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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第九章
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事件解説  壱

 そうして、それから一時間後、最初に待機場所にしていた天守の三層目の板敷きの広間に皆が集められた。


 部屋で休んでいた妻の初や妹の呉羽、娘の飛鳥は多少疲れが取れた顔をしていたが、待機場所に長い時間留められていた源次郎、幾島、美津、福子、料理番は随分疲れた顔をしていた。


 ただどの顔もこの城の主人が亡くなった事を憂いている為か、暗く沈んでいることには変りはなかった。


 城の住民達は最初の時と同様輪になって座り、部屋の端の方に、木下警部と鑑識の人間等が佇んでいた。中岡編集は住民と警察の間辺りにちょこんと座っている。中村刑事と堀尾刑事の姿はまだない。調査に時間が掛かっているのかもしれない。


 私は壁際に立ち、まるで教師のように皆を見詰める。城の住民達には木下警部から説明がなされたようで、私が教師のように立っている事を訝しげに見ている人は居なかった。


「えー、皆様お集まりいただきまして真に恐れ入ります。昨夜、午前三時頃、この城の中の内側から鍵が掛けられた一室で、この城の主人である村上道正氏が殺害されておりました。誠に驚くべきことで、改めてご冥福をお祈りしたいと思います……」


 初、呉羽、飛鳥は私を見て小さく頷き返してくる。


「……さて、そんな事件を私なりに色々考察してみていたのですが、どのような状態で、ご主人様が殺害されたかという所がようやく見えてきたので、その説明をさせて頂きたくお集まりいただいた次第です」


 源次郎や幾島は緊張の面持ち顔で私を見詰めている。


「ど、どうやってご主人様を殺害したかが坂本さんには解ったというのですか?」


 源次郎が探るように聞いてきた。


「ええ、恐らくこのような方法が取られたのではないかという事が解りました」


「それは一体?」


「……それを今からご説明させていただこうかと思います」


 私がそう言及すると、料理番が苛立たしげに声を上げた。


「なんで警察じゃなくて、あんたがそんな説明をするんだ?」


「あくまでも私個人で思いついた事を皆さんにお話したいと思っただけです。その話を警察の方々にも聞いて頂き、参考に出来るなら参考に、参考に出来ないのなら参考にせずにして頂ければと思いまして……」


「まったく、出しゃばったことしやがって…… お前みたいなモッサイ奴に本当に解るのかよ……」


 料理番は吐き捨てるように言った。


 モ、モッサイだと!


 聞き捨てならない一言を云われ、私はキッと料理番を睨み付ける。


 何なんだ一体! 穴山家の人間とテレパシーで繋がってやがるのかよ、同じことを云いやがって!


 私は激しい憤りを感じる。


「わ、私はモッサクなどありません。兎に角、私の思いついた事ではありますので私の口から話させて頂きます。そして、警察の方々から多くの情報提供をお受けしている事は断っておきます……」


 私は僅かに肩を震わせながら木下警部を見る。


 木下警部は少し笑いながら小さく頷いた。


「解ったよ、じゃあ、そのモッサクないという持論を聞かせて貰おうじゃないか?」


「……え、ええ、解りましたとも、ちっともモッサクない持論を披露したいと思います……」


 私は歯を喰いしばりながら答えた。


「それでは順を追って説明していきたいと思います……」


 私は大きく息を吐き呼吸を整えてから話を切り出し始める。


「えーと、昨夜、午前三時頃、村上氏は弓曳き童子のからくりが仕込まれた具足が放った矢を胸に受けて亡くなられました……。しかしその部屋には鍵か掛けられていて誰も入る事が出来ませんでした。その時間に村上氏の部屋の周辺に立ち入った気配はなく、誰かそのような仕掛けをしたのかが解らない状態になっています」


 皆は真剣な眼差しで私の話に耳を傾け始める。


「誰がそのような仕掛けをしたのか解らないのもありますが、それ以前に、どうやって矢を放ったかという事や、どうやって村上氏に命中させたかも解らない状態に陥っています……」


 私が説明すると美津と福子が僅かに頷いた。


「村上氏は寝ていました。布団はいつも定まった位置に敷く事になっていたようであります。ただその場所は運悪くからくり具足が矢を放った場合の軌道上に近い場所にありました。からくり具足を正面から僅かに左に傾けるだけで村上氏の寝ている真上を通過させる事が出来たのです。村上氏がどの場所にいつも寝ているかを把握していた犯人は、前もってその位置に矢が通過するようにしていたのだと思われます」


 布団を敷いた幾島は強張った顔をする。


「真夜中の三時頃、からくり具足は動き出し、矢筒から文の結ばれた矢を抜き取り、それを番え放ちました。一本目の矢は首に和紙が矢文のように結ばれた状態でした。その和紙の特徴としましては結んだ残りの部分が十五センチメートル程ありました。矢は矢文の結びしろを八の字に張り出したまま村上氏の顔の上を通過していき壁に突き刺ります。矢は回転しながら飛びます。恐らく結びしろはプロペラのようになっていた事でしょう。顔の上に何かが触ったことに驚いた村上氏が体を起こします。そこへ二本目の矢が飛んできて村上氏の胸に突き刺さります。そして次の矢、また次の矢が胸に突き刺さったのです。全ての矢には毒が塗られていたようなので、かすり傷でも絶命していた可能性が高いという話が鑑識さんから入っています」


「ちょっと待ってくれ、それじゃあ、矢が当たらない場合だって考えられるだろう。ご主人様が目を覚まさなければ矢なんて当たらないじゃないか!」


 私の説明に料理番は異議を唱えた。


「た、確かに当たらない可能性がないとは云えません。恐らくもし当たらなかった場合には、その事は警告という事にしておいて、あとで別の方法で殺害する計画を立てていたのではないかと思います。ですが私としては、村上氏が起き上がる可能性は相当高かったのではないかと思います」


「どうしてだ?」


 料理番が訝しげな顔で聞いてくる。


「仮に矢に結ばれた和紙が顔に接触しなかったとしても、何かが顔の上を通過した感覚は残ります。なので目を覚まさせる効果は得られると思います。また矢が壁に突き刺さった音、矢を放った後の弓の弦の放つビイインという音、それが四回も続く訳ですから、何事かと思い目を覚まされる可能性は高いのではないかと思います。そして村上氏の部屋には無いと不便だった為か、電気が通じていて、村上氏の布団の真上には竹で編んだ和式の照明がありました。その照明は紐を引っ張ることで光が付く形式のものですから、目が覚めた村上氏が真っ暗な部屋の中で目を覚まし、明かりを付けようと思って手を伸ばした所に矢が襲ってきたという事も考えられます……」


「ほ、ほう…… な、なるほどな……」


 料理番はある程度納得したのか、声を少し落として返事をした。他の者達の顔にも理解の色が見えた。


「それでは続きまして、どうやってあのからくり具足を動かしたのかを説明していきたいと思います」


 皆は小さく頷いた。

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