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8話 国家兵士団長レイ

 ルナックには観光客が集う中心区と呼ばれる区域があった。その場所は所狭しと高級店が並んでおり、すれ違う人は皆キラキラと輝いている。


 そんな中心区の観光スポットの1つにルナック大劇場というものがあった。


「やはり間近で見ると迫力が凄いですね…」


 国家兵士団長から受けたオークションの検品依頼。それを遂行するためにオークション会場である大劇場にやってきたが、凄まじい大きさと眩しい黄金色に圧倒されてしまう。


 普段はここで名のある歌手や役者たちが富豪を楽しませているのだ。


 俺は自然と背筋を伸ばしてネクタイを締め直す。腰にある刀の角度を調整して再度黒スーツのジャケットを綺麗な位置に定めた。


「よし」


 ここに居る人たちは誰しもが俺を国家の一兵士だと思っているだろう。


 けれど俺はリメンバーの肩書きを背負っている。だらしない格好はヤコウ店長たちの顔に泥を塗ることと同じ。

 ……こんなことを言うと真面目すぎると毎回ツッコミを入れられるのだが。


 脳内で呆れ顔を見せる2人を思い浮かべながら俺は、大劇場の中に入りスタッフに兵士団長が置いていった依頼書を見せた。


「すみません。オークション商品の検品に来たのですが」

「もしかしてリメンバーの方でしょうか?」

「はい。ヨザクラと申します」

「お待ちしておりましたヨザクラ様。実は先ほど兵士団長のレイ様がこちらに来られましたよ」

「え?レイ団長が来ているんですか?」

「はい。現在はシアターホールにいらっしゃるはずです」

「挨拶したいので案内をお願いできますか?」

「もちろんです。こちらへ」


 まさか大劇場に兵士団長が来ているとは。


 クロバラ先輩は昨日の件を彼に報告をするために兵士詰め所向かっているはずだ。完全に行き違いになっている。


 俺は焦る気持ちを抑えながらスタッフの後ろを着いていき、1番大きいシアターホールに案内された。

 そこは目が眩むほどの椅子で埋め尽くされた空間で下へ降りていくと大きなステージが鎮座している。


「あちらにいらっしゃいます」

「ありがとうございました」


 スタッフは綺麗なお辞儀を見せるとシアターホールから去っていった。

 俺はステージの上で書類片手に何かを確認している兵士団長に手を挙げながら声をかける。


「レイ団長!」

「おや?ヨザクラくんではないか」


 兵士団長は俺の存在を確認すると同じように腕を伸ばして手を振った。俺は出来るだけ埃を立てないように静かにステージへと降りていく。


「やぁ。検品に来てくれたのかな?」

「はい」

「それはありがたい。ヤコウさんがいつまで経っても依頼受理の連絡をくれないからてっきり断られたのかと思ったよ」


 そう言いながら爽やかな笑みを浮かべるこの男性こそが国家兵士団長のレイ。

 この人はルナック中の治安警備に当たる兵士たちを統べる人物だ。


 年はヤコウ店長よりずっと下で若いのにも関わらず、頭が切れて戦闘面でも文句なしの天才。

 よくプライベートで酒場に呑みに来るので新人の俺でも親交がある人だった。


「レイ団長。実は今日、クロバラ先輩が貴方に会いに行く予定がありまして」

「クロバラちゃんが?仕事かい?もしかしてプライベートとか?」

「仕事ですね」

「なんだ。この前誘ったデートの返事をしに来てくれるのかと思ったよ」

「そうだったらお断りの返事だけを持ってくるはずです」

「ヨザクラくん……君も少しずつクロバラちゃんに似てきてない?」


 俺は苦笑いして流す。やっぱりこの人は苦手だ。


 レイ団長は仕事も出来るし戦闘能力も高い。でも掴めない部分が多く、部下たちの面倒もあまり見ない放任主義者だ。


 そして何よりチャラい。酒場へ来るたびにクロバラ先輩に言い寄っては鋭い言葉で撃退されている。

 単純に面白がっているだけなのか、本気でクロバラ先輩を狙っているのかはわからないが。


「まぁとりあえずクロバラちゃんのことは了解した。詰め所には副団長もいるし大丈夫だろう」

「いやでも」

「ん?何か重大な報告なのかい?それなら手間をかけるが彼女の方から大劇場に来てもらう必要があるな。生憎、ここから離れられないんだ」


 レイ団長はやれやれと疲れた様子でシアターホールを見回す。

 クロバラ先輩には申し訳ないが遠回りしてここに辿り着いてもらおう。


「レイ団長は先ほどから何をしているんですか?」

「いやぁ実はさ。どの席に誰を座らせるかを決めるのも僕たちの役目でね。このステージに上がって見やすい場所を探しているのさ」

「その場所はランクが高い富豪が座るのですか?」

「ああ。お得意様や国家上層部の人間もだね」

「そういえばヤコウ店長が逞しい筋肉の彫像が出品されるのならオークションに参加するって言ってましたよ」

「ならヤコウさんは体格的に1番奥の1番端になるだろうねぇ」

「伝えておきます」


 筋肉で埋め尽くされた背中が前列側にあったら後列の人がきっと不満に思いそうだ。俺はそんな光景を想像してしまい小さく笑う。


 レイ団長も同じことを思っていたのか吹き出すように笑っていた。


「それじゃあヨザクラくん。来て早々悪いが検品をお願いしたい。商品が保管してある倉庫は大劇場の地下にあるから案内しよう」

「でもレイ団長の仕事終わってませんよね?」

「休憩さ。椅子と図面ばかり見ていたら飽きてしまう」


 レイ団長は書類を脇に抱えるとステージから降りていく。俺もその後を追ってルナック大劇場のシアターホールから退室した。


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