4話 賑やかなメンバー
「紹介します。こちらが酒場の店長でありリメンバーのリーダーでもあるヤコウさんです」
「ヨザクラが可愛い女の子連れて帰ってきた時は驚いたぞ!事が落ち着くまではこのバーで休んでいてくれ!」
「あ、ありがとう…ございます」
「そうだ!落ち着かせるためにプロテインでも飲むか!?ココア味から抹茶味、バナナ味など揃っているぞ!」
ルナックの外れにある酒場に帰った俺たちをカウンターで出迎えるのはヤコウ店長だ。
ムキムキの筋肉を魅せる服装とパンダエプロンがとても似合う酒場のマスターで、とても明るい性格の持ち主。
それに加えて錆人取り締まりの実力を兼ね揃えた俺たちの自慢のリーダーだった。
「やめなさいよ店長。この子がまず先にするのは手当てとシャワーを浴びることよ。全く、脳筋な考えは常連さんだけにしてちょうだい」
バーカウンターの下から次々とプロテインの袋を取り出すヤコウ店長にツッコむのは、漆黒のドレスを纏うクロバラ先輩。
この人は俺に錆人取り締まりのイロハを教えてくれた人で普段は密偵やハニートラップによる情報収集を専門としている。
けれどクロバラ先輩は戦闘センスもピカイチで銃やナイフを使った戦い方は夜を駆ける踊り子のようだった。
「えっとリメンバーは……沢山の活躍を耳にしています。その、そんな人たちに助けてもらえて私は運がいいです」
「ガハハッ!緊張することない!片や銃、もう片方は刀。そしてオレは狂気的な筋肉を持っているがそれは全て錆人に向けられるものだ。お嬢さんは肩の力を抜いてそこのソファにでも座っていると良い」
「ヤコウ店長。先ほどクロバラ先輩が手当てとシャワーを先にと言っていましたが」
「ムムッ!そうだ!クロバラ頼めるか?身体の隅々まで手当てし奥深くまで洗ってやれ!」
「ヤコウ店長、その言い方は少し……」
「わかったわ。おいでメイ。私が優しく丁寧にお世話してあげる」
「ひ、ひゃい」
「クロバラ先輩まで……」
普段から関わっている俺ならまだスルー出来るし2人の言い方にも冷静に対応できるだろう。
でも一般人のメイさんからすれば色々と誤解があるように聞こえてしまう。
実際メイさんは顔を赤くしてプルプルと震えながらクロバラ先輩と共に酒場の奥へ消えていった。
「これでしばらくはクロバラが時間を稼いでくれるな」
「ヤコウ店長?」
「ヨザクラ。お前が錆人グループの拠点に行って騙され、お嬢さんを助けたことは聞いた。ただそれをもう少し詳しく教えてくれ」
「はい」
ヤコウ店長は俺以外の人間が居なくなると真剣な顔つきになって腕を組む。
俺は今回の経緯を1つも漏らさないように酒場を出てから帰ってくるまでをヤコウ店長に説明した。
「確かに依頼は国家兵士団とのやり取りに使う通信端末で行った。履歴を見ても国家兵士団から送られたものだとわかる」
「奴らも国家兵士団の制服である黒スーツ姿で支給されている武器を持っていました。でも兵士の変装なんて簡単に出来る。俺は完全に彼らが錆人だと見抜けなかった」
俺は自分のジャケットに走る背中部分の切り傷を思い出す。あの瞬間にやっと罠に嵌められたことに気付いたのだ。
その時の悔しさがまた湧き上がって俺は無意識に拳へと力を込める。
「まさか闇取り引きを専門とする錆人が自ら戦いに挑むとは。………それにオレがもう1つ気になるのは錆人が使った謎の球のことだ。確かその球から火柱が上がったんだよな?」
「俺にはそう見えました。もしメイさんが声を掛けて突き飛ばしてくれなかったら巻き込まれていたと思います」
「ムムゥ。それに関してはうちのゾンビに調査を任せるしかないな」
ゾンビ。それを指すのは酒場の地下にある部屋で引きこもっているあの人しかいない。
錆人取り締まりグループ、リメンバーは全員で4人の組織だ。そしてその中の1人は滅多に外に出ず研究ばかりを行うクロバラ先輩の姉である人で、俺たちは彼女にゾンビという愛称を付けている。
もっとも直接その名で呼んでいるのは俺だけだが。
けれど本人もゾンビ呼びを気に入っていて名前を改名しようとしたが、クロバラ先輩に止められた過去がある。それくらい変わっている人だった。
でもそんなゾンビ先輩は合法の薬や取り締まりに使える小道具を生み出すなどリメンバーの活動を影で支えてくれている。
小道具関係を調べるのであればもってこいの人物だ。
「後はお嬢さん本人に聞くしかないな。辛いかもしれないがあの子が1番情報を持っていそうだ」
「そうですね」
「それと国家兵士団との通信が乗っ取られている、あるいは漏れている可能性があるのも団長に報告しなければ」
ヤコウ店長は次にすべきことを定めると、俺の目をジッと見てくる。何かついているのだろうかと首を傾げた時ムキムキの手のひらが俺の肩を勢いよく叩いた。
「い゛っ」
「ガハハッ!!誰にでも失敗はある!でも結果的に無事ならそれで良いではないか!大切なのは挽回!今回のヨザクラの点数は盛って35点だな!」
「ほぼ赤点…」
「点数を伸ばしたいのであれば誰にでも警戒しろ。背中を見せてはならん。それはもちろんオレやクロバラにもだ。でもヨザクラは点数の中にある質を上げる方が合っている気がするな」
「質、ですか?」
「ハッハッハ!いつかわかるだろう!まぁこの後のクロバラの説教は覚悟しておいた方が良いぞ!問題点を的確に突いて正論で負かしてくるからな!」
そうだ、と俺はクロバラ先輩の説教を思い出して身震いした。
何かに失敗したり反省しなければならないことがあったりするとクロバラ先輩がありがたい説教をしてくれる。
そしてそれは感情的にはならず冷静で鋭く指摘するのでメンタルが削られるのだ。
でも俺を想って言ってくれているのは十分にわかる。今回の仕事は俺でも最悪だと自覚しているから甘んじて受け入れよう。
「さて!お嬢さんが来る前にヤコウ特製のスープでも温めておくか!ヨザクラ、店の看板をclosedに変えてくれないか?」
「もう閉めるんですか?」
「どうせもう今日は誰も来ないだろう。オークションが近いせいで高級店がここぞとばかりにアピールしているからな。最近は物好きの富豪すら寄ってくれなくなった」
ヤコウ店長は拗ねたように唇を尖らせて肩を落とす。クロバラ先輩が見たら「それが可愛いと思っているの?」と毒を吐かれそうだ。
でも確かに最近は酒場に来る新規のお客様は減っている。
たぶん今日も俺が仕事に行っている最中、ヤコウ店長はお客様を待ちながら筋トレしていたのだろう。
「そういえばヤコウ店長は国家主催オークションに行く予定はあるんですか?」
「逞しい筋肉の彫像が出品されるのなら参加するぞ!!」
「どこに置くつもりですか……」




