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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第四章
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警察の説明  弐

 木下警部は私達から視線を外すと、今度は妻の初の方を見る。


「では、続いて奥様にお伺いしていきますね」


「え、ええ」


 妻の初は緊張気味に応えた。


「奥様は見たところ随分お若いですね、亡くなられたご主人様とはどのぐらい年齢が離れてらっしゃるのですか?」


「二十二歳です」


「ほう、二十二歳ですか、という事は奥様のご年齢は?」


「二十八です……」


 妻の初は短い言葉で答えた。


「お若いですね、そこまでご年齢が離れていると出会う機会も限られてくると思われますが、どちらでお知り合いになられて?」


「会社です。秘書として働いていた私を主人が気に入って下さって、前の奥様が亡くなられて大分経っていたのもあり、籍を入れようと……」


「……籍を入れられたのはいつ頃ですか?」


「二年前でございます」


 木下警部が少し躊躇いがちに頭を掻いた。


「そんなお若い時分に、お年を召したご主人と結婚するのに抵抗はなかったのですかね?」


「別にそんな事は思いませんでしたけど……」


 妻の初は質問が質問だけに抑揚の無い声で答えた。


「村上氏との結婚を決められた決め手のようなものは何だったのでしょうか?」


 木下警部は調書上必要だとはいえ、ズケズケと質問する。


「それは、年齢が上でしたから包容力もあり、安定した経済力もあった事でしょうか…… 結婚は好き嫌いだけで出来るものではありませんからね」


 初は少しだけ云いづらそうに答えた。


「ということは、当然の事ながら、ご主人様の事は愛されてらっしゃったと?」


「ええ、夫ですもの当然です」


「そうですよね……」


 木下警部は頷きながら答えた。


「……お話、有難うございました。取り敢えずは以上で……」


 木下警部は軽く頭を下げながらお礼を言った。横では堀尾刑事と中村刑事が手帳に詳細を書き込んでいる。


「では続いて、お嬢様にお話をお伺いしたいと思います。宜しいですかな?」


 木下警部が飛鳥に視線を送った。


「ええ」


 娘の飛鳥は俯いたまま消えそうな声で答える。


「ところで、飛鳥さんはご年齢はお幾つなのですか?」


「私は十七歳です」


「ということは、此方の奥様とは?」


 木下警部か探るように質問する。


「ええ、血は繋がっていません……」


「となると飛鳥さんは前の奥様のお子さんという事なのですかね?」


「はい、そうです」


 そこまで聞いて躊躇いがちな表情を作りながら木下警部はがりがりと頭を掻いた。聞きづらい事を聞く前にしてしまう癖なのかもしれない。


「……えーと、失礼ですが、飛鳥さんのお母さん、血の繋がったお母さんの事ですが、いつ頃亡くなられたのですか?」


「私が幼い頃です。確か四歳の時だったと思います」


 飛鳥は静かに答えた。


「その~、お母さんが亡くなられた後、お母さんの件でお父さんと喧嘩などされたりとかはありませんでしたか?」


「えっ? どうしてですか?」


 飛鳥は質問の意味が解らないといった顔で聞き返す。


「いえ、お母さんが亡くなられたことで気が荒れて、お父さんのせいでお母さんが死んじゃったとか、現在のお母様を迎えるにあたって、新しいお母さんなんて要らない、みたいな理由でなのですが……」


 その強引な例えがおかしかったのか、飛鳥は小さく笑いながら答えた。


「母は病気で亡くなってしまっていたので仕方がないと思っていましたし、母が亡くなって十年以上経っていたので、別に新しいお母さんが来ることに特に抵抗は感じていませんでしたけど……」


「そうですか……」


 木下警部は腕を組んで考え込む。


「……解りました、それでは以上で結構です」


 警部は頭を少し下げ呟いた。


 そして、今度は村上道正氏の妹である呉羽に視線を投げかける。


「……では、続きまして妹の呉羽さんにお話しをお伺いしていきたいと思います」

「ええ、解りました」


 呉羽は元々の性格からか、はっきりとした声で答えた。


「まず、村上氏の妹さんでいらっしゃるとの事ですが、随分お年が離れてらっしゃるようにお見受け致しますが、失礼ですが今お幾つでらっしゃいますか?」


「私は今、三十三歳です。母が私を産んだのは高齢時でしたから……」


「なるほど」


 木下警部は頷く。


「……因みに、どうしてお兄様のお宅にいらっしゃったのでしょう?」


「父も母も亡くなり、私は結婚しそこなって独り身だったので、資産家であるお兄様を頼って此処へ来たのです」


 木下警部はまた頭をがりがり掻きながら聞きづらそうに質問した。


「しかし、よく迎え入れてくれましたね、奥様がいらっしゃる状態ですと貴方は小姑になられる訳でしょう……」


 呉羽はちらっと妻の初に視線を送ってから口を開く。


「私が困っていたのもあり、温かく迎え入れてくれましたわ。家が大きく余裕があった為かもしれませんが……」


「なるほど……」


 木下警部は再度頭を掻く。


「あの、その、まあ無いとは思いますが、成功されているお兄様に対して嫉妬を感じたり、恨みがましい気持ちを持ったりは?」


 その質問を受けた呉羽が軽く笑った。


「逆に、このお城に居場所を作ってもらって感謝の気持ちで一杯でした。兄がいてくれて本当に良かったと思った位です。……それよりも兄が亡くなり今後が心配ですね……」


「保護者がいなくなってしまったという事になりますからね」


「ええ」


 木下警部は大きく息を吐くと、納得したように小さく頷いた。


「呉羽さん、有難うございました。お話は以上で結構です」


 そう木下警部が言うと、妻の初が小さく手を上げた。


「ん、どうしました奥様?」


 妻の初は躊躇いがちに声を上げる。


「……あ、あの、もう警察の方々か来られている状態ですし、無差別殺人犯がいる訳でも無さそうですし、私、少し眩暈っぽいのもあるので、部屋の方で少し休ませて頂けると有難いのですが」


「お部屋でですか?」


「ええ、お答えしなければいけないことがあるのであれば、今すぐにこの場で全てお答えしていきますので……」


「あっ、それなら私も疲れたから部屋で休みたいです……」


 妻の初の声に同意した様子で、娘の飛鳥も消えそうな声でそう言い出した。


「だったら、私も部屋に戻りたいわ、もうお兄様との関係性も答えたし……」


 妹の呉羽まで訴え始める。


 木下警部は腕を組んで考え込む。


 まだ誰がやったのか、そして、どうやってやったかも把握できていない状態である。それに休むといっても同じ本丸内の別の部屋だ。逃げる事など到底出来ないとも思える。


「……解りました。それでは、ここまでの質問にお答え頂いた方は、お部屋でお休みになられていても結構です。ですがこの本丸からは出ないようにしておいて下さいね」


 木下警部は厳しめな表情を作りながら答えた。


「警部さん、無理を言ってすみませんね」


 妻の初が申し訳無さそうな顔をしながら頭を下げた。

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