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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第八章
116/539

考察  参

 階段を登り、村上氏の部屋に入り込むと、木下警部と中村刑事は、遺体周辺を見ながら真剣な面持ちで話し込んでいた。


 その様子をみると、警察は飽くまで私の意見は参考程度として利用するだけ利用して、基本的には独自に見解を見出そうとしている気配が窺えた。


「……ただ今戻りました」


 私と中岡編集は頭を下げながら二人の傍に近づいていく。


「おお、坂本さん。どうでしょう新たな糸口でも?」


「え、ええ、まあ」


 私が続けて説明しようとすると、そこに慌てた様子で堀尾刑事が駆け込んできた。


「警部、本土の方から、連絡が入って参りました」


「おお来たのか、今回のは参考になる情報が多ければ良いですが……」


 私との話は中断となり、木下警部は堀尾刑事からの報告を聞く体勢になった。そのままの流れで私と中岡編集も横で話を聞く。


「今回は結構重要な物が多いと思いますよ」


 堀尾刑事は少し興奮気味に答えた。


「では、はじめに、結構重要な内容からご説明させて頂きます。これはかなり重要なことですよ。警部、驚かれないで下さいね」


 堀尾刑事はもったいぶった様子で手帳を広げた。


「早く説明をして下さい」


 警部は急かすように言及する。


「は、はい」


 堀尾刑事は手帳を見ながら説明を始めた。


「実はですね、村上道正氏の先妻が、からくり師、飯塚庄九郎の娘だという事実が判明しました」


「な、なんだと! 本当かねそれは?」


「ええ、本当です。色々調査した結果その事実が浮上してきたそうです」


 さすがに私もその事実には驚いた。


「なんと…… なるほど、そうか、そうなのか」


 木下警部は驚いた表情のまま私を見た。


「とすると、さっき現夫人に聞いた話に繋がってきますな、え~と、なんでしたっけ坂本さん」


 木下警部が頭を掻きながら聞いてくる。


「……飛鳥さんのお母様が、好きだった男性と無理やり別れさせられ、親の命令で主人と結婚させられたという話ですね。そしてあの矢に付けられていた、私の恋は、まるで三島の浜のからっぽの貝のようです。とても虚しくて、あなたの名前を思い出すだけでとても苦しくてたまらない。という句にも関係がありそうな……」


「それだ! それですよ」


 木下警部は腕を組み考え込む。


 私も村上道正氏の先妻が、からくり師、飯塚庄九郎の娘だという事実を耳にして、やはり今回の事件には二十年以上前からの古い因縁めいたものを感じずにはいられない。


「それと、前回の報告の際に説明させて頂いた、飯塚庄九郎に多額の借金があった事と、村上道正氏がこちらの城を築城するにあたって、飯塚庄九郎に色々なからくりを仕込んで欲しいと依頼が入り、相当なお金が対価として飯塚庄九郎に支払われたという事も繋がってくる訳です」


 堀尾刑事が説明を続けた。


「うむむむむむ、とすると、前妻は村上氏に良い感情を持っていない事になるな……」


 木下警部は眉根を寄せる。


「だが、飯塚庄九郎は妻と子等を捨てて蒸発したと先程の報告では聞いていたが、という事は、その前に無理やり結婚させられたと言う事なのですか?」


「そのようですね、飯塚庄九郎は娘を売るような真似をしてから、妻を捨てて蒸発してしまったようです」


「結婚適齢期だったのかもしれませんが、いくら相手が金持ちで金銭的に不自由がない生活が送れたとしても、好きな男と別れさせ無理やり結婚させるとは、随分酷い男ですね飯塚庄九郎という男は……」


