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思いつき

 突発的な感情とは何らかの原因により左右されている。そして原因には常に何らかの人為的な作用が有り、それに反応したのが人間の感情なのである。

静かな夜だった。耳を澄ませば隣人のいびきが微かに聞こえるほどだった。寒さを感じるほどだった。眠るという行為は億劫なものである。人間の眠りとは脳を休ませるという話を聞いたことがあるが、それは間違いなのではないかと思う。いや正確には間違いまではないかないな。つまりその、、、、あれだそうきっとそうなんじゃないか、、、

 嫌な夢を見たような気がする。微かにいびきが聴こえてる。時計の秒針が静かに音を一つ一つ的確に表現している。手探りで携帯を探す。無い。無い。枕の下に手を潜り込ます、あった。2時52分。寝れない。腹がすいた気がする。いやのども渇いてるな、いや少しトイレにも行きたい気もする。だけれども僕の体は自分の意志とは裏腹に動こうとしない。いや意志とは裏腹にでは無い。体と意志とは切り離しにくい。いやむしろ常に繋がっている。よってこの場合は意志により体が動かないのである。先ほどのは間違いだと思いながら、それを裏付けるように既に上半身を起こそうとしている自分がいた。欲求が勝ったのだ。僕は身体をゆっくり起こしポキポキなる関節を気にしながら部屋の中央にある、蛍光灯を点けた。いつもと同じだ。何も変わらない。それからゆっくりとキッチンのドアを開き冷蔵庫にある冷え切ったコーヒーを飲んだ。冷たい。持っているのも億劫になる。なにも持つ必要などないのかもしれない。嫌なことから人間は逃げる権利が有る。今回だってそうだ。冷え切ったコーヒーを飲みたくないのなら、持ちたくないのなら、冷蔵庫に入れる必要は無かった。適当に常温に晒すこともできたはずだ。なぜそうしなかったのかは分からない。常温に晒すのが怖かったのかもしれない。常温に晒すことににより、腐るのが怖かったのか、いやつまり時の流れが怖かったのか、自分がいつか直面する死が遠まわしに僕の心を鷲掴みしようと試みてきたように感じ畏怖したのか。つまり僕の心は病んでいた。

それはまるで砂漠の真ん中で、それも昼間のだ。砂漠で正座しているような感覚だった。そこで膝を焼きながら、明日雨が降るのを願っている。それを信じている。そんな感覚だった。ふと無造作にベッドの枕もとに投げ捨てられた携帯に目をやると、メールが来てるような気がした。画面の横の枠に近い部分が点滅を、青と無色が交互に示し合っているのが僕の眼に見えた気がした。メールを見にキッチンから寝室に体を迂回しようとする。もちろんコーヒーは冷蔵庫に戻してからだ。やはり僕は病んでいる。



 いつも思っていた。僕は誰かと比較した時に誰かがプラスの考え方や何かを持っている時、僕は常にその逆を行くということを。格好をつけているのかもしれない。他者と違うということを棚に上げて、自分を上に見てもらいたいという感情が有ったのかもしれない。でも今はそんなことどうでもよかった。ただもしメールが有るだけで嬉しかった。でも現実はメールなど来てはいなかった。光の反射と僕のある期待が僕の眼に作用したのだろう。人間とは都合のいい生き物だ。自分の受け取りたいように情報を捉え解釈する癖が有ると思う。無い期待さえも、プラスに変えてしまう能力が備わっている。だがそれはマイナスなことではない。僕にとってはマイナスであるが、今までの人類の歴史から考えれば、プラスの部分もある、いや半分くらいはプラスに、今に至るという意味ではさらにプラスであるだろう。

 僕は画面のバックライトを切り、そしてベッドのまくら元に携帯を放り投げた。それから自分の体もベッドに投げ込む。そして再びまくら元のそれにバックライトをつけ、慣れた手つきで暗証番号をタッチし入力する。受け身になることは簡単だと僕は思う。受け身とはなにもしないことである。だから誰も僕に声をかけない。人は自分を表示しないものには基本的に関わろうとしない。表面的な関係とはこれでも十分に成り立つがそれ以上の関係にはいたらないのだ。だから僕もここで彼女にメールを打ちたいと思う。事の発端はこうだ。

