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feel lost

 互いを牽制するよう睨む合う二人。お気楽で平和な探偵倶楽部は、何処へ行ってしまったのだろうか。このまま放置して置くわけには行かない。自分を好きになってくれた凛に対し、何時か答えを出さなければならない。思い悩む大崎は、深く溜め息を付くのだった。


 コンコンッ


 一触即発とも言える状況の中、部室をノックする音した。開いた扉から一人の男子生徒が、遠慮深げに顔だけ出してこちらを覗き込んでいる。いきなり現れた明るい髪色の男子生徒に、かごめは不思議そうに問い掛けた。


「戸塚くん。どうしたの?」


 戸塚と呼ばれた男子生徒は、大崎に軽くお辞儀をすると、かごめに向かって手招きをした。


「ああ、ちょっとね。沢村、今出れないか?」


 かごめは浮かない表情で、手帳を机にしまうと立ち上がった。


「部長、少し出てきます。私が帰らないようなら、戸締りお願いします」


 かごめが戸塚と共に部室を出て行くと、凛は不敵な笑みを浮かべた。


「可愛い顔して、かごめちゃんもやりますねえ。サッカー部のエースを手玉に取るなんて」


「手玉? あの戸塚と言う生徒は、かごめくんの彼氏なのか?」


「気になります?」


「か、かごめくんが誰と付き合おうと、彼女の自由だ。ぼ、僕が気にする事では―――」


 焦る大崎を見て取ると、凛は更に付け加えた。


「彼だけじゃないですよお。他にも数人、似たような恋人がいます」


「ばっ、馬鹿な事を……かごめくんは、そんな子じゃないだろう」


「今までもこんな風に、いきなり男子生徒がかごめちゃんを誘いに来た事が、あったんじゃないですか? レイ様が知らなかっただけ、沢村かごめは、そういう子です」


 大崎の顔が急激に青ざめた。確かに凛の言う通り、何度か男子生徒がかごめを訪ねて来た事がある。大崎にしてもかごめのプライベートに、興味が無かったわけではない。しかし、知らずによしとして来たのは事実だ。小谷の言っていた事はこの事だったのかと、大崎の心中にあるかごめの姿が、音を立てて崩れ落ちた。


「自分はいろんな男子と遊んでおきながら、レイ様を独り占めしてたなんて、やり方がえげつないですよねえ」


「独り占め?」 


 凛は立ち尽くす大崎に、纏わりつくように寄り添った。


「探偵倶楽部の、レイ様の悪い噂を陰で流していたのは、かごめちゃんです」


「悪い冗談だ……」


「部員が減り出したのは、かごめちゃんが入部してからではないですか? でも実際噂を流していたのは、ミス研の小谷さんですけど」


「小谷はともかく、かごめくんがそんな事をしても、何の得にもならないだろう?」


「言わば、効果抜群の虫除けスプレー。小谷さんも人が良いですよねえ。あ、もしかしたら、小谷さんもかごめちゃんと―――」


「よしてくれ!」


 大崎は聞くに堪えないとばかりに耳を塞いだ。凛は震える大崎を労わるように、優しく腰に手を回した。


「もし凛の言う事が嘘だと思うなら、かごめちゃんの後を追いかけたらどうですか? 凛はここで待ってますから、かごめちゃんの正体を見極めるチャンスですよ」


「正体……」


「今日は待っても、かごめちゃんは帰って来ませんよお。きっと何食わぬ顔で、明日部室にやってくると思います。やっぱり思った通り、レイ様は何も知らなかったんですねえ」


 力無く肩を落とす大崎の頬に、凛は両手を添えた。


「信じてた人からの裏切り、ショックですよねえ。可愛そうなレイ様。でも大丈夫。かごめちゃんの事なんて、気にするだけ無駄です。これからは凛が、レイ様の傍にずっといますから、凛の事だけを見て下さいね。レイ様」


 耳を塞いでいるにも関わらず、凛の言葉は大崎の鼓膜を震わした。凛は踵を浮かせると頭を垂れる大崎の唇に、自分の唇を近づけた。放心状態の大崎は、潤いのあるピンク色の唇を只々呆然と、他人事のようにとらえていた。全てがどうでもよくなり、思考が停止する。


 互いの唇が触れるとかどうかといったその瞬間、大崎の脳裏に陽気に笑うかごめの顔が浮かび上がった。咄嗟に大崎は凛を引き離す。凛は驚き目を見張った。


「レイ様?」


「すまない」


「え?」


「一人になりたい。頼む、今は一人にして欲しい」


「レイ様……」


 凛は寂しそうな素振りをみせると、後ろ髪を引かれるように、そっと部室を出て行った。大崎は自分の椅子に座り、何時もかごめが座る椅子を眺めた。


「なんだこの痛みは……なんだ、この苦しさは……」


 大崎は、自分の机を力任せに叩き付けた。激しい振動と共に、叩いた拳に鋭い痛みが走った。痛みを堪えながら大崎は意を決した表情で立ち上がる。停止していた思考が目を覚ましたかのように、大崎は厳しい顔で部室を出て行くのだった。


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