世界の秩序
日が沈み辺りが暗くなって来た頃、俺は急ぎ足で孤児院へと向かっていた。
勿論、原因はあの手紙だ。
手紙の内容を見た俺は、アルマに少し出掛けて来るから家で待っていろと告げて外へ出た。
これ以上、孤児院絡みでアルマに心配を掛けたくなかった。
孤児院に到着すると管理者の婆さんが憔悴し切ったった顔で出迎えてくれた。
「状況を説明してくれ」
俺が尋ねるとは弱弱しい声音で話し始めた。
なんでも、期限になったので例の詐欺師共が金を取りに来たらしい。婆さんはアルマから受け取った金を渡して、もう我々に関わるなと言ったそうだ。
詐欺師の連中は驚いた。これから長い時間をかけて金を毟り取ってやろうと考えていたのに、まさか金貨20枚を一括で払われるとは思わなかったらしい。本来貸した金の倍を回収しているものの、欲がくらんだ詐欺師は更に金を要求してきたそうだ。
しかし婆さんは毅然とした態度で断った。
要求された金額は払ったのだから、これ以上支払うつもりは無い、と。
それに怒った詐欺師は仲間を呼び孤児院の子供を3人ほど連れ去ったそうだ。
婆さんと子供しかいない孤児院は為す術も無かった。
そして詐欺師はまたも要求してきた。
子供を返して欲しければ、1人につき金貨20枚。もしくはお前らに金を寄越した人物を連れて来い。
期限は次に日が昇るまで。
場所を指定した後、助けを呼んだらガキを殺すといって詐欺師は帰っていった。
怒りで腸が煮えくりかえりそうだった。
「分かった。後は俺がなんとかする」
指定された場所を聞いた後、俺は孤児院を去った。
その後俺はある人の所へ向かった。
****
コンコンと、俺はとある家のドアノッカーを鳴らす。
「どうしたんさー?こんな夜遅くにー」
そう言って出てきたのは若菜色の髪をツインテールにしたアルマと同じくらいの女の子だった。
耳が長いからエルフ族だと思われる。
「エイルさんって居ますか?」
「えっなに?君もしかしてエイルの男っ!?彼氏君なのかいっ!?」
そう言って俺の腹を肘でぐりぐりしてくる。
うぜぇ…耳を引っ張ってやりたい。
「そこら辺にしておけエミリア」
エミリアと呼ばれたちょっとウザったいエルフは後ろから来た紅色の髪に紅色の燃えるような瞳をした女性に耳を引っ張られる。
グッジョブ!
「ギャー!痛いっ痛いよラナ!だから婚期が延びるんギャーー!!」
ラナと呼ばれた女性は耳を引っ張ったままエミリアを持ち上げる。
あれは、めちゃくちゃ痛そうだ…
この人の前で結婚とかのワードは控えておこう…
「済まないお客人。ここじゃ何だから居間まで案内しよう。ついてきてくれ」
居間に着くと紅血騎士団の面々が勢揃いする。
椅子に座って何から話したものかと考えていると紅髪のラナと呼ばれた人が口を開く。
「さて。まずは自己紹介からしようか。私はラナンキュラス・シュトラウスという。紅血騎士団のリーダーを務めている」
エルフを耳ブランコした女性だ。
「オレはフィアナ・ルドベキアだ。よろしくな少年!」
灰色髪のショートカットの女性だ。ボーイッシュな顔立ちで凄く爽やかな笑顔を浮かべている。
「フリージア。竜人族。よろしく」
瑠璃色の髪に爬虫類を思わせる鋭い瞳をした女性だった。
「私のことはもう知ってるよね?エイルだよ?」
はい可愛いです。
「私はエミリア!エルフだよ!ていうかラナ!よくも私のかわゆい耳をあんなに引っ張ってくれちゃって!1mくらいまで伸びちゃったらどーするのさっ!」
「その時はあんたの耳でツインテールを結ってあげるわ」
「ムキーーッ!!」
どう話しを切り出したものかと思っていたら、エイルさんが助け舟を出してくれた。
流石エイルさん!
