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神託の花

作者: 葵生りん
掲載日:2014/12/19

 ブランコをこぐおにいちゃん。

 シーソーをしているのはおねえちゃん。

 すべり台をすべる子は「じゅんばんじゅんばん♪」と歌って待ちます。

 そして遊具の間をおにごっこで走りまわるこどもたちはきゃあきゃあと楽しそうな笑い声をあげています。


 今日はとってもいい天気。

 冷たい風もなんのその。

 公園はそんなこどもたちの楽しそうな声で溢れていました。


 けれどひとりだけ、タイヤとびのタイヤの上に膝を抱えて座り、それを見ているだけの男の子がいました。

 男の子の名前はゆうちゃん。

 ゆうちゃんはとっても恥ずかしがり屋さんで、みんなと一緒に遊ぶのが恥ずかしくて、遊ぼうと誘われても、もじもじしてしまうのでした。


「ねぇ、タイヤとびしたいんだけどいーい?」


 シーソーにのってたおねえちゃんたちがきたので、ゆうちゃんはいそいでタイヤを降りて公園のもっともっとすみっこにいきました。


 フェンスに背中をもたせると、フェンスも地面もひんやりしていて、ぷるぷると震えてしまいます。


 みんなのほっぺはまっかで、おにごっこをしてるこどもたちはふかふかのジャンパーをぬいで草むらの上に投げています。


 だけどゆうちゃんは寒かったのです。

 とってもとっても、寒かったのです。


(おうちに帰ろうかなぁ)


(帰りたいなぁ)


(だけどママ、今日は大掃除するから夕方までお外で遊んできてねって言ってたからなぁ)


 ゆうちゃんはそんなことを思いながら、膝を抱えて座っていました。


「おい、ゆう!!」


 いきなり大きな声で呼ばれて、ゆうちゃんはびくっとなりました。

 顔を上げたら、幼稚園で同じクラスのケンちゃんが立っていました。


 坊主頭でクラスでも体が大きいケンちゃんが、両手でサッカーボールを持ってゆうちゃんを見ています。

 ケンちゃんのうしろに、3人の男の子がいました。


「ご、ごめんなさいっ!」


 ゆうちゃんはこわくなって、公園から走って逃げました。





     * * *





 ゆうちゃんはとぼとぼと堤防沿いを歩いて、おうちに帰ります。


 ぴゅうっと風が吹いて、肩をちぢめました。

 川の近くの風は、公園よりずっと冷たいのです。


(どうしよう、まだ帰ると怒られるかな……)


