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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第九章
122/539

事件解説  伍

 そうして、躊躇いがちな飛鳥を連れて、美津と福子が部屋を出て行った。


 丁度入れ違いに、手帳を握り締めた堀尾刑事と、釣り糸の束のような物を持った中村刑事が部屋に入室してきた。


 呉羽はそれを横目で確認しながらゆっくりと口を開いた。


「私がどうして村上道正を殺害しようかと思ったかを説明する前に、私と姉の最低な父親である飯塚庄九郎と、悪魔のような男であった村上道正の所業をお話しさせて頂こうと思います」


 私は小さく頷いた。木下警部も少し離れた場所で小さく頷いた。


「私達の父、飯塚庄九郎は、今更もう言うに及ばないのですが、からくり師でした。一言云っておきますが、からくり師と言う仕事はあまりお金になる仕事ではありません。伝統工芸協会などと繋がりを持っているのであれば、まだ仕事が来るでしょうけれど、私の父は人付き合いが苦手でしたから仕事も少なく、借金ばかりが積み重なり、いつも酒を飲んで管を巻いている事が多い人でした。そのくせ、そんな自分を恥ずかしいと思っていたのか、その劣等感の裏返しのように、私達にも、私達の母にも辛く当たり、酒を飲んでは暴力を振るうといった事を繰り返していました……」


 呉羽は小さく息を吐き出す。


「しかし、そんな父に転機が訪れました。汽船会社で成功していた村上道正から声が掛ったのです。瀬戸内海の島に、島城を再現した建物を建てているのだが、電気はあまり使いたくないから、からくりで電気の代わりを為す物を作ってくれないかとね」


 そのあたりの話は本土から堀尾刑事から齎されたものと相違はなかった。


「その対価は随分法外なものだったと聞いています。父は嬉々としてお城に赴き、昇降機を手掛け、水車を作り、水車の動力を利用した発電機、寝室の間の隠し部屋、水車の動力を利用した蒸留水製造設備、、床の間に飾るからくり入りの具足、張り出した石落としを利用した厠などを作っていったようです」


 呉羽は躊躇いがちな表情を作り上げ唇を噛んだ。


「……しかし、そんな中で村上道正がとんでもない事を言い出したのです、それは、家に依頼に来た時に対応した姉を見初めたので嫁に欲しいというものでした」


 呉羽はチラッと料理番に視線を走らせた。


 その視線に気づいた料理番は顔を伏せる。


「父と村上道正の間にどんな約束が取り交わされていたかは、当時小学生だった私には解りませんが、父は姉の意志など聞かず、半ば強引にその男の下に嫁に出してしまったのです。姉には当時お付き合いしていた男性がいたにも関わらずに……」


 呉羽の声が少しずつ感情的になっていく。


「そして借金があった筈なのに、その取立てがいつの間にか無くなっていました。そして、その上父の金遣いがどんどん荒くなっていきました。恐らく村上道正に借金の肩代わりをしてもらい、姉が嫁いだ事で多額の結婚支度金を貰ったのではないかと思いました」


 呉羽は呼吸を整える為なのか再び大きく息を吐いた。


「……そして、父がお金を貰ってしばらくして、驚くべき事に、父は私と母を捨てて居なくなりました……。何処へ行ったのかも定かではありません。お金は殆ど父が持っていってしまいました」


「そ、それは……」


 私は言葉を発しようと試みるも、その酷い父親ぶりに後が続かない。


「……その後、母は苦しい生活ながら、なんとか女手一つで私を育ててくれました。そして、それから十二年程が過ぎ、もう父の事などどうでも良いと思っていた矢先に、青森の病院から連絡が入りました。それは父が亡くなったので、遺体を引き取って欲しいという連絡でした。最初は断りましたが、病院側が引き取ってもらわなければ困ると云うので仕方がなく引き取りに行った所、父には所持金が有りませんでした。私達を捨て持ち去った金は全て使い切っていたのです。私は父の亡骸を見ながら、なんという酷い男だろう。なんという身勝手な男だろうと心の底から思いました……」


 呉羽の目からは悔し涙が流れ落ちる。


「……それから四年後、長年の苦労が祟ったのか母が亡くなりました。私が二十八歳の時でした……」


 私は居たたまれない気持ちになり小さく頭を下げた。


「その後、私は母の死を姉に伝えるべく、そして唯一の肉親である姉に会おうと思い、村上道正の海運会社へ連絡を入れました。しかし村上は島に居るという事で中々連絡がつきません。なんとか連絡が取れ、尾道の料亭で村上と会う事になりました。しかし会って話をするも、中々姉の事を話してくれません。そしてようやく聞き出した言葉が、姉が病気で既に亡くなっているという事でした。私は唖然としました。あの時ほどショックを受けた時はありません」