俺が話し始めるとみんな黙って聞いてくれた。
約一名はブツブツと文句を言っていたが…
話を終えるとラナンキュラスさんが尋ねてくる。
「話は分かった。それで君は街でも名の知れた私達を頼って来たってことだね?」
「はい」
「んじゃあ私達がその詐欺師のとこに乗り込んでボコボコにしちゃえば解決だねっ!」
「エミリア。あんた話しを聞いてなかったの?助けを呼んだことがバレれば問答無用で子供は殺されちゃうのよ」
その通りだ。
だから…
「だから俺が敵の元に行って子供達を取り返して来ます」
相手は俺を指定してきている。
敵の本拠に乗り込むのも容易だろう。
「本気?言っちゃ悪いけど君はあまり強そうには思えないわ」
「大丈夫です。俺には切り札も有りますから。それでラナンキュラスさん達には救出した子供達を匿ってやって欲しいんです」
ラナンキュラスさんは俺の眼をじっと見つめる。
だから俺もありったけの意志を込めて見つめ返す。
「どうやら虚言でも見栄でも無さそうね。」
「いいわ!紅血騎士団は貴方の頼み、承りましょう」
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
エイルさんは優しく微笑みかけてくれた。
****
エイレテュイアの北門にて。
「待ちわびたぜ。お前があの孤児院に金を渡した野郎で間違えないな?」
「ああ」
黒ずくめの男が城門にて待ち構えていた。
「お前らのボスと話がしたい」
「待て待て、そう急ぐなよ!こちとら元々そのつもりだぜ」
よかった。どうやら敵の本拠地まで案内してくれるらしい。
「それにしても馬鹿な奴だよなお前。ガキ共なんざ見捨てりゃよかったのによ」
「今から行く所はお前みたいなクズばかりいるのか?」
胸糞悪いので無視して質問する。
「随分と威勢がいいじゃねーか!そうだぜ!今から行くのは俺達の本拠地だ!脛に傷のある連中がわんさかいる所だ!だから戦ってガキ共を助けようなんて考えるんじゃねーぞ!」
今の言葉は脅しのつもりだったのだろうが、逆に安心した。これで心置き無く戦える。
敵の本拠地は門を出て北西に進んだ所にある森の中にあった。巧妙に隠された地下通路を進むと大きな広間へと出た。
「ようこそ世界秩序を正す者へ!私はザハクと申します。以後御見知りおきを」
金髪の黒い神父のような服をきた胡散臭い男が告げる。
「子供達を返して貰いにきた」
「ええ、返しますとも!子供3人で金貨100枚、1000万ヴァルナでどうでしょうか?」
勿論そんな大金持っていない。
力づくで取り返しすだけだ。
「その前に子供達を確認させろ」
ザハクが合図をすると子供達が入った鉄の檻が台車に乗って現れる。
間違えない。孤児院の子供達だ。
俺の股間に頭突きを食らわせた女の子もいる。
「子供達に酷い扱いをするな」
「それは貴方の返答次第ですよ」
「お前達の目的はなんだ?何故そこまで金を集める?」
「我々の目的ですか?いいでしょう。教えて差し上げます!」
「我々の目的は世界秩序の確立です!」
は?何を言っているんだコイツは?