 僕には金が無い。このように表現すると僕以外は金が有るというような捉え方をされてしまうがそれは違う。正確には学生には金が無いである。だからバイトをしようと思った。 

僕は今までバイトをしたことが無かった。僕の心から体は親の金で成り立っていた。僕はこの生活から抜け出したいわけではないが、欲しいものがあったからそれを買うために金をためたかったからバイトをしようと思った。でバイトを始めた。そこの従業員の人のことが好きになってしまった。相手は自分より少し年上のように感じる。少し栗色の髪の毛は、僕の知的探究心をくすぐった。マスクをし髪の毛を束ね、僕のことは恋愛対象どころかまったくもはや興味がないようだった。表面的だ。その人の心が見えない。そして出口の見えない何かを感じてしまう程、本当になめらかに僕に接してくれる。まるでレインウェアのようだ。しかも登山用の。蒸れないし、さらには完全防水。他者が入り込む余地が無い。その隙間は自分が出るためだけに用意されているように感じた。で僕もその隙間に入れてもらうため、いや僕に興味を持ってもらうために僕は自分から彼女に興味を示してくふりをしようと考えたわけだ。そんな感じだ。僕はそんな女性に恋をしたというわけだ。メールを送った。内容はこうだ。単純にバイト終わりに食事でもどうかと こういう内容だった。明日の話だった。いや明日では無い。今日の話だった。

いつの間にか朝になってた。気づいたのは鳥の声のせいだった。夜に鳥は鳴かない。だから気づいた。僕はすんなりと起き上がれた。部屋が明るかったからだ。昨日のミスを考えて反省会を脳内で開いていた。そしてその論点は一つだった。なぜもっと早い時間帯にしなかったのか?だった。そしてそれが今日のこれからどのように関与していくのかを後悔とそして少しの期待とで抑えた。

学校に行った。飯を食った。そしてまた授業。そして終わる。答えは目の前にあるのに僕はそれを見ようとしない。何か生臭いものを感じる。これはたぶん、うん嫌な予感というものだろう。メールを見た。今日はバイトに行かないらしい。そして明日の午後からならいつでも行けるということだ。なぜだかわからないが、嬉しかった。僕は自分で彼女を誘っておきながら、少し面倒になっていた。理由は本当に分からない。

 そう考えながら、授業を終えて、いつものように大学の階段を下った。そしていつものように大学の生徒用の駐車場にある、自分の原付を探した。いつも探してしまう。最初から見つけていることは無い。忘れてしまうことが多い。最初からこのことは予測できるのにしようとしない僕はやはり少しいつも病んでいる。僕はそれを見つけ、サイドスタンドを蹴った。ハンドルを両手で支え、右手でキーをバイクに差し込み、右にキーをねじ込むようにひねる。そしてヘルメットを唾が逆になるようにかぶり、セルでエンジンをかけた、ひどくかかりにくい。いつものことだ。だがかける。ついた。僕は駐車場を出た。右折した。信号に引っかかった。僕は信号の言う通りにバイクのブレーキをひねり、そして停止したところで右足を地に擦るように着地させた。安定した。そしてふと横断歩道を渡る人たちに目をやる。夕日のせいで人の影が互いに混じり合い、そして一体化し一種のモニュメントと化している。僕はそれを見ながら答えを探す。探す。探す。ただただ思考する。自分の抱えている、得体のしれない暗闇の正体を探す。このごろの全ての嫌悪感は僕の心を侵していることは明らかなのはわかるんだ。そして考える。考える。この正体を考える。モニュメントが消え一つの影が僕の目の前を横切るのが分かる。だが考え、そして思考する。僕はそのまま足を地面から離陸させただ前を向いた。それからアクセルをひねり。夕暮れの、黄昏時をただただ走り抜けた。僕以外の人間はこの町、いや世界から消え去ったのではないかと思うぐらい。無機質に感じられた。風だけが有機的に感じられた。そして答えを見つけに、さらに加速させた。


 バイトが終わると九時だった。そして僕はベンチに座って彼女を待った。彼女は来た。彼女が僕の右隣に座るまでに、僕は気持ちをつたえようと思った。だけども彼女の顔を見て僕は辞めてしまった。今の彼女には、先週のレインウェアのような表面のなめらかさは無かった。今の彼女にはただ人間の生臭さが纏わりついていた。そしてその臭いが夜の冷気と意気投合し僕の口さきから、いや舌先から温度を奪っていった。僕たちは暫く談笑した。下らないことを話し合った。終始、彼女がただ質問し僕はそれに答え続けた。

「また逢える?」そう聞くと「いつでも」そう答えた。ゆっくり家に帰った。シャワーを浴びる。今日は楽しかった。シャワーを終えて。バスローブを右から着て、髪の毛にタオルを巻いた。窓際のソファに座る。そして冷蔵庫から出したばかりのジュースでのどを潤した。今日は楽しかった。また逢いたいそう思った。

バイブ音が鳴った。メールが来た。やっぱりかそういうことか、僕はこの世の全ての謎が解けたような爽快感が来た。静かに携帯を置きそして、カーテンを開き、夜の空に目をやった。あの頃の僕はもうそこにはいなかった。そして体を、心をその生臭さとともに、そしてその冷たさとともに抱いたのだった。


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