孤児院
翌日、俺はアルマを連れ立って件の孤児院へと向かう。
アルマは恥ずかしいのか終始俺と目を合わせようとしない。
俺も昨日の言動が今更になって恥ずかしく感じてきたので、お互いに無言の道中であった。
「着いたわ」
何を話したものかと考えていたら何時の間にか到着したらしい。
孤児院は古ぼけた教会のような施設だった。
子供達が出てきてアルマを見つけると大騒ぎしだした。
人気者なんだな。
暫くすると結構歳をとったお婆さんが出てきた。
アルマは来る時に渡しておいた金貨の入った袋を渡す。
「これは?」
「金貨を20枚用意したわ。これであいつらに文句を言われることはないわ」
「こんな大金どうやって…?」
するとアルマはこっちを見てニヤリと笑ったかと思うと婆さんにむかってこうのたまいやがった。
「私、この人に金貨20枚で買われたの。何をされるか分からないけど死ぬような酷いことはされないと思うわ。だからこのお金であいつらと手をきって」
この生意気な小娘がっ!
言ってることは間違ってないけどなんか腹立つ。
案の定、その言葉を聞いた婆さんや子供達が怪訝な目でこちらを見てくる。
「アルマ姉ちゃんにひどいことすんなー!」
孤児の一人がそう叫んで俺の脛を蹴り上げようとしてくる。
「フッ、そんな攻撃が俺にあたぐふぉっ!!」
俺が攻撃を華麗に躱して決めゼリフを言おうとしたところで頭突きをかましてきやがった。
俺の股間に。
堪らずその場に蹲ると孤児院の子供達が総攻撃を仕掛けてきた。
「ちょっ…ヤメッ…ヤメロッ!…いたっ」
「ムニュっとして気持ち悪かった…」
「てめっ…気持ち悪いとか言ってんじゃねー!くそ、調子乗るなよガキ共がぁー!」
こうして無理矢理起き上がった俺とガキ共の壮絶な鬼ごっこが始まった。
暫くした後、婆さんとアルマが場を収めてくれたことでようやく鬼ごっこは終わった。
俺の股間に頭突きかました奴にはしっかりと頭グリグリの刑を食らわせた。
ちょっと大人気ない気もしたがこれも教育だ。
仕方あるまい。
「とにかく俺はアルマを奴隷として買ったが酷いことをするつもりはない」
婆さんと子供達に弁明した後に金貨が10枚ほど入った袋を渡す。
「これは俺から孤児院への寄付だ。勿論あとから返せなんて言うつもりもない。俺はアルマも孤児院も悪いようにはしないと誓った。だから困ったことがあれば何時でも頼ってくれて構わない。」
「最初からそう言っておけば格好がついたのに」
「お前のせいだろうがっ!」
そんなこんなで俺達は孤児院を後にする。
アルマは全てが片付いたと晴れ晴れとした顔をしているが、俺はこれで終わったとは思えない。
必ずまた厄介事に巻き込まれるのではないかという予感がしていた。
余談だが、俺の股間に頭突きをかましてきた奴は女の子だったらしい。
ずいぶんと男勝りなことだ。
幼女の頭に股間を押し付けるなんて興奮するよぅ…なんてことがある訳がないな…
あいつの顔を思い出すと今でも俺の股間のブツが縮み上がる。
これも悲しき男の性かな。
孤児院を出てからアルマの案内で冒険者組合へと向かう。
やっぱりあったのか冒険者組合。
異世界にきたら高い確率であるという冒険者組合。
生活がかかってる訳だし、聞きたいこともある。
「なぁアルマは俺が迷宮に潜ってる間どうする?一応奴隷なんだし家事とか食事の準備とかしてくれるのか?」
「はぁ?迷宮までついていくに決まってるじゃない」
俺は一応鎧黒竜のことも説明しておいた。
無限に使い続けられる訳ではないから、絶対に安全とは言いきれない。
竜昇華については何時か話そう。
「例えそうだとしても、私はミヤについていくわ。これでも私魔法が使えるからそれなりに役に立つんじゃないかしら?」
「あ!それと後で奴隷商にいって正式に奴隷契約を済ませるわよ」
「そんなの必要ないんじゃないか?」
「私のケジメでもあるからお願い」
