23話 この事件の糸を
「ゾンビ先輩!」
「イヒッ。さぁて面白い展開になったなぁ」
「俺には何が何だかさっぱりです…」
先ほどの兵士から出た答えは国家兵士団の利用価値は全く下がっていないというもの。
その通りであるのなら俺たちが仕事を奪いすぎてないのにホッとするが、レイ団長が言っていた答えと真逆だ。
けれどレイ団長の場合は単なる推測でしかない。
捕らえた元兵士は『リメンバーを始めとする外部の錆人取り締まりグループの排除』としか話さなかったらしい。
兵士団の利用価値についてはレイ団長が動機となる理由を探した結果だ。嘘をついているという表現は当てはまらないだろう。
でも認識が違っているのは確かだ。いくら放任主義の兵士団長だからといって部下たちの仕事量を知らないはずがない。
結局は嘘に繋がっているのだろうか。
「全てに疑心暗鬼になりそうです」
「なれなれ。ヒヒッ」
「ゾンビ先輩、これからどうするんですか?」
「知らん!」
「ええっ!?」
「だって我は妹ちゃんに伝言を頼まれただけじゃ。ケツ青坊ちゃんと合流した後はお前の判断に従えと言っておった。イヒヒッ」
「お、俺の判断?」
「お使いがちゃんと出来たら妹ちゃんがオムライスを作ってくれるとも言っていた。イヒヒッ!だから我は従おう!何でも命令するといい!」
ゾンビ先輩は立ち止まると天を仰ぐように腕を広げて肩を上下させながら笑う。
きっと脳内は一段と美化されたクロバラ先輩で埋め尽くされているはずだ。
こうなってしまえばゾンビ先輩は妹との約束を守るために俺の判断を待ち続けるだろう。
しかし今の俺はこれからすべきことを判断できるような余裕があるわけではなかった。
「何をしたい」
「えっ?」
「今お前が真っ先に浮かぶものはなんだぁ?」
「浮かぶもの……」
「イヒッ!妹ちゃんもムキムキ猿もお前になーんにも託していない。それを我は好きにやれと受け取っている」
確かに追っている2人が俺に何かして欲しいのならメイさんが逃げた報告だけでなく指示もあるはず。
それが無いのなら完全に自由時間だ。
「………」
悩む俺の視線の先でふと、月明かりが暗い路地裏に差し込んだ。
建物の隙間を潜り抜ける光はまるで糸のようで、それは俺の中に立ち込める感情とリンクする。
そうだ。俺は今嘘と騙しの情報に絡みつかれているんだ。
錆人から火球を買い取った兵士たちには騙されたが共にいたメイさんは俺を助けてくれたこと。
しかしその後、騙してリメンバーにあった機密書類を持ち出したこと。
レイ団長が言っていた国家兵士団の現状と巡回していた兵士の言い分は真逆だったこと。
全て同じ糸で繋がっているように見えるけど色はそれぞれ違う。
矛盾と謎がある限りはこの件は解決できない。
例えヤコウ店長たちがメイさんを捕まえても根本的な問題は消せないだろう。
俺は大きく息を吐いて路地裏に漏れる黄金の光を見つめる。
「………糸を解きたいです。この事件は沢山の糸で絡まっています。だから1つ1つを取り除きたい」
「イヒヒッ」
「そうすれば少しは理解できるはず。皆さんが考えていることを」
「イーヒッヒッヒッ!従おう!」
すると前にいたゾンビ先輩はトテトテと走って俺の背後に回る。何をされるのかと思ったが俺は警戒をせずに大人しくしていた。
そうすれば助走をつけたゾンビ先輩が俺の背中に衝突してくる。
「ぞ、ゾンビ先輩?」
「イデ」
しかし体幹の強さに負けたゾンビ先輩は虚しくもそのまま地面へ落とされた。
身体を大の字に広げてイヒ笑いしている。
「何したかったんですか……」
「イヒッ。背中を叩いて元気をあげようとした」
「元気?」
「ケツ青坊ちゃん。お前は甘い。それは嫌ってほど自覚しているはずだ」
「…はい」
「きっとその甘さが今返ってきているんだろうなぁ、ヒヒッ。でも我は思うのじゃ。いつかその甘さが誰かを助けるのではと」
「甘さが助ける、ですか?」
「イヒヒッ!だがそれはお前個人の話じゃ!リメンバーの一員としてその甘さは、超絶恥ずかしく無駄でこっちまで痒くなる感情だ!ヤメロ!」
「は、はい!」
結局この人何をしたかったんだろう。なんか素晴らしい助言をくれたと思ったら急に怒っている。
でも伝えたい意味はわかった。
今回の件は俺の甘さから始まって、それが引き金にもなったんだ。
けれどゾンビ先輩はそんな甘さを半分否定して半分肯定してくれた。
考えていることが独特で話を合わせるのが大変な人だけれどリメンバーのみんなをよく見ているのはゾンビ先輩だ。流石縁の下の力持ち。
俺は微笑んで、寝転がるゾンビ先輩に手を差し出した。
「ありがとうございます。クロユリ先輩」
「ヤメロ!我はゾンビ先輩じゃ!いつか妹ちゃんと一緒に改名してやる!」
「はいはいわかりました。ゾンビ先輩」
「イヒッ」
「あの、起き上がらないんですか?」
「ケツ青坊ちゃん。我はお腹が空いた」
「え?」
「お腹空いた!何かする前にハンバーグが食べたい!イヒヒッ!」
さっきまでかっこよかったのに数秒でいつものゾンビ先輩に戻る。
俺が差し出す手を拒否して駄々こねながら手足をジタバタさせた。
これならあの兵士に子供と勘違いされても無理はない。俺は面白おかしくなって笑いながらゾンビ先輩の手を引っ張った。
「そんなお金持ってないので中心区から少し離れた店になりますよ」
「構わん。ヒヒッ」
「ではハンバーグ食べながら具体的なことを話しましょうか」
「イヒッ。元気が出てきたなぁ」
俺は今、絡みつく糸へ手を伸ばし始めたのかもしれない。そしてこれからすべく行動は錆人取り締まりでもないものだ。
けれどこの事件は普段の仕事よりも価値のあるものになると予感している。
それこそ何かを救えそうな予感だった。




