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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
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昇降機と水車  壱

 そうして、源次郎、私、中岡編集、木下警部、中村刑事は、秘密部屋から出て、下層階へと階段を降りていった。


 一つ下の階は先程まで私も居たが、今使用人たちの待機場所になっている。その部屋を取り囲むように武者走りが四方に設けられ、待機場所の裏手まで進むと斬新な厠、そして昇降機の乗り口がある。


 待機場所正面に階段で降りてから、我々は武者走りをぐるりと回り込み、三つ並んだ厠の前を通過する。丁度その辺りがあの秘密の部屋の下辺だ。私は天井を見上げてみた。天井までは随分高さがあった。そして梁が幾つも渡され、使われた木の重厚感が伝わってくる。



 昇降機の前まで来ると、木下警部は物珍しそうに昇降機の戸をじろじろ見据え、そして声を上げた。


「ほうほう、説明で聞いてはいましたが、これが昇降機なのですね、厠のように見えますが中にはからくり仕掛けの昇降機が納まっていると……」


「え、ええ、左様でございます」


 源次郎は頷く。


「それで、坂本さんが動いたかどうかを随分気にされていたようですが、どうでしょう動かした痕跡などは?」


 木下警部の説明に、源次郎がおずおずと答える。


「いえ、恐らく昨日のままですね」


「ん? 昨日のままと言いますと?」


 木下警部が顔を顰める。


「坂本さんと中岡さんを乗せて上に登った後のままのようです」


「では動かした形跡はないと……」


「ええ」


 そんな木下警部と源次郎の会話を横で聞きつつ、少し考えてから私は再度問い掛けた。


「すみません源次郎さん、恐れ入りますが昇降機を動かす所をもう一度見せて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」


「えっ、ええ、それは別に構いませんけれど……」


 そう答えながらちらりと木下警部の顔を確認する。


「良いですね、ならば動かすだけでなく、私も乗ってみたいと思っていたので、乗せて頂いても宜しいでしょうか?」


 木下警部は頷きつつ希望を云った。


「え、ええ、解りました」


 そう答えると、源次郎は引き戸の脇にある木製の取っ手をグルグル回し始めた。部屋の奥から昨日聞いたゴロゴロ何かを廻している様な音が聞えてくる。源次郎の取っ手を廻す手が止まり、引き戸の引き手に手を掛けて戸を引きあけた。


「どうぞ、準備が出来ました」


「何やらわくわくしますね」


 木下警部は嬉しそうな顔で昇降機の内部に足を踏み入れた。中では行灯が僅かな光を灯している。


「坂本さんもどうぞ」


 私は木下警部に促され中に入る。私と木下警部が中に入り込んだのを確認した後、源次郎が昇降機に入り込んできた。


「あっ、じゃあ、私も乗ってみたいので一緒して良いですか?」


 若い中村刑事が手を挙げ聞いてきた。


「あっ、いや、この昇降機は三人までしか乗れませんので……」


 源次郎が困った顔をする。


「中村刑事、君はこの場で少し待っていなさい。外から戸の閉じる様子などをしっかりと観察しておいて下さい」


「は、はい」


 中村刑事は残念そうに頷いた。


「では、失礼しますよ」


 源次郎が戸を手で閉じていく。


昇降機内部には穴が開いていて、源次郎はそこに手を突っ込み何かをする。手を抜くと、昇降機がゆっくり上昇し始めた。かなりゆっくりの上昇だ。


「おお、これは凄い。そして想像以上に滑らかな動きをしているぞ」


 木下警部が驚きの声を上げる。


しばしすると前回と同様昇降機は軽い衝撃と共に停止した。


源次郎が戸を引きあけた。


「到着しました」


「少し到着時の振動が強いが許容範囲ですね…… これがからくりで動いているとは……」


 木下警部は感心したような顔で云った。 


「あの源次郎さん、その昇降機内部の穴の中はどうなっているのですか?」


 私は内部の穴に視線を送りながら質問する。


「外側の取っ手で巻き上げて下まで降ろした個室を下側で引っ掛けて置くのですが、仕組みとしてはその引っ掛かりを解き放って、裏にある重しを下に落としこみ、手前側の個室を上に持ち上げさせるのです。穴の中では取っ手と連動している引っ掛かりを外しているだけですよ……」


 源次郎が穴の中を指で指し示しているので覗くと、閂型の鍵のような構造が見えた。


「なるほど……」


 私は頷く。そして少し考えてから続けて質問した。


「ところで源次郎さん、この昇降機は普通の昇降機と同じように昇降機内の扉と外側の乗り込み口の扉があるようですが、外側の戸を開け放った状態で動かす事は出来るのでしょうか?」


「えっ、外の戸を開けた状態で動かすのですか?」


「ええ」


「それは危険ですから出来ませんよ。それと中の戸と外の戸は連動して動いて開閉をさせますが、昇降機を上下させる際にその機構に絡んで外の戸を開かなくするようになっています。戸を完全に閉めないと上昇しませんし、上昇中は戸が開かないようになっていますから……」


「そうですか…… エレベーターと一緒なのですね……」


 私は頷く。


「どうですかな坂本さん。新たな発見はありましたでしょうか?」


 木下警部が探るように聞いてくる。


「えっ、いや、まだです。まだなのですが、……参考になりました」


「ほうほう、まだまだですか……」


 木下警部が細かく頷く。


「さて、それではどうしましょう。もう少し昇降機の構造を調べますか? それとも中村刑事や中岡さん達の所へ戻りましょうか」


「いえ、もう大丈夫です。戻りましょう……」


 そうして私と木下警部、源次郎は昇降機を降りた。


 そのまま廊下を進み、階段を二層分降り、昇降機の乗り口まで戻っていく。中岡編集と中村刑事はその場で待っていた。


「どうですか警部、何か発見はあられましたでしょうか?」


 中村刑事が聞いてきた。


「いやいや、良く出来たからくり昇降機だったよ。エレベーターと殆ど変わらない。しかしながら坂本さんの中では、まだ良い閃きは生まれてらっしゃらないようだ」


 私を横目で見ながら木下警部が答えた。


「すみませんが、もう少し時間を頂ければ幸いです……」


 私は呟く。


「当てにしています。朗報をお待ち致していますよ」


 木下警部はそう云いながら軽く笑った。


 期待され急かされている感のある私は更に少し考える。


「……あっ、そうだ源次郎さん。今度は水車が動いている所を見せて頂いても宜しいですか?」


「水車ですか……」


 源次郎は木下警部の方へ視線を送った。


 木下警部は頷き言葉を発する。


「お願いします。私達も着いて行きます」


「は、はい……」


 秘密の部屋の事以外は、ある程度素直に受け答えし始めた源次郎は頷いて応えた。


 そうして、源次郎を先頭に、私、中岡編集、木下警部、中村刑事が続き、天守下の武者走りを進み、御殿部分の廊下を抜け玄関から外へと出た。


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