第3話 瞳の攻め、受け身のせん
一緒にいこうよ!ほら、速く、手、手だして、行こう、行こう
ほらもっと、くっついて、遅いってばー
せんは入寮翌日、軽く外を走り、その後
寮の書棚に何年前のであろうか、赤本があり、それを手にとった。
少し風にあたりたいこともあり、
タブレットと、赤本をもって、寮の外ベンチにすわり
赤本を開き、回答をタブレットに埋め込んでいった。
こんなものか、そう思っていると、
昨日の女の子が、不思議そうに、近づいて来て
おはよう(あ、そういえば、名前知らないし、私も名前言っていない)
私は、赤澤 瞳 吹奏楽部の特待生よ、宜しくね」
「ところでお名前を聞いても良いかしら?
僕に話しかけているのだよね、昨日手を握られた子から
周りには誰も居ないから、僕だ。
「増田 選です。中等部からそのまま、進学です。野球部に居ます」
瞳さん
「せんっていうのね、じゃーこれから、せん と呼ぶね」
せんさん(いきなり、呼び捨てか、ま、良いのだけれど)
「赤澤さんは、吹奏楽部とのことですが、中学校はどちらで」
瞳さん
「赤澤さんなんて、いわないの、瞳よ、瞳、ひ・と・み」
せんさん
「あ、すいません、赤澤さん」
瞳さん
「だ、か、ら、瞳。わかった、せん、ひ・と・み、そう呼んで」
せんさん(なんだか、ぐいぐい来るなこの子、変わった子だ)
「わかりました、瞳さん、それで出身は」
瞳さん
「いい、もう1度いうわね、瞳、ひ・と・み、わかるわよね?」
せんさん(うおー、譲らない、凄い人だ、構わないが、姉貴たちより凄いかも)
「はい、瞳、それでは、出身はどちらで」
瞳さん(うん、良い、良い)
「わたしは、福岡なの。家に誰も居なくて、それで寮に」
せんさん
「家に誰も居ないとは、あまり聞いてはいけない話?だよね」
瞳さん(あ、そう聞こえちゃうか、そうだよね)
「そうではなくて、両親がパイロット、飛行機関係で、兄も同じで、家に帰ってこないの」
「正しくは、来月から兄も社宅らしく、私一人になるから、寮のある学校へ」
「それで、福岡から出て来たの」
「ね、せん、東京案内してよ。わたし、東京初めてなの?」
せんさん
「生まれも育ちも東京なので、案内できますよ。ただ、外出届を出さないといけないのと」
「正式に入学し、高校生にならないと、余程の理由がなければ、出れないと」
「説明会で言っていましたね」
瞳さん
「あ、確かに、言っていたね。さっきから、気になっていたのだけれど」
「それ、赤本よね、解けるの?」
せんさん(タブレットと赤本を渡して)
瞳さん(凄い、凄い、全問正解している)
「すごーい、せん、最高、全部正解じゃない、あなたが中等部1位なのでしょう」
せんさん
「一位を取りたくて、一位ではなく、全て満点だから、結果的に1位しかなくなる」
瞳さん(彼だ、彼、このドキドキは、間違っていない、彼こそが、私が探し求めていた、そう・・・)
そのような会話が幾度となく続き日が過ぎていき、入学をし、高校生活が始まった。
せんさん(しかし、なんだろう、勉強は簡単すぎるし、あと女性が誰も寄ってこない)
せんさん(野球部も練習していないし、今日も寮で勉強するかな、来年の春にはアレがあるし)
一方の瞳さん
瞳さん
「じゃーん!これ、これみて、わかる、増田 選、せんよ。彼は私のモノ」
「宣言するからね、誰も手を出しちゃだめよ、せんは、私のモノでーす」
女子生徒は、瞳の公開宣言にあっけにとられていた。
そして、寮でも二人で一緒に勉強する日も増えて行った。
せんさん(なんで、いつも、個室なのだろう、大部屋で良いのに)
瞳(二人きり、二人きり、よし)
「あ、ごめん、筆箱落としちゃった」
せんさん(筆箱は普通、落ちないだろうに…)
せんさんが、しゃがむと、え?ええ?えええええ??
なんと、瞳の下着が見えているのである、
せんさんは顔が真っ赤になり、即座に筆箱をとり、よそ見をして、筆箱を渡す
瞳(これは、きてる、きてる、良し、ここで)
「せん、野球部負けちゃったね、そこで、明日の文化祭、一緒に回ろうよ」
せんさん
「うん、野球部負けてしまった。野球になっていなかったね。」
「そうか、文化祭いけるんだ」
瞳
「だ、か、ら、文化祭、二人で、回るの?わかった?答えは?」
「YES OR OK?」
「どっち、速く、選んで!!!」
せんさん(…それ、選択肢、無いのですが)
せんさんと、瞳さんは、いつも二人で一緒に居た。
あきらかに、誰から見ても、カップルであった。
年が明け、新入生が入ってきた。野球部に2名。
U-15代表の御手洗君、軟式野球の本田君
野球部は先輩を合わせて、23名になった。
その年の春、代表として、せんと、本田は数学オリンピックに出る事になった。
せんさん
「瞳少しばかり、行ってくるね」
瞳(いやよ、わたしも、連れて行ってよ…)
(しかしスピードも競う数学五輪には、正確性をもとめる私には不向きであった)
「では、おまじない、してあげる、せん、こっちにきて」
すると、瞳さんは、せんの顔を、自分の胸に押し付けて
「どう、おまじない、効いた?効果てきめんでしょう?あれ?あれれ?」
せんさん(まったく、身動きがとれず、どこか、遠くにいってしまったようだ)
瞳
「せん、せん、せん、大丈夫?こうすると、喜ぶって書いてあったから、ネットにね。あれ?」
「おーーい、せん、おーーーい、せん、」
せんが気を取り戻すのに、10分位待っていた瞳である。
せんが居ない、日が過ぎていく、そして、帰ってきたのである
瞳の元に、せんが。
せんさん
「ただいま、瞳、とったよ、数学オリンピック金メダル、かずきも、銀メダル、和井田で独占」
瞳(すごい、すごい、それって世界一ってことじゃない)
「おめでとう、さすが、せん、せん、こっちきて」
瞳はせんの、腕をひっぱり、またもや、せんの顔を、自分の胸におしつけると
せんさんは、どこか、遠くにいってしまったような、感覚で、返事がない。
瞳(あれ?あれ?あれれ?、せん、大丈夫かしら?、ハグってこうするのよね?)
瞳(違うの?違うの?あれ、調べるところ間違ったかしら?)
「おーーい、せん、おーーーい、せん」
せんさんは、正気に戻るまで、10分かかっていた。
瞳の想いは伝わっており、せんの思いも伝わっている
はずであった
そう、そのはずであった。
想いは、伝わっている、はずであった。