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Faka

 凛の気持ちが嬉しくもあり、しかし、かごめの事を想うと素直に喜べない。今からこんな状況では、今後また不要ないざこざが起きてしまう。探偵倶楽部の部室に、凛と二人きりになった大崎は、複雑な感情に支配されていた。


 凛は答えを待たず、微動だしない大崎に揺れるように吸い付いた。凛は両の手を大崎の腰に回すと、頬を胸元に埋めた。


「りっ、凛くん! 何をっ」


 慌てた大崎は、凛の肩に手を掛け引きはがそうとするが、後ろで組まれた手は思いの他力強かった。


「やっぱり、かごめちゃんの事が気になるんですね?」


「離れてくれ、凛くん!」


「嫌です! レイ様は騙されてます。レイ様に掛けられたかごめちゃんの呪縛を、凛が解き放ちます」


 凛の言葉に、大崎の動きが止まった。


「かごめくんの呪縛? どういう意味だ」


「それは―――」


 凛が顔を上げ、大崎に何か言おうとしたその時、部室のドアが唐突に開いた。


「大崎!? いるか?」


 大声で何の遠慮も無く入って来たのは小谷圭祐だった。驚き振り返る二人、そして小谷は咄嗟に背を向けた。


「わ、悪い。続けてくれ」


 後ろを向きはしたものの、出て行くつもりはないらしい。小谷の来訪に、ガチガチだった大崎は、気が抜けたように安堵した。凛は思いがけない邪魔者が現れたとばかりに、つまらなそうな顔をする。大崎から口惜しそうに離れると、呆れ顔で口をとげた。


「今後ここに来る時は、ノックしてくださいね。ミス研の小谷先輩」


 よく通る聞き覚えのない声に、小谷はハッとして振り向く。


「かごめちんかと思ったら、花咲凛じゃねえか……」


「今日は帰りますね。レイ様」


 凛は呆然とする小谷の横をすり抜けると、ペコリとお辞儀をして颯爽と去って行った。


「なんで学園ランキング口説かれたい女子ナンバー1の花咲凛が、探偵倶楽部の部室にいるんだよ?」


「口説かれたい? 口説きたいの間違いじゃないのか?」


「んなことはどうでもいい。説明しろ大崎!」


 大崎は小谷の反応を見て取ると、満足そうに答えた。


「賭けは、僕の勝ちだな小谷」


「賭け? 嘘だろ……。この学園の男子生徒なら、誰もが憧れるあの花咲が、学園一のナイスガイの俺を差し置いて、よりにもよって大崎に?」


「彼女は、探偵倶楽部に入りたいとも言っている」


小谷は信じられないとばかりに声を張り上げた。


「ありえねえ! 絶対にねえ! 俺は認めないぞ大崎!」


「認めなくとも事実だ。眉を落とせよ小谷」


それを聞いて顔色を変えた小谷は、急に態度を変えると思い出したかのように手を叩いた。


「あっ、そうだ。忘れる所だった」


「また誤魔化すつもりか?」


「お前に見てもらいたい物がある」


小谷はポケットから皺くちゃになった紙を取り出すと、大崎に手渡した。


「これは?」


「三日程前に、家のポストに入ってたチラシだ」


 大崎は興味なさげに広げると、文字を目で追い出した。


「何でも透けて見える眼鏡、見たかったアレやコレが丸見えのスケールグラスついに登場。元宇宙開発MASAで生み出された技術を応用し完成された驚異の眼鏡。あの有名なUMA大学の物理学名誉教授、チュパカブラ教授もびっくりの新製品。購入者の声「世界的有名デザイナーによって手がけられた、飽きの来ないオシャレなデザインは、これだけで掛ける価値がある」「この眼鏡に出会えて幸せです。犯罪者にならずに済みました。本当にありがとうございました」我が社独自で開発したスケスケ調節機能内蔵で、布一枚から透けさせることが可能です。誰にも気づかれる事無く、あなたも今日から超能力者。小売希望価格二十九万円のスケールグラスが、ご好評につき感謝キャンペーン特別価格、四万九千八百円であなたのお手元に。ぜひこの機会にお買い求めください。イカサマ研究所株式会社……なんていかがわしい記事だ」


「大崎、この記事は本当だと思うか?」


「くだらない……。僕なら買わないが、欲しければ君の好きにしたらいいだろう」


「そう言うと思って、実はもう注文してある」


 途方にくれる大崎に、小谷は嬉しそうに答えたのだった。


「他に用が無いなら出てってくれ」


「なんだよ。ノリが悪いじゃないか」


「君との馬鹿なやり取りに、興じる気分じゃないんだ」


 大崎は小谷を無理やり部室の外に追いやった。


「スケールグラスが届いても、お前には貸さないからな!」


 捨て台詞を吐く小谷に構わず、大崎は部室のドアを閉めた。


「僕の知らないかごめくん……。それを知る凛くん……僕は、誰を信じればいいんだ」


 ドアにもたれ掛り、誰も居なくなった部室で、大崎は静かに目を閉じるのだった。


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