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22話 ヒーローの現実(2)

 まさかの助っ人たちに俺は安堵の息をつく。


 錆人はもう逃げられないと自覚したのか観念したように棒立ちになる。

 無事、逃げた錆人は国家兵士団によって捕らえられた。


「まさかヨザクラさんが居たとは。もしかして取り締まり中でした?」

「いえ、遭遇しただけです」

「なるほど!いや〜実は巡回中にこちらのお子さんに助けを求められましてね。何でも自分はリメンバーの天才だから言うことを聞けと」

「我はこいつよりも年上じゃ。それに何も間違ったことは言ってない。イヒッ」


 1人の団員はペコペコとしながら近寄って来るとゾンビ先輩を微笑ましそうに見ている。

 彼の目には錆人が居ることを知らせてくれた良い子に映っているのだろう。


 確かにゾンビ先輩の外見は幼い。そんな見た目に惑わされて実験の対象にならないと良いのだが。


「そちらの女性は取り引きに関与していた方ですね?」

「はい。ただ精神状態が危ういので…」

「承知しました。こういう方々の扱いは慣れていますので我々に任せてください!」

「イヒッ!我が手当してやろうかぁ?」

「君はこのお兄ちゃんと一緒に居てくれるかな?すぐに終わるから」

「ヒヒッ」


 ゾンビ先輩の顔のほとんどが長い前髪で隠れているからどんな表情をしているのかはわからない。

 けれど面白い勘違いに対して愉快そうにしていた。


 兵士は俺に軽く礼をすると拘束した女性へ近寄って何か話しかけている。

 でもやはり話は通じないようで強制的にその場から立たせた。


「イヒヒッ!変な顔しておる」

「……あそこで待っててくださいって言ったじゃないですか」

「でも我が来てなかったらお前はなーんにも出来なかったぞぉ?」

「……」

「イヒッ。そんなに怖いか?誰かに恨まれることが」

「恨まれるのには慣れています。俺たちは常に錆人から恨まれているし」


 チラッと兵士に連れて行かれる男女2人に目を向ける。きっとあの人たちも邪魔した俺を恨むだろう。


「じゃあその変顔の意味はなんだぁ?」


 俺は片手を頬などに当てて自分がどんな顔をしているのか想像する。

 でも変顔の形が当たらなくても、そうなってしまう意味はわかっていた。


「俺自身が甘いだけです」

「イヒヒッ」


 ゾンビ先輩はその答えについて何も言わなかった。ただ不敵な笑みを浮かべ続けて俺を見ていた。


「ヨザクラさん!」


 すると国家兵士団の1人が俺たちの方に戻ってくる。後始末はお手のもので何の滞りもなく錆人と精神状態が危うい女性を詰め所へと連行して行った。


「ありがとうございました。偶然とはいえヨザクラさんが駆けつけてくれていて良かったです」

「俺は何もしていないです。皆さんが来なかったらあの錆人を逃がしていた可能性もありますし」

「そんなことありませんよ!それに女性を拘束してくれて助かりました。あのまま放置していたら最悪自殺されていたかもしれません」

「……あの唐突な質問なんですけど」

「はい!」

「最近のお仕事ってどんな感じですか?」


 俺はレイ団長から聞いた言葉を頭の片隅に置きながら尋ねてみる。しかし無意識に弱々しい問い方になってしまった。


 ゾンビ先輩はそんな俺が面白かったのかイヒ笑いを連発させている。


 けれど肝心の兵士は真っ直ぐに俺の質問の意味を受け取ってくれたようで腕を組んで考え始めた。


「そうですね。今はほとんどの兵士がオークション関連の仕事を回されていて忙しい状態です」

「普段よりも忙しいんですか?」

「若干ですね。なんせ別分野の仕事をやらなくてはならないですから」

「若干?」

「イヒッ!兵士って普段なんの仕事をしているのかぁ?」

「良い質問だね。自分たちはさっきみたいな錆人を取り締まることだけが仕事じゃないんだ」


 兵士はゾンビ先輩と目を合わせるように膝を曲げる。そして子供に教えるようにゆっくりと説明を始めた。


「例えば中心区にある沢山のお店の建物の管理や道の整備。観光客の人が安心してルナックを楽しめるように整えるんだ」

「ほぉ」

「後はルナックで家族がいない子供の保護。ここ何年かは沢山そういう子たちが居てね。そんな子供を助けるのも兵士の務めなんだ」

「イヒッ。なるほどなぁ」

「他にも観光客の揉め合いを止めたりとかお店側で何かあった時にすぐに駆けつけるとか仕事はいっぱいある」

「つまり利用価値は下がってないのだな?」

「り、利用価値?君は凄い言葉を知っているんだね。そんなの下がってないよ。もしかしてリメンバーみたいな人たちが錆人を取り締まっているから自分たちの仕事が無くなると思っているのかな?」

「イーヒッヒッヒッヒッ!!」


 ゾンビ先輩はぐるりと俺に首を向けると豪快に笑い出す。俺は前髪の間から覗くゾンビ先輩の瞳に背筋を震わせた。


 対する兵士は急に笑い出すゾンビ先輩にポカーンとしながらもすぐに引き攣った口角を見せて小さく笑った。


「き、君は個性的な子だね。そういえばどこの子なのかな?帰る家が無いのならお兄さんと一緒に詰め所へ行こうか?」

「イヒヒッ!我より年下の小童に頼る必要もないわ!」

「アハハ……そろそろリメンバーごっこは終わりにしようか?」

「あ、あの!この人は本当にリメンバーの一員なんです!普段は地下から出ないからわからない人も多いと思いますが」

「イヒッ!もうよい。我は腹が減った。行くぞケツ青坊ちゃん」


 とりあえず兵士の勘違いを訂正しようとするがゾンビ先輩はもうどうでもいいようで踵を返してテクテクと歩いていく。

 俺は慌てて兵士にお礼をし、彼が反射的に敬礼をしたのを見てゾンビ先輩を追いかけた。


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