 呉羽は顔を横に振った。


「村上は、困った事があったら何でも云いなさいだとか、お金を用立てるとか、もし居場所がないなら家へ来なさいだとか、妙なくらい親身な事を言ってきました。私はこれは何かあるのではないかと思い、招かれるままこの城へとやってきたのです。その際、元妻の妹というと、家に置きづらいという事で、実の妹という事になりました……」


 私はそれを聞いて始めて、呉羽が実の妹ということになっていたのは村上氏の発案だった事を知った。


「この城にやってきてから、私は姉がどのような形で亡くなったのかを、それとなく調べていったのですが、皆さん口が堅くて、一向に詳細が掴めないでいました。かれこれ城へきて二ヶ月程した頃に、後添えがこの城にいる状態だというのに、なんと村上が私に肉体関係を求めてきました。恐らく姉に似ていた事などが欲求を高めた原因だったのかもしれません。私も情報を入手する為に、甘んじてその関係を受けました」


 その話を横で聞いていた現妻の初が辛そうに顔を横に振った。


「妻がいる身で、その妻との行為もありながら、村上は私との行為も精力的に望んできました。村上の精力はまるで尽きる事が無いかのようにです。そして村上の行為は次第に過激さを増していきました。そして、さらに変質的な方向へと向かっていきます。その頃になって私はあの隠し部屋の事を打ち明けられました。打ち明けられた後は、当然その部屋での行為を求められました。拘束され身動きが出来ないまま凌辱されました。そんな日々が続いてしばらくして、村上は私に対して油断をしてきたのでしょう。とうとう姉がどうして死んだのかをこぼしたのです」


 その話を横で聞いていた源次郎と幾島は強張った顔をしていた。当然その当時どのような事があったかを知っていて、それを黙認していた筈であるからだ。


「私は話を聞いて唖然としました。姉は、風邪を拗らせ肺炎になったらしいのですが、そんな状態にも関わらず激しい行為を要求し、無理強いしていたようなのです。そして執拗な行為の末、ついに姉は体が弱り果て、運悪く亡くなったという事でした。確かに現在私が求められていた行為と、恐らく現在の妻である初さんの受けられている行為を、一身に受けていたとするならば相当大変な目に遭っていた事でしょう……」


 想像するに、相当アブノーマルな行為が繰り返されていたのではないかと思われた。


「私の中に、いつこの男を殺してやろうか、という思いが浮かんできました。そんな思いを持っていた所に、村上が悪魔のような考えを持っていることを匂わせててきました。直接的な事はいいません。でもその雰囲気からどういうことを企んでいるかが伝わってきたのです」


「……そ、それは、娘である飛鳥さんに手を出そうとしていた事ですか……」


 私の問い掛けに、呉羽は驚き目を見張った。


「そうです。あの悪魔のような男は、実の娘である飛鳥さんにまで、己の欲望を満たす為に関係を持とうと考えていたのです」


 呉羽は険しい表情を作りあげる。


「もはや猶予もありません。村上が飛鳥さんに手を出す前に村上に天誅を与えなければなりません。私は飛鳥さんにこれ以上不幸になって欲しくなかったのです。それで姉の恨みを微かに匂わせながら殺害する為の仕込みを行っていったのです」


 そこまで話して、ふと呉羽が軽く笑った。


「殺害した仕掛けに関しては、坂本さんが説明された事で大体合っています。船を使って夜中の三時頃にからくりが動くようにしましたし、万一外れた場合は姉の恨みを匂わせておいて翌日毒殺するつもりでしたから……」


「呉羽さん、もしかして、あなたは飛鳥さんが疑われるようなことが生じれば自白されるおつもりだったのですか?」


「ええ、姉の恨みと飛鳥さんの為に行ったことですからね、迷宮入りということにならなず、万一飛鳥さんが疑われるようでしたら告白するつもりでしたよ」


 呉羽は再び軽く笑って答えた。


「いずれにしても私は仕掛けを施し、飛鳥さんの身を守り、姉の敵を取ったのです……」


 そして呉羽は口を閉じた。

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