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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
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昇降機と水車  参

 そうして、木下警部、私、中岡編集、中村刑事は再び天守閣三層目の待機場所へと向かった。待機場所で待機し始めてから、かれこれ八時間程が経過している。部屋に戻ると、皆疲れた顔をしていた。


「まだ、待機しなければいけないのですか? いいかげん、もうお腹も空いてきましたよ」


 女中の美津が木下警部の姿を見留めると、辟易とした声を上げる。


「申し訳ありませんが、もう少々お待ち頂けると幸いです」


 木下警部が皆を見ながら頭を軽く下げる。


 それを横目で見ながら、私と中岡編集は先程まで自分達が座っていた場所に戻っていった。


「おい、あんたらは今まで何していたんだよ?」


 料理番の男が中岡編集の顔をジロジロ見ながら怪訝な顔で訊いてきた。


「いえ、ちょっと警察の方々の協力をすることになってしまいまして……」


 中岡編集はしどろもどろに説明する。どうにも中岡編集はこの料理番が苦手のようだ。


「はっ! なんだ、あんたが警察の協力をする事になっただと!」


 それを訊いた料理番の男は声を荒げた。


「なんだなんだ! 初っ端、偉そうに探偵の振りをしていたかと思えば、今度は警察の手伝いだとか称してまた探偵の真似事をするつもりかよ」


「い、いえ、僕はもう探偵の振りなどするつもりはありませんよ……」


 中岡編集は萎縮しながら答えた。


「警察の協力をするんだろ? じゃあ何なんだよ?」


「僕はワトソンです」


「ワトソンだあ?」


「ええ、僕には探偵の能力が乏しいので、僕は探偵助手のような真似を……」


「お、同じことじゃねねえか! 探偵の能力が無いから探偵助手をするだと! 探偵の能力がお前に有ろうが無かろうが知らねえけど、探偵だろうが探偵助手だろうが探偵の真似事には変わらねえだろ!」


 中岡編集の変な言い訳に料理番の男はどんどん苛立ちを募らせていく。


「まあまあ、中岡さんは置いて於いて、坂本さんは推理小説家をされておりますし、目の付け所が中々斬新でらっしゃるのです。それもありまして警察の方で協力して貰う事になったのですよ」


 中岡編集の存在は雑に置いて於かれた。


「ふーん、その女が探偵として協力をねえ……」


「ええ、なので警察に協力をすると思って、坂本さんの質問に答えて頂けると有り難いのです」


 木下警部は頭を掻きながら少し頭を下げる。


「まあ警察がそう云うのなら一応は協力はしますけどね……」


 料理番は小さく頷いた。


 そして中岡編集に視線を向け口を開く。


「まあ、あんたも小間使いを頑張れよ」


「いえ、小間使いではありません。助手です」


 中岡編集は少しむっとした顔で答えた。どっちでもあまり変わらないだろうと私は思った。


 さておき、私は頭を掻きながら、躊躇いがちに女中の福子に声を掛ける。


「そ、それでは失礼して、あ、あの、ちょっと福子さんにお聞きしたい事があるのですが大丈夫でしょうか?」


「なんでしょう坂本さん?」


 福子はすぐに聞き返してくる。


「確か、昨夜、本丸から二の丸の降りる際に、二の丸の端の方に光を見られたと仰られていましたよねえ?」


「ええ勘違いかもしれませんが……」


「その場所はどの辺りだったのでしょうか? 福子さん達が待機される櫓側からみて端なら搦手門の近くだったのでしょうか?」


「ええ、そうです。正確には搦手門と本丸に上がる石段の間辺りだったと思いますよ」


「なるほど……」


 その答えを聞いた私は腕を組んで考え込む。


「では、二ノ丸に戻られる少し前に、私達の布団や、奥様の布団、呉羽さんの布団、飛鳥さんの布団を敷かれていたと仰られていたと思いますが、その時は奥様、呉羽さん、飛鳥さんは、それぞれお部屋にいらっしゃいましたでしょうか?」


 その問いに福子は口を開く。


「私はその日は奥様と呉羽様のお布団を敷く事になっていました。奥様はお部屋でお寛ぎになられていましたが、呉羽様はいらっしゃいませんでしたね……」


 その答えに続けて、横にいた美津が声を上げる。


「私の方は、坂本さん達と、飛鳥お嬢様のお布団を敷く事になっておりまして、坂本さんと中岡さんは当然自分で覚えていると思いますが、一緒の部屋が良いとか悪いとかの押し問答の末、一つのお部屋にてお布団をお敷かせて頂き……」 


 おいおい、ちょっと待て、お前が部屋が片付いていないから一緒の部屋に寝ろって押し付けたんじゃないか! 


 一緒の部屋が良いだなんて一言も云っていない私は眉根を寄せる。


「……確か、飛鳥お嬢様の方は、そういえばお部屋にいませんでしたね……」


 私は少し憮然とするものの、続けて質問する。


「その時、呉羽さんと飛鳥さんは、ど、どこへ行かれていたのでしょうか?」


「さあ、それはご本人様達に聞かないと……」


 美津も福子も、そんな事は解らないといった表情で答えた。


「それでは、この本丸御殿を出られ、二の丸に降りていかれる間に、誰かと擦れ違われたりとかは?」


「いえ、擦れ違ったという事はありませんでした。それは、幾島さんも覚えていらっしゃると思いますけど」


 美津がきっぱり答えた。幾島は小さく頷いた。


 私は顔を上げ警部に視線を送る。


「警部、その部分をもう一度飛鳥さんと呉羽さんに確認したいのですが……」


「いいでしょう。では、奥様、呉羽さん、飛鳥さんのお部屋に行ってお話をお伺いしましょう」


 私は頷いて返事をする。


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