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2話 糸が絡んだ出会い(1)

「ヨザクラさん!お疲れ様です!」

「お疲れ様です。緊急依頼で来ましたがどうしたんですか?」

「はい。実は…」


 俺たちの拠点であるルナックの外れの酒場、リメンバーでいつも通り開店準備をしていた時のことだった。

 突然連絡が来たと思ったらリメンバーの誰かを貸して欲しいという国家兵士団から依頼があったのだ。


 連絡を受けた酒場の店長で、錆人取り締まりグループリメンバーのリーダーでもあるヤコウ店長は二つ返事で俺を現場へと派遣したのが30分前。


 そして現在俺は現場近くの路地裏にて依頼をした兵士と潜んでいる。


「なるほど。錆人グループの拠点を見つけたものの突入が出来ない……ですか」

「そうなんです。国家兵士団は錆人の拠点を見つけ次第制圧をしなければならないのですが、現在は人手が足りなくて」

「確か今度、国家主催のオークションが開催されるんですよね?もしかしてそこに人員を?」

「はい。大規模オークションのため警備だけでなく出品される品物の検品なども国家兵士団が担う必要がありまして。なので取り締まりをする兵士が足りない状況なんです」


 兵士は深刻そうに眉を下げる。その目元には薄っすらとクマが浮かんでおり疲労を滲み出していた。

 国家兵士団の制服である黒スーツも皺や砂埃が付いている。


 国家主催オークション……ヤコウ店長曰く約10年ぶりのお祭りらしい。

 もしかしたら警備の名目で俺たちリメンバーもオークションに参加する可能性もありそうだ。


「わかりました。では正式に緊急依頼を受理します。確かそこの建物の地下ですね?」

「感謝します。付近は国家兵士団が守りを固めていますので余計な侵入はないはずです」

「助かります。じゃあ俺、行きますね」

「えっ?他の兵士たちと制圧の打ち合わせは良いのですか?」

「皆さんは錆人を溢さないようにして頂ければ。先陣を切るのは俺に任せてください」


 俺は刀に手を添えて深呼吸する。錆人の拠点ということは1人2人では終わらないはずだ。


 今回は頼もしいリメンバーのリーダーも影に紛れられる先輩もいない。

 そしてこの兵士は俺がまだリメンバーに加入したばかりの新人だということもわかっているはずだ。だから不安そうな表情を見せるのだろう。


「大丈夫です。リメンバーを信じてください」

「……よろしくお願いします!」


 兵士が綺麗な敬礼を見せたのを合図に俺は建物の扉をゆっくりと開けた。


「誰も居ませんね」


 事前の情報で地下に拠点があると知らされているため驚くことはない。


 現在この建物は空き家となっており、所々に壊れたテーブルや椅子などが置かれている。大方レストランのような場所だったのだろう。


 息を殺して俺は後ろに兵士を連れながら奥へ進んで行った。


「ヨザクラさん。そちらが拠点への階段かと」

「はい。俺が先に行きます」


 足音を立てないように細心の注意を払いながら俺はこの先に錆人がいるであろう扉に近づく。

 しかし耳を澄ましても中の音は聞こえず、気配も感じ取れなかった。


 それでもやることは変わりない。柄に手を掛けた俺は扉を足で蹴り飛ばして錆人グループの拠点に侵入した。


「国家兵士団です!武器を捨て、手を上げなさ……」

「だ、誰も居ない!?」


 中はも抜けの殻だった。俺の声に応えてくれる人間は誰も居なくて部屋は散乱している。

 けれど使っている形跡はあるので確かにここには人が居たのだ。


「気を緩めないでください。どこから来るかわかりません」

「は、はい!」


 俺はいつでも抜刀できるよう手をそのままに部屋の中を散策する。

 そこまで広くはないが複数人のグループが集まる場所としては十分なスペース。所々に空いた酒瓶や書類などが散らばっていた。


「まさか察して逃げられたんですかね?」

「流石にそれは早すぎます!兵士団が見つけたのはリメンバーに依頼する数十分前。そこからヨザクラさんが来るまで周りは包囲してあったんですから!」


 見た感じ隠し扉のようなものはない。他に繋がる部屋も無く完全に密室状態だ。


「扉を開ける前から気配が全然しなかった。そもそも人が居ないから当然ですね」

「どうしますか?」

「そういえば何が根拠でここを錆人グループの拠点だと思ったんですか?もしかして取り引きをした人からの密告とか…」

「いいえ。自分がここに通っているからです」

「え?」


 背中に風を感じたと同時に俺は避けるように前へと転がった。そして後ろにいた兵士たちと向かい合って戦闘態勢になる。


「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?」

「察しが悪いですね。……剣を向けている状態で敵だろ」


 やられた。まんまと罠に嵌められた。


 後ろに待機させていた国家兵士団と思っていた人たちはニヤニヤと笑って武器を俺に向ける。まさかこいつらが錆人グループの張本人だったなんて。


 幸い背中はジャケットと下のワイシャツが切れただけで肌には触れなかった。

 それでも驚きで動揺が止まらない。早く冷静にならなければ。


 しかし不可解だ。どうして錆人が国家兵士団としてリメンバーに依頼が出来たのだろう。依頼用の連絡は正式な組織でないと送れないはずなのに。


「大人しく武器を捨ててください!」

「立場逆転してんのによくそんなセリフ吐けるな。真面目ちゃんか?」

「俺は言ったはずです。先陣を切るのは任せろと。その意味を理解していますか?貴方たちの力を借りなくていいほどに俺は剣の腕に自信がある」

「その宣言は覚えているし理解もしている。だがテメェは剣しか自信ねぇだろ。簡単に背中見せて信じちゃうお子ちゃまは真っ向の取り締まりしか頭にないだろうからな」


 すると錆人の1人が懐から小さな球を出す。考えなくても危ない物だと察した俺は先手必勝を胸に前方へ駆け出した。


「近づいちゃダメ!!」

「なっ」


 しかし頭に直接響くような声が聞こえ、俺は無意識に足を止める。

 それと同時に横から何かが突っ込んできて俺に体当たりした。


 何が起こっているのか把握出来ないまま俺は物体と共に壁へ飛ばされる。と同時に熱気が俺の顔に触れた。


「な、なんだこれ!」

「おい待て!何で俺たちが…!」


 入り口の方では火柱が舞い上がる。錆人が取り出した球体には火薬が入っていたらしく、なぜか彼らが燃えている。

 俺を足止めしようと周りにいた奴らも巻き込まれて怒りと戸惑いの叫びを上げていた。


「これは一体…」

「うぅ」


 するとうめき声が聞こえて視線を下にすれば、座り込む俺の横に1人の女性が倒れているのがわかる。


 先ほど俺に声を掛け突き飛ばしたのはこの人だったのか。しかし一体どこから現れたのだろう。

 俺は慌てて女性を起こした。


「大丈夫ですか!?」

「へ、平気。助けられて良かった」

「はい。貴方のお陰で無事巻き込まれずに済みました……ってこれは」


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