Last Episode ~勇者と魔王の戦い~
ある意味、必然的な終わりだったのかもしれない。
『勇者スィブル、勇者スィブル』と持て囃されていた俺だったが、呆気なく魔王にやられてしまった。
『永遠の闇に彷徨え』
その一言により、俺の目の前は闇に包まれた。
希望など何処にもなかった。
光明など見えなかった。
「ははは……、ここまでかよ」
俺の口から嘲りの乾いた笑い声が溢れた。
それさえも闇に包まれた消えてしまった。
「せめて、最後にアイツに会いたかったな……」
脳裏を駆け巡るのは、故郷で愛を語り合った彼女との思い出。
俺が勇者になり、故郷を旅立ってからもう何年も会えていない。
そしてもう会うことは出来ないと思うと、どうしようもなく涙がこぼれてきた。
「遺憾だ、スィブル」
その時、闇だけの空間に突然、彼女の声が響いた。
俺は驚き周りを見渡したが、彼女の姿はなかった。
『遺憾だ、スィブル』。
それは、俺がなにかを諦めようとすると彼女が毎回いってきた言葉である。
『スィブルはこの程度の男ではないはずだ』
『スィブルよ。 私に見せてくれ』
『スィブルが光輝くところを!!』
そう言って何度も俺に発破をかけてきたのだ。
その声は俺の心から生まれた、幻聴だったのかもしれない。
しかし俺が戦意を取り戻すのには、充分過ぎることだった。
「おおおおおぉぉ!!!」
己の全身全霊を込め。
俺は剣を振るった。
空間が縦に裂け、光が見えた、そこに勇者(俺)を倒したと思い、気を抜いている魔王がいた。
もう残りの力は無いに等しかった。
だけどもうここしかチャンスはなかった。
「うわぁぁぁぁ!!」
理性など人間性などかなぐり捨て、俺は闇の空間を飛び出した。
「!!?」
仮面の上からもハッキリ分かるほど、呆然としながらも、魔王は俺を迎撃しようと大量の魔法を唱えてきた。
「アぁアアあアアぁァぁ!!!」
身が焼かれようとも、引き裂かれようとも、凍りつこうとも、俺は止まらず躊躇せず獣のごとく叫んだ。
「悪を切り裂け、正義の名の元に己の正しさを示せ。例えそれが己だけの正しさとしても、意味がないとしても、愚直に己の正しさを信じぬけ!!!」
行うは俺の……いや人類最強の技。
「『破邪絶閻』!!」。
俺の剣は魔法壁を破り、魔王を切り裂いた。
「はあはあ……」
余韻はなかった、魔王はその力とは合わず、ゆったりと倒れた。
「――見事だよマイスター」
俺の乱れる呼吸音を破り、彼女の声がした。
魔王から彼女の声がした。
「なっ、なんで!?」
焦る気持ちから震える手で、魔王の仮面を取るとそこに――
「久しぶりね、スィブル」
そこには思いこがれていた彼女の顔があった。
「な、なんで彼女の顔をしてんだ……? --そうか魔王が俺を精神的に揺さぶろうとして――」
「ひどいわねマイスター。 遺伝よ、この顔は」
すがるように弱々しく言う、俺に彼女は昔と変わらないように笑った。
「だけどやっぱりスィブルね。 魔王であるこの私を倒すなんて」
彼女は褒め称えるように、俺の髪を撫でた。
「ど、どうして……。 どうしてお前が魔王なんだよ!!」
悲痛のごとく俺は叫ぶ。
「あんまし耳の近くで叫ばないでよ」
彼女は少し困ったように笑った。
「簡単に説明してあげると、私は魔王になるべくして生まれたの」
「ど、どういうことだよ?」
俺の質問に彼女はどこか遠く見ながら答えた。
「私は生まつき、悪意を集めやすいのよ。 人、魔物、植物、有機物、無機物関係なく。 世界中の全ての悪意が私に集まってくるの。 そして私はその悪意を増幅させてしまう」
「それによってお前は魔王になったと?」
「さすが勇者ね。 正解よ」
彼女は誇らしそうに笑った。
それが俺にはわからなかった。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?
「なんで!? お前は笑ってんだよ!! 俺の手でお前は死ぬんだぞ!!!」
彼女の腹からは、どうしようもないほど大量の血が流れ、顔はゆっくりと青くなっていき、彼女は着々と死に近づいていた。
「なに言ってんのよ」
それでも彼女は笑みを浮かべながら、さも当然のように言った。
「貴方に殺されて嬉しいからに決まっているでしょ」
「えっ?」
「分かんないの? 仕方がないわねスィブルは。 私は完全に悪意に取り込まれ、自分を無くし魔王になっていた。 そんな大嫌いな自分をスィブルが止めてくれて、そして最後の会話の相手が貴方なのよ? 嬉しいに決まっているじゃないの」
「なんだよ!? 意味わかんねぇよ!! お前は昔からそうだ、意味わかんねぇことばかり言いやがって!!」
「そうね、ごめんなさい。 意味が分かんない女で」
「そうだよ!! だから――」
俺の目から涙が溢れていた。
「俺にお前を教えてくれ!!!」
「!?」
「何年でも何十年でもかけていいから、俺にお前を教えてくれ!! 俺はお前をもっと知りたい!! お前の全てを知りたい!! そして、お前に俺をもっと知ってほしいんだ!!!」
俺はただ感情に任せ叫んだ。
「――ホントにスィブルは自分勝手よね」
彼女は笑っていた。
故郷で語り合っていた時のように笑っていた。
「俺は本気で――」
「知ってるわよ、スィブルはいつも本気だもんの。 本気で私のことが好きなんだもんね」
昔みたいに彼女は茶化すように言う。
「うっ!」
はずかしかさのあまり、俺は顔を背けた。
「だけど、私は言わんよ、大好きなんて」
彼女の手が俺の頬を撫でる。
「えっ!?」
俺が驚きで彼女に顔を戻すと、彼女が俺の首に抱きついてきた。
そして彼女は耳元で一言囁いた。
「愛してるよスィブル」
それが最後の力だったのだろう……。
彼女の、腕の力がスーと抜け、落ちそうになったのを寸前で俺は抱き留めた。
彼女の体は魔王の強大な力とは違い俺の腕にすっぽりと収まるほどに小さく、そして冷たくなっていた。
「なんだよ……。 俺が努力して付けた力は守るためだったはずだ!! なのになんだよ!! 一番守りたかったもんを殺して何が勇者だよ!! コイツはこんな小さな体に……世界中の悪意を抱え込み。 俺に殺される決意をしていたいうによ!! こんな運命ありかよ!! こんな終わり方ありかよぉぉぉぉぉ!!!!!」
彼女は俺の叫びに答えてくれなかった……。
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