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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
103/539

警察の説明  肆

「それでは続いて女中さんお二方にお伺いしたいと思います」


 美津と福子は頷いた。


「お二方はいつ頃からこちらにお勤めに?」


「わたしは、三年程前からです」


 福子が答えた。


「私は五年前ですかねえ」


 美津も答える。


「どのような経緯で?」


「新聞の募集広告に載っていたんですよ、お城で住み込みの家政婦をしませんか? みたいな内容の広告ですけれど……」


 美津が続けて答えた。


「ああ、私もそんな内容の広告で応募しました」


 福子もそれに相槌を入れる。


「……恐れ入りますが、その広告は私が依頼してうったものです……」


 源次郎が小さく手を挙げて言及した。


「なるほどです。それでお二人は此処で働かれる前は何を?」


「私は、その前は尾道市にある旅館の仲居をやっていました」


 福子が答えた。


「私も仲居です。私の方は宮島近くの旅館ですけれど……」


 美津も答える。二人とも似たような業種から流れてきたようだ。


「それでは、再三同じ質問で大変申し訳ないですが、ご主人である村上道正様と些細な確執等があった方などのご記憶はありませんかね?」


「特に心当たりはありませんけど……」


 女中二人はがぶりを振る。


「わかりました」


 木下警部が納得したような顔で頷いた。


「それでは以上で結構です」


 木下警部の女中二人に対しての質問を終えた。


 そうして、最後に残った料理番に視線を向ける。


「それでは最後に残った料理番さんにお話をお伺いしていきたいと思います」


 料理番は頷いた。


「それで料理番さんはいつ頃からこちらへ?」


「私は三年程前からですかね」


「どのような経緯で?」


 木下警部が覗き込むような顔で質問する。


「私は尾道市の割烹料理店、まあ料亭で、料理人をやっていたのです。その料亭に村上様がよくいらっしゃっていて、私の作る料理をいたく気に入って下さっていたのです。特に越前蟹を使った真薯がお口に合われたようで…… それで専属料理人として来て欲しいと誘われましてこちらに……」


「ほほう、勧誘されたという事ですか、それでその料亭にはどの位お勤めだったのですか?」


「そうですね…… 十年程働いていたと思います」


「十年もお勤めの料亭を辞められてまで、こちらに来た理由は?」


「お給料が格段に良かったからですね」


 料理番は静かに答えた。


 そこまで聞いた所で、木下警部の横にいた堀尾刑事が、すくっと立ち上がり部屋を出て行った。福子、美津、料理番の話の裏を取りに行ったのかもしれない。

「それで皆さんにもお伺いしている事で恐縮ですが、この城にいる中で村上氏の事を恨んでいるような人物の心当たりなどは?」


 木下警部が聞き辛そうに質問した。


「全く解りませんね、私は殆ど厨房にいますから……」


「そうですか……」


 そうして警部の料理番への質問は終了した。


 その後、細かな詳細の質問が続き、源次郎が夜の点検をした際に水車のある石垣下に出る搦手門の閂が開いていた事や、福子が本丸を出て二の丸に戻る際に暗がりに小さな光を見たような気がしたといった話がなされていった……。


 しかしながら、事情聴取に於いて、各自の動機や各自の行動確認がなされるものの、今回の事件は根本的な問題として、どのような手段を用いて村上氏を殺害したかが解らなければ解決しない類のものである。


 木下警部もそれは解っているようで、ある程度の事情聴取をし終えると、源次郎、幾島、二人の女中、料理番にこの場に待機するように指示をして、現場及び城内を細かく調べる為なのか、その場を離れていった……。


 しかし、それから二時間待つも、三時間待つも、四時間待つも、木下警部達が戻ってくる気配はなかった。かなり解明に難航しているようだった。


「……何を調べられているのか解りませんが、随分時間が掛かっていますね……」


 源次郎が待ち疲れたといった表情で呟いた。


「どうやってやったのかが解らないのかもしれませんね。どうやってやったか解明出来ていないので誰がやったかも絞り込めない……」


 中岡編集が大きく息を吐きながら答えた。


 そんな話をしていると、広間の入口の方から中村刑事が硬い顔をしながら入ってきた。そして真っ直ぐ私と中岡編集の方へ近づいてくる。


「中岡さん、そして坂本さん。警部が少しお話をお伺いしたいと言っています。一緒に来ていただけますか?」


「えっ、僕達に話ですか……」


 中岡編集は緊張しながら答えた。


 ……まさかとは思うが、私達が犯人だとでも言うつもりなのか? それとも……


 そうして私と中岡編集は中村刑事に引き連れられ、階段を降りていった。

 この本丸は石垣の上に本丸御殿と天守閣が乗っかるように建てられている連郭式建築になり、本丸御殿と天守閣下層部分は一階部分で廊下が繋がり、行き来が出来るようになっている。


 中村刑事が向かう先は本丸の地下とも云える天守下部の石垣の下に設けられた空間のようだった。


 そこは、先日、村上氏に連れられて来たのだが、水車の力を利用して引き上げた海水を、蒸留水と塩とに分ける為のからくり装置が置かれている場所だった。その端の方には石垣の一部を利用して作られた蒸留水の溜池があり水が満たされている。


 木下警部は、石垣の中央にある、まるで井戸のような部分に手を掛け立っていた。その井戸の上部には滑車が設けられていて、その滑車には桶が沢山連なったロープが引っ掛かっている。


 私と中岡編集は中村刑事に促され木下警部の傍まで歩み出る。


「ぼ、僕達に、お話とは一体何でしょうか?」


 中岡編集は緊張気味に質問する。


 すると木下警部は自嘲的な笑いを浮かべてから頭を掻いた。


「いや、お呼び立てして申し訳ありません。実は真相究明が難航していましてね、推理小説かである坂本さんとその編集をされている中岡さんのご意見を少々お伺いしたいと思いまして……」


「い、意見ですか……」


 中岡編集が聞き返す。


 私は意見が聞きたいという言葉を耳にして小さく安堵の息を吐いた。


「……つ、つまり、良く解らないという事ですか?」


 私は探るように質問する。


「ええ、私共は通常、こんな奇術だか、手品だか解らないような事件に遭遇する事は稀なんですよ、推理小説家さんの方は、こんな感じの事件を毎日考えてらっしゃっていると聞いた事があったのでね、ご意見を少々伺いたいと思ったんですよ」


 木下警部は再度頭を掻いた。


「な、なあんだ、捜査協力ですか。ええ、構いませんよ、僕でも坂本竜馬子でも喜んで協力しますよ」


 びくびくしていた中岡編集は、少し安心したのか軽口を叩く。


 勝手に承諾しているが、まだ私は協力するとは云っていないぞ……。それとまた竜馬子って……。


「なあ竜馬子君、喜んで協力するよな」


 それは当然とばかりに中岡編集は笑顔で促してくる。


「えっ、ええ、まあ……」


 私は仕方がなしに頷く。


 そして、その上で小さく手を上げる。


「まあ協力するのは吝かではないのですが…… 私はまだ全然全体の事を把握出来ていません。中岡の方の意見は別として、もし、私がどう考えているかをお話しするのでしたら、現場である部屋や、あのからくり甲冑の仕組みを見せて頂いてからにして頂きたいのですが?」


「意見を言う前に状況を確認したいと言うのですか…… まあそれは構いません。こちらとしましても、見て考えて出来るだけ良い意見をお聞かせ頂ける方が有難いですからね……」


 なにやら試されているような、都合よく利用されているような感じを受けるが、私自身としても、どういう真相なのかどういう仕掛けが使われたのかに興味が無い訳ではなかった。

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