54話 家族という名の連帯責任
雲1つ掛かってない月が昇る夜。無事にルナック国家主催オークションは大盛り上がりで幕を閉じた。
あの後、近くの空席に座りながら様々な商品を見ていたがメイさんが入れそうな他の彫像は現れることはなかった。
富豪たちが満足そうな表情で次々に席を立ったのを見届けて俺は1番奥の1番端の席に向かう。
「ヤコウ店長!」
「おぉ!ヨザクラ!無事に入れて何よりだ!」
「入れて……ってまさかこの参加証って」
「ガハハッ!オレが国家の上層部に無理言って席を取ってもらったのだ!普段から手を貸していたお陰ですんなり貰えたぞ!」
ムキムキの腕を組んで豪快に笑うヤコウ店長。ずっと朝から居なかったのはこのオークションに参加するためだったのか。
「でも俺、オークションに逞しい筋肉の彫像が出るなんてひと言も教えてませんよ?」
「ムムッ?何だお前。オレが単純に筋肉の彫像が欲しいがだけに、ちびっ子たちを仕事に向かわせながらオークションに参加したと思っているのか?」
「違うんですか?」
「心外だな!ガハハッ」
以前オークションに参加しないのかを聞いた時、ヤコウ店長は逞しい筋肉の彫像が出品されるのなら出ると言っていた。
でも俺は落札した際にクロバラ先輩と喧嘩になるからあえて検品時に見つけた彫像を教えなかったのだ。
だからこそこの場にヤコウ店長が居たのことに驚いたし、まさか落札してしまうとは思いもしなかった。
「オレは最後の砦としてここで構えていただけだ。もちろんお前たちなら彼を見つけてくれると信じていたが一応な」
「あっその件に関しましては無事取り返せました。後処理はクロバラ先輩とゾンビ先輩がしてくれています」
「100点満点!では落ち着いた場所でその話は聞こう」
「待ってくださいヤコウ店長!さっき落札した彫像って今すぐ取りに行けますか?」
「……やはり何かあるのだな」
「えっ?」
「いや移動しながら話そう。少し待っててくれ」
ヤコウ店長は自席から離れるとステージ前に座っているとある集団に話しかける。
俺は1番後ろでそれを見守っていた。やがて軽く手を上げたヤコウ店長は俺の所へ戻ってくる。
「よし。第一倉庫に行くぞ」
「今の方たちは?」
「あれが今のルナックを統べている上層部の人間たちだ」
俺は思わずステージ前へ振り返ってしまう。あの人たちがルナック国家上層部。
レイ団長より詳しくはないが俺は自然と敵視してしまう。
そんな俺を宥めるようにヤコウ店長は背中を軽く叩いた。
「オレにも聞きたいことは色々あるだろう。それも歩きながらだ」
「……はい」
俺たちは一緒にシアターホールから出ていく。オークションの熱気が一瞬で冷めた気がした。
ーーーーーー
会場から離れれば人が次第に少なくなる。みんなルナック大劇場から出るための通路しか使わないからだろう。
「大抵は落札した商品は後日送り届けられるんだ。でも今回は俺の顔と名前を使って特別に受け取る許可をもらった。あの集団の中にオークションを取り締まっている奴がいてな」
「なるほど」
「ではまず貰えるものを貰っておこう」
俺は懐からハンカチに包まれたチップを取り出してヤコウ店長に預ける。
書類ではなくチップになっていたことにため息をつきながらヤコウ店長は受け取った。
「オレは機械類が苦手なんだよなぁ…。クロバラに手伝ってもらうしかないか。とはいえご苦労だった。もしもオークション会場に彼が現れたらオレが止めに入るしかなかったからな」
「はい」
「それでお前が必死になっている理由は何だ」
「レイ団長から聞いたんです」
俺はレイ団長から教えられたメイさんの居場所の件をヤコウ店長に共有する。
そして賭けのことも、レイ団長が込めた願いも。
「確かに今日参加した富豪たちは皆ルナックの外から来た者だ。逃げさせたいのなら理にかなっているな」
「まだ確定ではないです。けれども俺はあの彫像の中にメイさんが居ると信じています」
「ガハハッ!通りでヨザクラでは払えない額を大声で投げ飛ばすわけだ!」
「や、やっぱり聞こえてたんですね」
「当たり前だ!知っている声が必死に競り落とそうとしていたのだからな。それで何かあったのだと察して落札したんだ。まさかお嬢さんが入っているとは思わなかったが!」
「でもあんなお金どこにあるんですか?富豪が感心するレベルのお金を」
「もちろんここ数十年のやりくりと借金だ!」
「しゃ、借金!?」
たぶんヤコウ店長はリメンバーの仲間に借金するのではなく他の金融機関に借りるつもりだ。
数十年のお金がどれくらいあるかわからないが俺は震えてしまった。
「ガハハッ!物欲がないお前にプレゼントしてやりたくて頑張ってしまった!」
「俺も少し肩代わりします……」
「いいやリメンバー全員で肩代わりだ!」
「ええっ!?それってクロバラ先輩たちもですか!?」
「もちろん!リメンバーは連帯責任だからな!ガハハッ!」
そこでも連帯責任を使ってしまうリーダーはどうなのだろうか。
俺は落札した金額を教えられた時のクロバラ先輩を想像する。きっと半殺しにされるだろう。
そしてゾンビ先輩はイヒイヒ笑ってクロバラ先輩に全て丸投げしそうだ。
すると隣を歩くヤコウ店長の身体が揺れているのに気付く。いや、揺らしているのではない。震えているのだ。
「こんな時こそ徹底的な空元気だ!ガッ、ガハハッ!」
「顔が真っ青ですよ!?」
俺の必死さだけで読み取ってくれて富豪たちに負けないようにヤコウ店長は頑張ってくれたのだ。
やはり俺が多めに肩代わりしなければ。そして今よりも倍働かなければ。
「はぁ、それにしてもオレの管理不足で今回の事件を引き起こしてしまうとはな。申し訳なかった」
「謝る必要はありません。それも連帯責任です」
「ガハハッ!言うようになったな!………実はオレはあの兄妹を昔から知っていたんだ」
「だから教会にメイさんが居るってわかったんですか?」
「わかったというか候補地だっただけだ。レイが国家兵士団に入った当初はオレも個人で錆人の取り締まりグループを結成しようとしていた時だったな。知り合いの紹介で熱い子が居ると教えてもらった」
「スカウトしたんですか?」
「いやしなかった。彼の目にはオレでも扱いきれない闇があったからな。でも今となっては難しくても救ってやれればと後悔している」
ヤコウ店長はこれ以上深いをするつもりはないみたいだ。
いつかその話の続きを聞けたらなと俺は思いながら歩き続ける。
俺に絡みついていた糸は解けきったが、まだ余韻を残すように身体に垂れ下がっていた。
それでもレイ団長を止められたことに関しては自分を褒めてあげよう。メイさんを迎えに行った後に。
「ヤコウ店長」
「何だ?」
「俺はメイさんを救いたいんです。もし壁にぶつかったら力を貸してくれませんか?」
「ガハハッ!当たり前だろ!リメンバーは連帯責任だ!」




