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20話 黄金に紛れるゾンビ

「ぞ、ゾンビ先輩!」

「イヒッ!やっと終わったか!道行く人間の視線が痛くて死にそうだったぞぉ」


 ボロボロの白衣と幽霊みたいな長い前髪。そして不気味なイヒ笑いを発しながらテクテクと近寄ってくるゾンビ先輩。

 さっきまでの負の感情が消え去ってしまうくらいに驚いた。


 だってこの人、地下の部屋から出てくるのでさえ凄いのに扉を開けて外に出たのだ。

 しかもルナックで1番人が多い中心区に。


 もしかして明日、夜の王国に朝が訪れるのだろうか。それくらい凄いことを目の当たりにしているので驚くのも無理はない。


「なんでここに居るんですか!?」

「イヒッ。逃げたぞ」

「に、逃げた?まさかクロバラ先輩と喧嘩したんですか?」

「そんなことは一度もない!妹ちゃんと喧嘩したら我は毒を服用して目の前で死んでやる!…ヒヒッ」

「じゃあヤコウ店長に追い出されたとか?」

「むしろ我がムキムキ猿を追い出す側じゃ!…イヒヒッ」

「あの拠点はヤコウ店長の物なんですけど」


 まるでコントのようなやり取りをしていればルナック大劇場を見にきた観光客が怪訝な面持ちで俺たちを見てくる。


 ただでさえゾンビ先輩が目立っているのに、不気味な笑いと場所に合わない大声で更に注目の的になってしまったようだ。


「ゾンビ先輩。とりあえずここを離れましょう」

「イヒッ!引っ張るでない、我はデリケートじゃ」


 俺はゾンビ先輩の抵抗を無視して無理矢理手を掴むとそのまま大劇場前から離れていく。

 すれ違う富豪たちは皆、不気味な女が国家兵士団に捕まっているように見えるはずだ。


 でも違うんです。この人、ほぼ家族みたいなものなんです。

 俺は痛い視線を潜り抜けながら心の中でそう唱える。


 連行されているゾンビ先輩はというと久々に来た中心区に「眩しい」と駄々を捏ねていた。その前髪で遮れないのだろうか。


「ケツ青坊ちゃん!あの建物を我は初めて見たぞぉ」

「あれは2年前に出来た高級ブランドの化粧品が売っているお店です。ゾンビ先輩、もう少し声を抑えて…」

「イーヒッヒッヒッ!妹ちゃんに買う!」

「そんなお金持っているんですか!?」


 ゾンビ先輩が口を開けば俺がツッコむという形の会話をしながら2人で中心区の路地裏に繋がる道に逃げ込む。


 この奥に進んでしまうと錆人たちが居る可能性が高いからゾンビ先輩をちゃんと見張らなければ。


「ゼェ…ゼェ…」

「ゾンビ先輩大丈夫ですか?」

「イヒ、ゲホッ」

「普段歩いてない証拠ですね。ここに座ってください」


 俺はポケットからハンカチを取り出して近くの木箱に乗せる。

 早く人の目から逃げたい気持ちで歩いたのだが、ゾンビ先輩にとってはオーバーペースだったようだ。


 荒い息を吐き出しながら木箱に座ろうとする姿はまるで老人のよう。

 しかしちょこんと腰を下ろせば幼児のようにも見えて思わず褒めたくなってしまう。褒めないが。


「フッヒヒヒヒヒヒ」

「珍しい笑い方ですね。何か飲み物買ってきますか?」

「それには及ばん。ヒヒッ」

「なぜゾンビ先輩がルナック大劇場に?単純に迎えに来たわけではないんですよね?」

「当たり前じゃ!今までケツ青坊ちゃんのお迎えなんて行ったことないじゃろ」

「さっきの逃げたぞって?」

「イヒッ。だからそのままの意味じゃ。女狐が逃げおった」

「えっ?」

「だから下手な嘘つきおった後、逃げたのじゃ」


 俺は帰って話すはずだった人が居なくなったという事実に言葉を失う。

 ゾンビ先輩はこんな嘘を付く人ではない。


 それにわざわざ人が多い場所まで知らせに来てくれた時点で信用できる。

 普段会わなくても長年一緒にいた信頼関係がここで発揮されてしまった。


「イヒヒッ!まさかお前、本気であいつを普通の人間だと思っていたのかぁ?」

「………」

「傑作じゃ!怪しいことだらけだったのに目を光らせてなかったとは!イーヒッヒッヒ…ゲホッゲホッ」

「ゾンビ先輩落ち着いてください!一体何があったんですか!?」

「フヒィ〜……リメンバーに保管されていた機密事項が記された書類を持ち逃げしたのじゃ。それがわかった時には既に遅し。現在妹ちゃんとムキムキ猿が探しておる」

「メイさんが機密事項の書類を持ち出した…?」


 何でこんなにもタイミングよく重なってしまったのか。やっぱり彼女は買われた奴隷ではなくあの兵士たちに加担していたのか?


 でも初めて会った時は手錠に繋がれて身体も傷をつけられていた。そして俺を突き飛ばして火柱から助けてくれたのだ。


 けれどあの火球は油を塗られてない俺には通用しない。もし加担していたのならそれは知っていたはずだ。

 それならなぜわざわざ助けた?兵士たちと同じ不満を持っているのなら助けるような行動は取らなくていいはずだ。


「イヒヒッ。悩んどる悩んどる」


 情報の回廊に手を伸ばしかけた時、ゾンビ先輩のイヒ笑いが耳に入る。

 ハッとした俺は木箱に座るゾンビ先輩を見下ろした。


「ゾンビ先輩は何かに気付いていたんですか?」

「妹ちゃんの方が先に気付いておった。我はその話を聞いて警戒しながら女狐の前に姿を現したわけじゃ」

「俺は、わからなかったです」

「イヒッ!ケツ青坊ちゃん。お前火球の臭いを嗅いだことはあるか?」

「無いですけど」

「ほれ。これは純正品の方だ」


 するとゾンビ先輩は白衣のポケットから試験管を取り出す。中には昨日俺が回収した火球が入っていた。


 そしてコルク栓を外すと俺へ差し出す。それを受け取って鼻に近づけてみれば……特に臭いはしなかった。


「無臭です」

「そう無臭じゃ。焦げた臭いは一切しない」

「焦げた……あっ」


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