 どうしたらいいのかわからなくて、ゆうちゃんは膝を抱えてしゃがみこみました。





 ゆうちゃんはなんにもすることがなくて、足下の草をぶちぶちとちぎっては川に投げ込んでいました。


「まって、それとっちゃだめ!」


 ゆうちゃんはびっくりしました。


 ゆうちゃんがちぎろうとしていたのは、たんぽぽの花でした。

 ふたつ仲良く並んで風に揺れる、黄色いたんぽぽの花でした。


 びくびくしながら顔を上げたら、ゆうちゃんとおなじくらいの女の子がいました。

 でも、知らない子でした。


「……ごめんなさい」

「ううん、いいの」


 たんぽぽと同じ明るい黄色のワンピース。

 髪にはワンピースとおそろいの黄色いリボン。

 それから、見ているだけでぽかぽかしてきそうな笑顔の女の子でした。


「あのね、たんぽぽの花ことばって《しんたく》っていうの」

「せんたく?」


 ゆうちゃんはママがいつも服を洗濯機に入れたり干したりしているのを思い出しましたが、女の子は首を振ります。


「しんたく。かみさまのおつげってこと」


 ゆうちゃんはよくわかりませんでしたが、女の子はふんわりと笑います。


「たんぽぽのわたげをね、おねがいごとしながらふーってふくの。ひといきでぜんぶのわたげをとばせたらね、そのおねがいはかなうよっていうかみさまのおつげなの」


「たんじょうびケーキのろうそくみたいに?」


 女の子は黄色いたんぽぽを両手で優しく包み込み、こくんとうなずきました。


「だからね、わたげになるまでまっててほしいの」


 それから、ぴょんっと跳ねるようにゆうちゃんの隣に立ちました。


「わたげになったら、いっしょにおねがいしよ?」


 女の子の手のひらと笑った顔が、ゆうちゃんの目の前にありました。


「………うん」


 白い息が頬にあたったらふんわりとあたたかかくて、ゆうちゃんは女の子の手を握りました。

 女の子はいっそう目を細めて笑いました。

 女の子の手は、とってもとっても、あたたかでした。



「わたし、あや。あなたは?」


「………えっと、えっと、ゆう」


 ゆうちゃんはすごく小さな声で、もじもじしながら言いました。

 あんまり小さかったので聞こえなかったかもしれないと思いましたが、あやちゃんは笑って、手を離しました。


「ゆうちゃん、おにごっこしよ? ゆうちゃんがおにね!」

「ま、まって、まって!」


 あやちゃんは、さっさかと走り始めます。

 ゆうちゃんはあわてて追いかけました。


「あははは、まったらおにごっこにならないよー」


 あやちゃんはひらりひらりと軽やかに駆け回って、全然つかまりません。

 いっぱい走ったゆうちゃんは、胸がどきどきして、息が苦しくて、体がぽかぽかあったかくなりました。



 いっぱいいっぱい一緒に走り回って、気がついたら夕方になっていました。



「……あしたはわたげになってるかな?」

「わかんない。天気のいいあったかい日にわたげになるんだよ」

「あやちゃんはあしたも見にくるの?」

「うん、くるよ」


 ゆうちゃんはその夜、疲れていっぱい眠りました。

 朝起きたら、いい天気でしたが、とても寒い一日でした。


 幼稚園から帰ったゆうちゃんは走って堤防にいきました。


 あやちゃんは先にきて、たんぽぽのところに座っていました。

 たんぽぽはまだ、黄色い花のままでした。

 だからまたあやちゃんとおにごっこで遊びました。



「あやちゃんはどんなおねがいするの?」

「ひみつ。ゆうちゃんは?」

「うー……ん、わかんない」



(おねがいって、なんだろう?)


 ゆうちゃんは考えました。


(サンタさんにクリスマスプレゼントをおねがいするみたいに?)


 かみさまはくれるんじゃなくて、かなうかどうかおしえてくれるってことは、サンタさんのおねがいとはちがうような気がしました。







 次の日も、その次の日も、天気はくもりでした。

 ゆうちゃんはまいにちまいにち、あやちゃんと遊びました。



「あのね、ぼく、おねがいきめたよ」


 かけっこで疲れたゆうちゃんは、たんぽぽの隣にごろりと寝そべって言いました。

 汗をかくほど暑かったので、地面がひんやりしているのが気持ちいいと思いました。


「あやちゃんとずっといっしょにあそべますようにって」


 すると、あやちゃんは悲しそうな顔をしました。


「べつのおねがいにしなきゃだめだよ」


「なんで?」


「かみさまにきかなくても、わかってるから」


「なんで?」


「わたし、ずっとここにはいられないから」


「なんで?」


 あやちゃんはぱっと笑って、手を差し出しました。


「もう、かえろ? 暗くなっちゃうよ」


「……なんで?」


「かえらなきゃいけないよ」


「なんで!!」


 あやちゃんは悲しそうに手を引っ込めて、さびしそうにどこかに帰っていきました。






     * * *






 次の日、たんぽぽはふたつとも、白いまんまるのわたげに変わっていました。


 だけど、あやちゃんはきませんでした。


 ゆうちゃんは、あやちゃんを待ちました。





 ずっと


 ずっと ずっと


 ずぅーっと 待ちました。





 今日はとってもいいお天気なのに、ぽかぽかおひさまが照らしてくれるのに。


 ひとりで座っていると、地面はひんやりつめたくて、さむくて、手があかくなっていました。



 それでもゆうちゃんは待っていました。




 だけどいくら待ってもあやちゃんはきませんでした。






 ゆうちゃんはたんぽぽをひとつ取って、思いっきり息を吸い込みました。冷たい空気が喉を通って、心までこおりそうでした。



(……かみさま、おねがい!)