そう言われては分かったと返事をするしかなかった。
冒険者組合では受付のお姉さんに色々と話を聞けた。
冒険者の心得やら迷宮でのルールなどだ。
お金を稼ぐ手段としてはモンスターが落とすドロップアイテムや魔法石を組合やその他の商店が買い取ってくれるらしい。
その後、俺とアルマは魔法の契約書を使って正式にパーティとなった。
それを使ってパーティになるとパーティメンバーの生死や何処にいるかがある程度分かるらしい。
さらにステータスウインドウで、アルマのステータスも確認することが出来るようになった。
俺がLv7の魔法使いで、アルマがLv9の魔法使いだった。
アルマの方がレベル高いことが少しだけショックだった。
最後に俺は盗賊や犯罪を犯した人について聞いた。
この国では犯罪者は人権を剥奪されるらしい。
犯罪者を殺そうが資産を奪おうがお咎めなしらしい。
冤罪の場合はどうなるのかと聞いてみると、冤罪を主張する者は法廷に立たされるらしい。
そこで宮廷魔術師が真実を語らせる魔法を行使してその是非を問うらしい。
冤罪の可能性が無ければこそ、犯罪者には重い処罰を課すことが出来るのか。
聞きたいことを全て聞いた後に俺達は奴隷商へと向かう。
そこでアルマの首に銀のチョーカーが付けられ、なんだかよく分からない魔法で奴隷契約がなされる。
なんでも普通は主人が死んだ時はチョーカーも爆発して奴隷も死ぬことになるらしい。
他には呪文を唱えることでチョーカーが締め付けられ、奴隷にお仕置きが出来るようになるらしい。
呪文はもう忘れてしまったが…
また奴隷契約の内容は変更も出来るらしい。
寝首をかかれたならともかく、俺が無駄死にしてそのせいでアルマまで死んでしまうのはおかしいと思って、奴隷契約の内容を変更しようとしたのだがそれをアルマが止めた。
曰く、
「このままでいいわ。これはミヤに対する戒めでもあるのよ!無理して戦って私を殺さないでね」
「それと、もし私ともう少し関係を進めていいと思ったのなら、その時はミヤがこのチョーカーを外してよ」
チョーカーは奴隷の主人にしか外せない。
チョーカーを外すということは奴隷契約を終了するということだ。
奴隷ではない、もっと先の関係へ。
つまりはそういうことなのだろう。
「考えておく」
「…うん」
奴隷商を後にして、いよいよ明日から迷宮探索だ。
もう夕方になりはじめているし、帰って明日に向けて英気を養おう!
と、話はここでは終わらない。
「あ、そうだミヤ。これ返しておくわ」
そう言ってお金が入った袋を渡してくる。
俺が昨日今日であげたお金だろう。
「いいよ。アルマにもお金は必要だろ」
「奴隷の衣食住は主人が用意するのが基本よ」
「いや他にも欲しいものとかあるだろ…孤児院に遊びに言った時になんか買っていってやれよ」
ここは主人としての威厳の見せ所だ。
正直、アルマ絡みで金貨を30枚とその他生活必需品などを買っていたから受け取りたいところではあったが。
ん?
衣食住?
「おいアルマ!お前、俺ん家に住むってことか!?」
「何よ、何か問題あるの?」
俺も健全な男である。
「襲うかもしれないぞ?」
アルマは顔を真っ赤にして、挑発的な顔で言う。
「ふ、ふーん?ミヤにそんな度胸ないでしょ。襲うなら襲ってみたら?」
はい決定。
今夜、アルマを俺の女にする。
家に布団は一組しかなかったが、今日はもう遅いと理由をつけてそのまま家に帰る。
そしてアルマを先に布団で待たせ、俺も体を拭いてから向かうと幸せそうな顔で涎を垂らして寝てやがった。
なにこの生殺し。
やっと事が片付いて安心出来たのだろう。
起こす気にはなれなかった。
「明日は覚悟しとけよこいつめ」
寝てるアルマのほっぺをムニムニした後に俺も眠りにつく。
まぁ横に美少女が寝てる状況でお預け食らって眠れる筈もなく、その夜は一晩中モンモンとして過ごしたんですけどね。