「お金で人は狂いますからね」


 堀尾刑事が呟いた。


「しかしながら、その無理やり別れさせられた男というのが怪しいですね、その男は今どうしているのですかな?」


「実は……」


「まさか、この城にいるとでもいうのですか?」


 木下警部は驚いた表情で聞き返す。


「ええ」


 堀尾刑事が再びもったいぶった顔で頷いた。


「塙源次郎ですか?」


「いえ、違います」


 堀尾刑事は顔を横に振る。


「まさか料理番の男ですか?」


 堀尾刑事が顎を引いた。


「ええ、実は……」


「なんと!」


 木下警部は驚きの声を上げる。


 私もその話を聞いて驚きを隠せなかった。


「料理番の越中三郎の名前は偽名です。本名は河野安夫、料亭に料理人として入り込んでいる間に料理人名として越中三郎の名前を使用し始めたようです。料亭勤めの以前は、日立市で割烹居酒屋を経営していたようですが、火事で店を失ってしまったとの事でした。顔の火傷はその時のもののようです。その後日立を離れ尾道に流れ着いたと……」


堀尾刑事は手帳を見ながら詳細を答える。


「いやはや、そんな素性の男だったとは…… だとすると動機の点では一番可能性が高い事になりそうですね」


 木下警部は頬を掻いた。


「でも、それを聞くと、先程の娘の飛鳥との接触も気になるところですね」


 中村刑事も腕を組んで呟いた。


「そういえばそうですね、とすると、娘の飛鳥も怪しくなってくるが……」


「ええ……」


 中村刑事は困惑した顔で返事をする。


「となると動機の点が弱いのは、妹の呉羽と妻の初という事になりますが……」


 木下警部は小さく呟いた後、堀尾刑事に視線を送る。


「それでは塙源次郎はどうです? 料理番の男のような因果関係はありましたか?」


「いえ、塙源次郎には特にそのような因果めいた事はありませんでした。今回わかった情報では、この城で働く前は福山琴の製造の会社に勤務していた事が解っただけです」


「福山琴というと、伝統工芸のですか?」


「ええ、報告によると二十五年程前から二十年前まで働いていたようですね」


 私はふと源次郎の指の事を思い出した。琴という楽器は指が三本あれば弾けてしまう楽器である。指が三本しかない源次郎は事情からそういった会社を選んだのかもしれない……。


 堀尾刑事が手帳を捲った。


「……実は妻の初の方にもなのですが、ちょっと因果関係のようなものが浮上してきました」


 堀尾刑事が声を上げた。


「因果関係ですと、何ですかなそれは?」


「えーっ、妻の初なのですが、後添えとして村上道正氏と籍を入れたのが二年前、二十六歳の時になります。村上氏のフェリー会社で秘書として勤務しておりまして、その後求婚されたとの事でした。ですが二十六歳の若さで当時四十八歳の村上氏と結婚するのは少々無理があると思いまして、その点を重点的に調査をしてみた所……」


「何かあったか?」


「ええ、裏がありました。初の実家には相当な借金があったようなのですが、初との結婚前後にその借金を村上氏が肩代わりして支払っていたという事実が浮上しました。それ以外にも結婚支度金としてかなりの額が初の実家に送られていたようです」


「な、なんだと、そ、それに、その話どこかで聞いたことがありますね……」


「……前妻の時と同じですね……」


 横で中村刑事が呟いた。


「おいおい、村上氏の結婚はその手ばかりじゃないか」


 木下警部は呆れたように言及する。


「まあ、その方法なら年齢は関係なく、簡単に好みの女性を手に入れられますからね」


 堀尾刑事が答えた。


「まさか現在の妻である初も好きな男と別れさせられ、無理やり結婚させられたでもしたと云うのですか?」


「いえ、初の方はそのような話はないようです。借金の肩代わりという条件で、双方合意した可能性が高そうです」


「……だが、動機には結びつきますね、実家の借金を払ってもらって結婚、だが、まだまだ若いからこの生活から開放されたくて殺害…… 遺産の半分は自分が貰い受けると……」


「確かに良くある動機ですね」


 中村刑事が呟いた。


「しかしながら、調べが進むにつれてどんどん怪しい人物が増えてきますね…… 女中を除けば動機が弱いのは妹だけですよ」


 呆れ気味に木下警部が言い放つと、横で中村刑事が呟いた。


「妹も解りませんよ、男女関係の縺れで…… なんて事がないとは言えませんしね……」

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