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21話 ヒーローの現実(1)

 昨晩俺は火球を投げ込まれたと同時に逃げることが出来た。それはメイさんが『臭い』と言ってくれたお陰だ。


 俺は彼女の嗅覚が鋭いからそれを感じられたのだと思ったけど、破裂する前の火球からは焦げの臭いなんてしない。


 となるとメイさんはあらかじめわかっていて俺に教えてくれたことになる。


「でもあいつらと手を組んでいたら俺に教える必要なんて無いはず」

「イヒッ?」

「ああ、実は昨晩俺を襲った奴らと罠に嵌めた奴らの正体が判明したんです」


 首を傾げるゾンビ先輩に先ほどレイ団長から聞いた話を伝えれば面白いことを聞いたように笑い出す。


「イヒヒッ!ついに国家兵士団から裏切り者が発生する時が来たか!逆によく今まで出なかったなぁ!イーヒッ!」


 そんな笑うことでもないと思うがこの人の感性は俺たちと若干違う。

 ゾンビ先輩の笑い声を聞きながら、俺は建物の壁に寄りかかって大きくため息をついた。


「頭が混乱しておかしくなりそうです」

「なら整理すればいいのよ……って妹ちゃんなら言うぞぉ」

「声は全然似てませんが確かにクロバラ先輩なら言いますね」


 俺は背を預けながらゆっくりと目を瞑る。まず俺がやるべきことは何なのだろうか。


 国家兵士団の裏切り者とメイさんの繋がりの意味を調査すること?クロバラ先輩、ヤコウ店長と共に機密書類の回収をすること?

 それともゾンビ先輩をリメンバーに送り届けること?


 1番最後のは優先度が低いから除外するとして俺が役に立てそうなのは最初の案だ。

 けれど何から手をつければいいか思いつかない。あの裏切り者たちはレイ団長が尋問してくれるはず。


 どうしたものかと半分瞼を上げた時、路地裏の奥で人が争う声が聞こえた。


「イヒッ?錆人かぁ?」

「俺が見てきます。ゾンビ先輩はここにいてください」


 ゾンビ先輩が素直に頷いたのを確認した俺は鞘に手を添えて声の方へ駆け出す。


 路地裏に入ってしまえば中心区の華やかな雰囲気は一気に消えて、暗く汚れた世界が広がっていた。

 俺は散らばるゴミや俯きながら歩く人間を横目に考える。


 メイさんはこのような場所で暮らしていたと話した。だから俺があの拠点から連れ出した時に少しだけでも生きていて良かったと思えたと。


 それも嘘だったのだろうか。


「彼女は誰の味方なんだろう…」


 ポツリと呟いた言葉は鼓膜に響く高い声にかき消される。

 前を向くとそこには痩せ細った女性が縋るようにボロい服を着た男へしがみついていた。


「あれだけ大金を落としたのにたったこれっぽっちの量なの!?」

「最近取り締まりの輩が目を光らせていて俺たちもどうしようもないんだ!貰えるだけありがたいと思え!」

「客に向かってその態度は何よ!!」


 女性は血走る目で男性を突き飛ばす。あれは正気を失っている状態だ。

 苛立つように全身を掻きむしる姿は完全に薬でイカれているのがわかる。


 会話から察するに錆人である男性が女性に薬を売っていたのだろう。しかし金に合わない薬の量が女性の怒りを買ったようだ。


 俺はとりあえず女性を止めようと2人の間に踏み込もうとする。


『君たちのような外部の人間が仕事を奪うからだ』


 でもそれから足を進めることは出来なかった。


 脳内でレイ団長の声が流れてはまたやって来る。俯いた拍子に頬に汗が流れた。

 俺が仕事を奪って良いのだろうか。


 これは正式な依頼ではなく単純に遭遇しただけだ。俺が介入するのはお節介になってしまう。

 路地裏には巡回している兵士も居る。必ずしも俺がやらなければならないわけではない。


「……っ」


 でもリメンバーの一員として、人間として見逃すことは簡単に出来ない。

 なのに俺に襲いかかってきた彼らの顔がレイ団長の声と共に張り付いている。


 しかし悪いのはあいつらだ。同情する甘さなど要らない。俺は強く息を吐き出して顔を上げる。


「あああああああ!!!イラつくイラつくイラつく!」


 俺は結論に辿り着くまでの時間が長過ぎたようだ。女性は叫びを上げながら爪で自分の皮膚に傷を走らせる。


 錆人の男は突き飛ばされた衝撃で尻もちをついたまま呆然と女性を見ていた。俺はそんな女性の背後へ走り込み羽交い締めにする。


 突然、後ろから気配もない人間が自分を押さえ込んだことによって女性はパニックになって更に叫んだ。


「落ち着いてください!一旦深呼吸しましょう!」

「離して!あんたまさか兵士!?いやっ離して!」

「貴方が落ち着いたら離します!」

「嫌だ嫌だ!嫌だ!!」


 まるで子供のように駄々をこねる姿に俺は顔を顰める。すると女性から出た“兵士”の単語に怯えた男性が身体を反転させて起き上がった。


「待ってください!逃げないで!」

「クソ女め…!」


 仕方ない。少し手荒だけどこの女性を先に拘束させてもらおう。

 俺は女性ごと回転させて近くの壁に押し付けた。そして素早く拘束道具を取り出し女性に巻き付ける。


「離して!離してよぉ!」


 先に錆人の男性を捕まえるべきだった。どこで判断を鈍らせてしまったのだろう。


 軽く唇を噛みながら俺は自由を奪われた女性から手を離す。そうすれば力なく座り込んで涙を流していた。


 そしてそれを横目に振り返れば路地裏の更に奥へ逃げ込む錆人が視界に入る。

 まだ俺でも捕まえられる範囲内だ。


「動かないでくださいね」


 この人は少しの間、放っておいても大丈夫なはず。…たぶん。


「イーヒッヒッ!!」

「えっ?」


 女性を置いて視界内に居る錆人へ走り出そうとした時だった。不気味な笑い声が路地裏の奥から聞こえてくる。


 すると次の瞬間、逃げる錆人は前に進むことなく後退りを始めた。


 そんな彼の向こうからは黒スーツを着て武器を構える国家兵士団とその後ろで笑っているゾンビ先輩がゆっくりと近づいているのがわかる。


「へ、兵士団!」

「動くな!怪しい奴め、錆人か?」

「違っ」

「お願いします!そいつを捕らえてください!」

「ヨザクラさん?かしこまりました!」


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