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独壇場

作者: WATT

 埃でくすんだ板張りの、軋む音など聞く耳持たず、ダン、と一つ足踏みをして、私は一人仁王立ち。

 赤青黄色のスポットライトに照らされて、夜光虫のような場見も歩幅で覚え、そばかす面の私ですら、今宵はこの世の王である!

 轟かせ、その音を! 響かせよ、私の声を!

 華やかなる浅葱幕も、静やかな黒幕も、今夜ばかりはスポットライトのまぶしさに目を細め。

 ある時私はヨヨと泣き、またある時は笑い立て、時には怒りにまかせて矢鱈滅多らこぶしを打ち、そして最後には歓喜の声を上げ。

 やがて、さあ、悲しいかな! 楽しい時は直ぐに去る!

 さあ、さあ、皆様。お別れだ。

 そんなに惜しむでないよ、両の手を打ち鳴らしておくれ! しみったれたのは好きじゃない。笑って私を見送っておくれ!

 私はいつまでも豆粒のような観客らに手を振った。

 おお、名残惜し! おお、愛おしや!

 緞帳よ、そんなにらすでないよ。いっそのこと一思いにやってくれ!


――しかしいつまで経っても幕は引かない。

 スポットライトなど初めから点いていない。音楽も鳴らない。

 ただ私のか細い声が、静かな劇場の空気を僅かに震わせた。

 観客などいない。居らぬものに私はいつまでも手を振り続ける。

 ああ、何という恥ずかしさ、浅ましさ!

 私はしがない切符切り。

 毎夜見る鮮やかな夢に心かき乱され、いつしか私は錯覚した。

 私もこの夢を形作る一員なのだと。

 ああ、愚かしや!

 私は赤面した。埃舞う床に恐れ多くも膝をつき、誰もおらぬ冷たい舞台のど真ん中、誰にも見られることのない顔を隠してヨヨと泣いた。

 許しを請うも、誰もおらぬ闇夜のことで、許されることもなく、そもそもなじられもせず。

 私はノロノロと立ち上がり、せむし程に肩を落として、舞台の下手しもてへと引き下がる。

 夜更けの窓に映る私の顔たるや、なんと醜きこと!

 私は逃げるように劇場を出た。

 そして明日もお客に愛想を振りまきながら、華やかなる舞台人たちを目の端で羨みながら、切符を切り続けるのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言]  独特の表現に心躍りながら、どんな話なんだろうと読進め、最後の最後に種明かしをされてなるほど! とスッキリしました。書くのに慣れてらっしゃるのでしょうか、文章の書き方が面白いです。これからも…
2014/06/22 09:57 退会済み
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