友の証 (3)
「レイス・アロー」
ケイがライフルのトリガーを引き、耳をつんざく射撃音が静まり返った森の木々に反響するのと同時に、レインの甲高く美しい詠唱が響いていた。
右腕を前方に突き出したレインの周りに浮かんでいたのは二槍のような形をした二本の光。それはケイが初めてこの森で出会った時と同様に、モヤンとした光りで形成された魔法の槍である。それらの槍はレインの詠唱が終るとともに、待ってましたと言わんばかりの勢いで射出され、目標目掛けて風を切りながら飛んでいく。
お互いの標的は事前にアイコンタクトで確認している。初手で左側二体の下級魔族をレイン、右端の一体をケイが屠り、余裕があれば適当なもう一体をという流れである。
レインの放った光の槍は見事狙い通りの二体に命中し、瞬時にその下級魔族二体の生命活動を強制停止させた。ケイの放った銃弾も狙った獲物に命中したものの、当たった場所は肩。致命傷には至らなかった。そこでようやく襲撃を受けたことに気付いた魔族達が一斉に臨戦態勢に入る。ケイに肩を射抜かれた下級魔族も痛みに耐えながら構えを取るが、ケイが間髪入れずに放った二発目が見事にその下品な頭部を打ち抜いていた。
レインは自分の標的を打ち抜いたことを確認すると、すぐさま次なる標的である下級魔族を射るために詠唱を開始する。しかし、襲撃に気付いた下級魔族の一体が咄嗟にてレインに向けて全力で走り出した。
前傾姿勢でバランスをとりながら、眼球をぎょろりぎょろりと動かしながら迫ってくる魔族は小柄な体躯に似合う俊敏性を持っているたため、レインのレイス・アローを放つ前に距離を詰められてしまう。レインと下級魔族の距離は既に十五メートルを切っており、奴の機動性ならもう二秒足らずで鋭利な爪の届く範囲まで迫るだろう……と思いきや、その魔族が残り十メートルといったところで盛大に転倒したのである。すかさずレインは自慢の光の槍をその転げた魔族に向かって叩き込んで亡骸へと変える。
レインの横ではケイの持つライフルのマズルカらは僅かな硝煙が立ち上っていた。
「ありがと、助かったわ」
「あぁ、それよりも雑魚狩りはこの辺でお終いのようだ」
ケイとレインの連携により、予定通り四体の下級魔族を倒した段階でようやく中級魔族が三体とも迫ってきた。すかさず両者は中級魔族をでたらめに攻撃して注意を引き、そのまま全速力で森の奥に向かって駆け抜ける。当然、中級魔族と残りの下級魔族四体も付いてくるが、ここで左右の木々に影に隠れていた兵士達が一斉に飛び出してきた。丁度、下級魔族の集団と中級魔族の集団の間に割り入るタイミングであり、これも作戦通りである。
「それじゃあみんな、そっちは頼んだわよ!」
レインの声を背から受けた兵士達一同は下級魔族の進路をふさぐ形で陣取ることに成功し、これで敵の戦力を分散することが出来た。あとは各個の実力次第である。
レイン、ケイの両者が全力で走ること約五分。
「ここまで離せば大丈夫だろう」
「はぁはぁ、そうね」
全速力で走った後でも余裕そうな表情のケイに比べ、やや息が上がっている様子であるレインは呼吸の速度が速くなっている。幸いにも図体のデカいこの中級魔族達は足が遅いらしく、追いつかれるまでに息を整える程度の時間はありそうだ。
ほどなくして三体の中級魔族がズンズンという大きな足音を立てながら二人の元へと追いついてきた。その後方からは残りの下級魔族の影はなく、作戦通り敵戦力を分断できたようである。
「さぁ、いくぞ」
「おっけー!」
