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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
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警察の説明  参

 結局、妻の初、娘の飛鳥、妹の呉羽は、自分の部屋で待機する事になり部屋へと戻っていった。警部はそれを見送った後、その場に残った源次郎、幾島、料理番、女中達への質問をし始める。


「それでは、今度は世話役の塙源次郎さんにお話をお伺いしたいと思うのですが宜しいでしょうか?」


「え、ええ、はい」


 源次郎は堅い声で答えた。


「まず始めに塙さんはいつからこのお城で働かれていらっしゃるのですかな?」


「このお城が落成した頃からでございます」


「落成ですか…… それはいつ頃なのですか?」


「もうかれこれ二十年程前ですが……」


「正確にはいつになりますか?」


 木下警部は厳しめな顔をして聞きなおす。


「私が四十二歳だった時ですから、昭和三十四年だったと思います」


「なるほど、ということは、このお城は築二十年なのですね……」


 木下警部は何か考えながら呟いた。


「それで、どのように採用されたのですか?」


 どうもこの事件の根は深いとことにありそうである。警部もそれを感じたのか、古い事を質問する。


「フェリー会社の方の採用広告を見て応募したのです。フェリー内の掃除などを行う業務を行うという事でしたが、話が進むにつれて、この城で執事のような事をして欲しいと……」


「話が違うという事で、断られなかったのですか?」


「いえ、フェリー内での仕事よりお給料が高かったので、私自身には不満はございませんでした」


「ところで、こちらに二十年もお勤めですと、色々な事をご存知なのではないかと思います。あのからくり甲冑なのですが、あれはいつ頃からあの場所に飾られていたのでしょうか?」


「あの甲冑は、ご主人様のお気に入りの一品で、落成当時からあの場所に飾られていたと思います……」


 源次郎は頭を掻き眉根を寄せながら答えた。


「そんな前からある物なのですか?」


「ええ、飯塚庄九郎というからくり師さんが落成祝いだとかいって持ってきたのですよ、そしてご主人様の寝室の床の間に飾っていったのです。確かそうだったよな幾島さん?」


 幾島は源次郎の問い掛けに小さく頷き返事をする。


「ん? それでは塙さんは、あのからくり甲冑を作った人物と会ったことがあるのですか?」


「ええ、落成前後の三日間程度ですけど……」


「ほう、その方は、どんな感じの人物でしたかな?」


「そうですね、印象としては彫刻家や陶芸家といった感じで、年齢は当時五十歳位だったと思います。穏やかそうな人でしたけど……」


 木下警部はそのからくり師に興味を持ったのか、幾島に視線を移し質問をする。


「女中頭の幾島さんでしたね、あなたもその当時からこの城にいらっしゃったようですね、それで幾島さんの印象ではそのからくり師はどんな感じの人物だったと?」


「大体同じですね、三日程お城でからくり式昇降機や、水車の調整を行っていて、殆ど話しはしませんでしたから、ああ、からくり職人さんなんだな~、位しか印象に残っていません。静かそうな人だったとしか……」


 幾島は俯き加減で瞬きを何度もしながら答えた。


「なるほど……」


 木下警部は腕を組みながら頷く。


 そして、ふと何かに気が付いたのか顔を上げた。


「……まさかとは思いますが、あのからくり甲冑は、その当時からずっとあの場所に置きっぱなしだったのですか?」


「ええ、そうです」


 源次郎が事も無げに答えた。


「では掃除とかはどうしていたのですか?」


 木下警部は不思議に感じたのか、幾島と源次郎に視線を送りながら質問をする。


「それは埃払いとかはしていましたし、床の間の拭き掃除などはしていましたけど、ご主人様が、からくり師さんにあまり動かしてはいけないと言われたと仰っていたので、基本的には大きく動かさないようにしていたんですよ」


 その質問には幾島が答えた。


 幾島の説明を横で聞いた私の頭に、もしかしたら、この村上氏の殺害事件は二十年前から密かに計画されていたものではないかという、どす黒い疑念さえ浮かび上がってくる。


「むむむ……」


 木下警部も眉根を寄せて小さく唸っていた。


「……そのからくり師さんは現在はどうされて?」


「さあ、ここの仕事を終えられた後は、本州に帰られたようですが、その後、連絡を取り合っていたわけでは無いので詳しい事は良くわかりませんね……」


 木下警部が、中村刑事に目配せすると、中村刑事は小さく頷き、すっと立ち上がり、部屋の外へと出て行った。その飯塚庄九郎という人物の詳細を調べる為に連絡を取りに行ったのかもしれない。


「まあ、一度話を戻しましょう。それでは塙さん、皆さんにも聞いていますが、この家でご主人である村上道正様と些細な確執等があった方などのご記憶はありませんかね?」


 源次郎は一瞬戸惑った顔を見せるも、静かに答える。


「……いえ、特に記憶はありませんが……」


「そうですか、解りました」


 木下警部は視線を幾島の方へ向けた。


「それでは、このお城の落成当初からいらっしゃったというお話をお伺いしたので、続けて幾島さんに質問させて頂きたいと思います」


 幾島は厳しい顔をしたまま頷いた。


「幾島さんは、このお城が出来た頃から働かれているのですか? それとももっと以前から?」


「こちらのお城がほぼ完成してからです。私も源次郎さんと同じ時期にフェリー会社の方の広告をみて応募したのですが、こちらの城で働いて欲しいと言われまして……」


「素直に同意されたのですかな?」


「ええ、フェリー勤務よりお給料が高かったので、すぐに同意しました」


 幾島は小さく頷いた。


「という事は二十年程このお城で働かれているわけですよね」


「ええ、左様でございます」


「とすると、飛鳥さんのお母様、村上氏の以前の奥様の事もご存知なのでしょうか?」


 木下警部が思い出したような顔をしながら質問する。


「ええ、美しく、お優しい方でございました。丁度今の飛鳥様に良く似たお顔立ちで……」


「先程の飛鳥さんのお話では幼少期にご病気で亡くなられたとの事でしたが、何のご病気で?」


「ええ、肺の病を患われ、徐々に弱っていっておしまいになり、最後は……」


 その当時の事を思い出したのか幾島はうっすらと涙ぐんだ。その様子に警部は質問しづらそうな顔をする。


「……有難うございました幾島さん。お聞きしたい事は大体こんな所で結構です。それで申し訳ありませんが、最後に一つだけお答え頂きたいのですが、最近、村上道正様と些細な確執等があった方などの心当たりはございませんでしょうか?」


「いいえ、記憶にはございません」


 幾島はきっぱりと答えた。


「そうですか……」


 木下警部は軽く幾島に対して頭を下げると、今度は幾島の横にいた女中二人、福子と美津に視線を投げかけた。

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