「秩序を乱しているのはお前達だろう?」
ザハクは首を振って、やれやれといった感じで嘆息してくる。
「世界の法たる秩序は一つだけ。唯一絶対の秩序は我らがリヴェルダ帝国が成すのです!」
「そして他の邪魔な国家の力を削ぐ必要悪の組織。それが我々世界秩序を正す者ですっ!」
「帝国の為ならば殺人も強盗も人攫いも喜んでやりましょう。国家間に不和を生じさせて戦争を起こしましょう。それが我々の正義なのですっ!!」
それ以上話を聞くつもりは無かった。
「来いっ!!鎧黒竜っ!聖竜槍っ!!」
鎧と槍を顕現させて子供達の入った鉄の檻へと走る。その時に鎧黒竜の固有技、魔法障壁を発動させる。
俺の動きに気づいた兵士が檻の中に槍を突き入れるが何かに弾かれたようにその切っ先は届かない。
鉄の檻の元に辿り着いた俺は兵士を斬り捨て、鉄格子を聖竜槍で断ち切る。
「ええい!呆けるな!囲んで制圧しろ!」
子供達を小脇に抱えると敵の兵士が俺をぐるりと取り囲んでいた。
「苦しいかもしれんが我慢してくれよ!」
子供達はしっかりと抱えると、聖竜槍の固有技ライトニングエッジを発動して血路を開き出口に向かって疾走する。
「逃がすな!魔法で追撃しろ!それとラキウス兄弟を出せ」
敵が魔法で追撃してきた。
子供達に魔法があたらないよう正面に抱きかかえ魔法障壁を張る。
後ろから飛んでくる様々な魔法に歯を食いしばって耐え、力の限り走る。正面から向かってくる敵は全て聖竜槍で一刀の元に斬り伏せた。
「失せろっ雑魚共がっ!!」
鬼神の如く咆える。
鎧が返り血で真っ赤に染まった時、ようやく出口が見えた。
「止まりやがれ!」
出口の前に2人の男が立っていた。
一目見ただけで分かった。
こいつらは強い。
「俺はガルダ・ラキウス。こっちはグレイ・ラキウス。世界秩序を正す者最強の戦士、ラキウス兄弟とは俺達のことよ」
「てめぇの命運もここまでだな」
これで終わりなのか?
俺の命も子供達の命も?
ふと昨日のことを思い出す。
(これはミヤに対する戒めでもあるのよ!無理して戦って私を殺さないでね)
そうだ。
誰がこんな所で死ぬものか。
こんな奴らにアルマの命は奪わせない!
「はははっ!俺は生きて帰るぞっ!アルマァッ!!」
瞬間、血が沸騰するように熱くなる。
覚悟を決めた雅にはその熱さも痛みも心地よく感じた。
本能的に理解する。
この能力は…!
「重力の牢獄」
ラキウス兄弟は急激に増した自分の体重を支えきれず膝をつく。
狼狽えるラキウス兄弟の間を疾風となって駆け抜けた。
出口を抜けると紅血騎士団の面々が待っていた。
どうやら見張りは倒してくれていたようだ。
俺の血塗れの鎧にギョッとしている紅血騎士団に子供を預ける。
「外傷は無いと思いますが一応手当てをお願いします!あと敵が来るかもしれないので急いで此処を離れて下さい!」
「分かった!もう少し走れるか?」
ラナンキュラスさんが心配してそう尋ねてくる。
「俺はやり残したことがあるので残ります!」
「私も手伝おうか?」
エイルさんは優しく気遣ってくる。
気持ちは嬉しいがエイルさんを巻き込む訳にはいかない。
「大丈夫です!行って下さい」
「分かった。後で私達の拠点で落ち合おう!」
ラナンキュラスさんがそう言って紅血騎士団は街へ向けて走り去った。
そして俺は今一度、敵のアジトへと侵入した。
****
「いたか!?こっちを探せっ!」
そんな声が聞こえてくる。
俺は敵のアジトのとある部屋にいた。
ここが見つかるのも時間の問題だろう。
仕方が無いので行動を開始する。
「スキル発動。竜昇華」
雅の姿が黒い竜へと変貌する。
そして魔法で天井を吹き飛ばす。
昨日エイルさんに魔法について教えて貰ってから分かったことがある。
魔法はイメージが大切。
イメージがしっかりと形作れれば、重力魔法で天井を吹き飛ばすことも、自重を軽くして空へ飛び上がることも可能だった。
世界秩序を正す者のアジトを上空から見下ろす。
「確かにお前達の言う事は正しいのかもしれない。世界を一国が統治した方が平和になるのかもしれない。後の世から見れば俺は世界の革新を邪魔しているに過ぎないのかもしれない」
「それでも俺はお前達のやっている事が、やり方が、罪の無い人を虐げるその全てが気に食わない」
「だから俺はお前達を殺す!俺のエゴで殺す!自分達がやってきた事だ。恨んでくれるなよ?」
スキルを発動させる。
黒竜の口元に極光の力の渦が凝縮されていく。
「滅べ!覇天砲!!」
燦然と煌めく光が闇夜を照らし出す。
その力の奔流は、世界秩序を正す者のアジトを消し飛ばした。
いつもより長くなってしまいましたが、如何でしたでしょうか?
それではまた読んで頂けることを楽しみにしております。