デカブツの姿が見えたのと同時に重みのある発砲音が三回響いた。標的は三体の中でも一番先頭を走ってきた魔族である。三発の銃弾は全弾共に中級魔族の腹部へと命中していた。中級魔族ともなればそれなりに防御力もあるとはいえ、それは剛の体を持っていたガルメギアには遠く及ばない。腹部に立て続けに三発の鉛弾が飛び込んできた魔族は衝撃で大きくよろめき、痛みに咆哮を上げた。体制を立て直そうとする魔族に対し、すかさずレインが三本の光の槍を撃ち込むことによって一匹目を処理。
ケイが次の獲物に銃を向けた瞬間、同じくこちらを睨み付けてくる巨体の目が合う。妙な不快感に襲われ、咄嗟に目を逸らすと、その魔族の影に隠れていたもう一体の魔族が視界に入ってきた。そしてその後方のデカブツは大きく右腕を振り上げている。手にしているのは、直径三十センチはあろうかという巨大な岩の塊。その瞬間にケイはすべてを理解した。
「くそっ」
近づく魔族に向けていた銃口をすぐさま、超速度で飛んでくる岩の弾丸へと向け、考える間もなくトリガーを引き絞った。しっかりと狙う余裕などなく、的は高速で近づいてくる物体ともなれば当てるのは容易ではない。それでも一、二発ほどを大岩に命中させ、なんとか粉砕することに成功した。
破砕したジャリのつぶてから身を守ったのも束の間、すぐさま二番目を走っていた中級魔族がケイの眼前へと迫っている敵へ銃口を向ける。狙う場所は7.62mm弾でも十分なダメージを与えられる頭部。照準を覗きながら一呼吸入れてトリガーを引く。ケイの放った弾丸は狙い通り頭部目掛けて飛んで行き、確かに迫りくる魔族の肉を貫いた。しかし魔族を倒れるどころか、そのまま突き進んでくる。
「ちっ、利口になりやがったか」
撃たれたにも関わらず速度を緩めず突き進む巨体は、両腕で頭部を覆ってガードしていた。先の大規模戦闘や今回の襲撃でケイの持つ銃が威力の高い飛び道具であるという知識を得たのだろう。当然、ケイの放った銃弾は頭部ではなく魔族の腕部に着弾している。この中級魔族はぱっと見でもわかるように腕部の筋肉が特に発達しているらしく、高威力の7.62mm弾ですら肉に多少めり込む程度にとどまっており、致命傷には程遠いほどのダメージである。
ケイが致命傷を与えられぬ間に魔族との距離は一気に近づき、気付いた時には目の前で巨体がその自慢の剛腕を振り下ろしていた。ケイは咄嗟に一歩下がって寸前で直撃を避けるも、地面にめり込むほどの強烈な一撃の衝撃に煽られて後方へと転げ飛ぶ。
「魔族ってのはなんでこう馬鹿力のやつばっかなんだよ……」
二回、三回と地面を転がったことによりケイの体は泥まみれであるが、そんなことを気にしている余裕はない。素早く起き上がりすぐさま銃口を目の前の魔族へと向ける。が、やはり中級魔族ともなれば学習能力もあるようで、ケイの射撃体勢に合わせて、顔とコアのある左胸部分を強靭な腕でガードに入ってしまう。代わりに脚や腹部はがら空きであるが、中級魔族の防御力や耐久力を考えれば手持ちの弾薬で仕留め切るのはかなり厳しいであろう。そう、ケイのライフルの弾丸はいま刺さっているマガジンで最後なのである。そのマガジンの中身も残り十発。サイドアームとして使っているハンドガンの弾薬の残りが八発……中級魔族を相手にするには少々心許ない。そうなると、やはり狙いたいのは頭部、もしくは魔族のコアがある左胸部になる。
どうにかしてやつの気をそらしてガードを緩めなくてはならない。ケイは魔族を最小限の発砲で牽制して動きを制限しつつ、辺りを見回した。周囲の形式は相変わらず森。あるものといえば、樹齢を想像することすら出来ない程太く、背の高い木々とアクトベリア固有種と思われる数種類の植物のみ。状況を打破するための策をフル回転で考えながらもう一回り周囲を見渡す。――そしてケイの中にひとつの考えが浮かんだ。




