7話 次なる任務
翌日の朝。酒場でヤコウ店長が作ってくれた高タンパク朝ごはんを食べながらクロバラ先輩に反省文を見せている時のことだった。
「ここまでわかっているのなら私から言うことはないわ。次に活かしなさい」
「はい。ありがとうございます」
「ガハハッ!まさか反省文方式の説教に変わるとはな!クロバラお前、教師の演技を練習しているのか?」
「違うわよ。毎回同じやり方だとこの子が聞いてくれなくなるかもしれないでしょ?いつ反抗期が来てもおかしくないわ」
「俺の年齢からして反抗期は既に去ってますよ…」
「いいやわからんぞ!ヨザクラは素直で良い子だからな。遅い反抗期が来てしまう可能性もある!」
ヤコウ店長は眉間に皺を寄せながらプロテインをシャカシャカと振り出す。とても激しい振りだった。
「もしそうなったら店長の拳で目を覚ましてあげてちょうだい」
「任せろ!!」
「恐ろしいんですけど」
俺はほぼサラダチキンサラダを食べながら苦笑いする。クロバラ先輩は冗談で言ったと思うが、ヤコウ店長は本気だろうからどういった反応をしたら良いかわからない。
ふと、俺は時計を見てバーの奥にある扉に顔を向ける。
「メイさんは寝ているんですか?」
「ぐっすりよ。今までどれだけ質素なベッドを使っていたのかわからないけど、幸せそうに毛布に包まっていたわ」
「ムムゥ……複雑だな。一体今のルナックにどれだけの貧困民がいるのやら」
傍から見たルナックは高級街で埋め尽くされ誰もが金を持っていると思われている。
富豪が集う人類の理想郷なんて呼ばれているがそれはあくまで観光客に対する話だ。
実際のところルナックに住む地元民は貧困層が拡大している。つまりメイさんの状況も珍しいものではない。
「まぁオレたちに出来ることは錆人を狩るだけだ!というわけで2人とも新しい仕事がある!」
ヤコウ店長は終始ずっと振っていたプロテインをカウンターに置くと胸を張って腕を組む。
プロテインは泡状になっており、ゆっくりと破裂しながら元に戻ろうとしていた。
「まずはクロバラ。昨日の件を国家兵士団長に直接報告してくれ。連絡が乗っ取られている可能性。謎の小道具の存在。そして兵士になりすまして錆人がリメンバーを誘き寄せたこともだ」
「わかったわ」
「次にヨザクラ。お前は今度開催されるオークションの会場、ルナック大劇場に向かってくれないか?実は以前に兵士団長から出品される物の検査をやって欲しいと言われててな」
予想外の仕事に俺は味玉に刺したフォークの手を止めてしまう。てっきり昨日の現場の調査を命じられると思ってた。
「検品ってことですか?」
「ああ。やはり中には危険物などが紛れ込んでいる可能性もある。それに国家主催だから商品数が凄まじいらしい」
「でもそういうのってクロバラ先輩やゾンビ先輩の方が専門分野じゃないですか?」
「私は報告。そして部屋から出ない姉さんが月の下に出ると思っているの?」
「いえ…」
「ガハハッ!安心しろヨザクラ!お前にはちゃんと危険物の見分け方や処理を教えたはずだ!まさか忘れたとでも言わんよな!?」
「忘れてません!」
「じゃあ昨日の失敗でリメンバーとしての自信を無くしたのかしら?」
「無くしてません!」
「素直でよろしい!これで異論はないな」
俺は力強く頷いて味玉を食べる。なんか流されたような気がするけど深くは考えないでおこう。
むしろ中々無い検品という仕事は新しい発見があるかもしれない。
そんな俺を見て豪快に笑ったヤコウ店長は置いておいたプロテインを開け、一気に飲み干した。
「そしてオレは酒場の売り上げが上がるように宣伝を考えよう!高級な店には負けん!!」
「この脳筋、前みたいにキャバクラ風にするなんて言い出さないと良いけど」
「そもそも錆人を取り締まっている人間が営む酒場って勝ち目あるのでしょうか?」
「ヨザクラ。それを言ってはいけないわ。この人に現実を見せてはいけない」
「す、すみません」
「聞こえているぞ2人とも!」
ヤコウ店長は拗ねたように唇を尖らせる。クロバラ先輩は引いた顔で「それが可愛いと思っているの?」と鋭い言葉で刺した。
いつも通りの月が昇る朝。そこにメイさんが加わったらもっと賑やかになってくれるのだろうか。けれどメイさんが酒場に来る様子はない。
仕事に行く前にヤコウ店長に伝えておこう。もしメイさんがヤコウ店長に何か聞いてきたら優しく聞いてあげて欲しい、と。




