山老人が寝泊りしている部屋だと清子から聞いていた場所だ。低めの石垣ながらその石垣の上に三階程の建物が乗っているのでかなりの高さがある。その三階部分からとなると、マンションなどの四階相当の高さから落下したことになるだろう。


「い、いずれにしても、早く、け、警察に連絡をしなきゃ!」


 私は何とか声を発する。


「一応、連絡は入れておきました……」


 先程の眼鏡を掛けた五十歳前後の男性が答える。


「あっ、警察じゃなく救急車を呼ぶべきだったでしょうか?」


 男性は気が付いたように誰とはなしに聞く。


 しかしながら、穴山老人はどうみても完全に死に絶えてしまっていた。今から蘇生するとは到底思えない。


「……いえ、主人は残念ですが死んでいます。警察でいいと思います……」


 妻の静子が感情をあまり表さずに答えた。皆、悲しみより驚きのほうが強いらしく、唖然として余り思考が回っていない様子に見えた。


 とにかく私と中岡編集は訪問先で恐ろしくとんでもない事態に遭遇してしまったのである。





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