 ゆうちゃんは、祈ります。


(あやちゃんに、もういちどあわせてください!)


 3匹のこぶたに出てくるオオカミさんみたいに思いっきり、胸いっぱいに吸い込んだ空気を、いっぺんにたんぽぽめがけて吹きました。






 けれどわたげは、半分くらい残ったままでした。




 ふー!


 ふーっ!!


 ふ――っ!!!




 ゆうちゃんはなんどもなんども、息を吹きつけます。

 けれども、わたげは揺れるだけでした。


 はぁはぁと息が切れるまで何度も吹いたけれど、1ぽん、2ほんと、ふんわり旅立っていくだけでした。



 ゆうちゃんは息が苦しくて、苦しくて、涙がでてきました。



 ゆうちゃんは、わたげが半分残ったたんぽぽを川に投げて、もういっぽんのたんぽぽをしっかりと握りしめました。



(――かみさま、おねがい!)



 もう一度、ゆうちゃんは祈りました。



(おねがいだから、ぼくをひとりにしないで!!)






 ぎゅっと目をつぶって、さっきよりも力一杯、体の中がぜんぶからっぽになるくらいに息を吹きかけました。














 ゆうちゃんは、ぎゅっと固くつぶった目を、ゆっくり、ゆっくりと、開きました。







 わたげがとんだあとのたんぽぽの頭は、ケンちゃんの坊主頭みたいでした。






 だけど。








 だけど。






 茶色の細長いタネからのびる白いわたげが、いっこだけ、残っていました。











 ぽろぽろ


 ぽろぽろ



 涙がこぼれました。



 かなしくて、さみしくて。



 ゆうちゃんは泣きました。











「おい、ゆう!」


 いきなり、ぐいっといきなり肩をひっぱられてびっくりしました。


「今日こそ、逃がさないからな」


 両手でサッカーボールをもったケンちゃんでした。


「いっしょにサッカーしようぜ、にんずう多いほうが楽しいからさ!」


 にっかーっと白い歯を見せて、ケンちゃんは笑いました。


「お? なに泣いてんだ?」

「……なんでもないよ!」


 ゆうちゃんは恥ずかしくて、涙をてのひらでぬぐいました。


「いじめられたんなら、おれがしかえししてやるからいえよ!」

「ちがうよ!」


 ゆうちゃんはあわてて首を振りました。

 ケンちゃんはゆうちゃんの手をみて、首をひねりました。


「なに持ってんだ?」

「え、と………あれ?」



 ゆうちゃんが持っているのは、たんぽぽのくきだけになっていました。


 わたげは、いつのまにかぜんぶなくなっていたのです。




 空を見上げたら、ふんわりと、さいごのわたげが舞っていました。



 くるくる

 ふんわり

 ふわふわ



 わたげはたのしそうに風とおどって、どこかへ、飛んでいきました。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 神託の花、拝読させていただきました。 ゆうちゃんの友達の輪に入るに入れないという小さい頃に経験するような葛藤がうまく表現されていて「こんな時あったなぁ」と思い起こさせます。 たんぽぽを通じ…
[良い点] 凄い…の一言につきます。 綿毛が飛んでいく場面の表現が素晴らしいです。 最後の敢えて余韻を残すところはグッときましたね……‼‼ [一言] これは評価されなければいけない…というこ…
[一言] 素晴らしい作品ですね。 以前から、童話向きの文体だと思っていたのですが、改めて読んでみると思った通り良く合っていると思います。 花言葉の神託だけではなく、別離までカバーするところが流石だ…
2014/12/20 00:01 退会済み
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