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19話 疑い

「……続けてください」

「顔色が悪いが大丈夫かい?」

「続けてください」

「了解した。それでその8人が錆人と繋がっていた証拠になったのはクロバラちゃんが今朝方持ってきてくれた報告書なんだ」

「…クロユリ先輩の」

「そうそう。彼女は相変わらず凄いね。色んな分野を齧っている僕からしても凄いと称えられる。君も想像はついていると思うが、団員たちは錆人から火球を買い取ったんだ。それで繋がりが生まれた」


 国家組織に所属する兵士団の人間が錆人と関わりを持つのは重罪。ましてや購入なんて論外だ。


 けれど繋がってしまったのならもう遅い。彼らの未来はルナックの空より真っ黒になるはずだ。


「ただねぇ。油を服に染み込ませた奴のことはわかってなくて」

「残りの3人ではないんですか?」

「昨日捕らえた2人には尋問できてないんだ。この後する予定なんだが、たぶんどちらかがと睨んでいる。でも8人の共通目的からして裏切りはないような気もするんだよね」

「目的?」

「それこそが君を、君たちを襲った理由さ」


 俺は眉間に皺を寄せながらレイ団長の話を聞き続ける。怒りと困惑が混じった感情を表に出ないようにしているがきっと彼にはバレているだろう。

 無表情だが俺の感情を面白がっているようにも見えた。


「その理由とは?」

「リメンバーを始めとする外部の錆人取り締まりグループの排除だってさ」

「意味がわかりません」

「彼はこれ以上のことを話さなかった。でも僕はその理由の意味がわかる」

「は?」

「敵視しないでくれ。僕は意味はわかるが理解は出来ないからね」


 持っていたメモをしまったレイ団長はやれやれと言った感じで首を横に振る。

 そして検品が終わった骨董品を見定めるように俺の前を横切った。


「ひと言で表せば、現在の国家兵士団は利用価値が薄れている」

「なぜですか?」

「君たちのような外部の人間が仕事を奪うからだ。国家兵士団の主な役割はルナックの治安を守ること。それに1番通ずるのは錆人狩りだ。近年、観光客の増加と共に錆人も多くなっている」

「そのため国家兵士団の手に負えない錆人まで出てきたから俺たちのような外部組織を使うことになったはずです」

「そうさ。ヤコウさん率いるリメンバーはそれでルナック国家上層部からの信頼を得た。そしてその信頼のお陰で様々な仕事を外部に託すことになった」

「それの何が悪いんですか?」

「さぁ?」

「さぁって…」

「だって僕は理解してないからね。まぁとにかく国家兵士団はただでさえ安い給料が外部の手助けによってもっと下がっているんだ。きっと彼らはその不満を君たちにぶつけたかったんだろう」


 そんな理由で錆人から火球を買い取り俺を殺そうとしたのか?

 俺たちは仕事を奪ったのではなく彼らを助けるためにこれまでやってきたのだ。


 主に危ない仕事を請け負うのは兵士団が守ろうとしているルナックのためである。

 俺たちだって命に等しい金を貰っているのだ。


「っていうかレイ団長が彼らに仕事を振るべきだったのでは?」

「痛いとこ突いてくるねぇ〜。でも彼らと手合わせした君ならわかるはずだ」


 レイ団長は骨董品を眺めながら第二倉庫内をうろつく。対する俺は奴らと同じ所属であった団長を睨んでいた。


「酷いものだっただろう?兵士団員の戦闘技術は」

「まぁ、はい」

「そんな彼らに錆人狩りを任せられると思うかい?常に治安維持の前線に立つヨザクラくんなら同意見だと願っているが」

「しかし錆人狩りだけが国家兵士団の仕事じゃありません」

「そうだね。でも兵士団長の僕は上層部の決定に従うしかないんだ。傀儡に等しいからね」


 妙な言い回しに俺は首を傾げる。しかし険しい表情からは戻せなくて、握られた拳も爪の跡が付いてしまうくらいに力を込めてしまった。


 なのにレイ団長の態度は平然だ。背中を向けられているため、表情が変化したのかは見えないがこの人はいつも通り。


 自分の仲間があり得ない罪を犯したというのになぜ普通なのか。やっぱり俺はレイ団長がわからない。

 元々掴めない人だと思っていたが今は更に読めなくなっている。


「僕は敢えてこう言おう。彼らは夜の魔法に掛かったのだと」

「詩的な表現は要りません」

「ルナックは金の色で染まっている。中心区を歩く人々は皆煌びやかで富を蓄えているんだ。そんな富豪を間近に見ている貧しいルナックの民はどうなる?」

「知りません」

「憧れるのさ。そして嫉妬する。なぜ人類の理想郷で暮らしている自分たちはこうならないのかと」

「………」

「ルナックに居れば金銭感覚は狂う。しかし自分の懐を見れば辛い現実が襲う。だから金を稼ごうとする。それが錆人の起源さ。一部ではそんな行動現象を夜の魔法に掛かったと称しているのさ」

「そう、ですか」

「けれど買う側も大金で気持ちよくなれるから同じ魔法に掛かっていると言えるがね」


 彼らは金に憧れた結果、的を俺たちに向けて殺そうとした。外部の勢力を排除し自分たちの存在意義を示すという言い訳を用意して。


 俺には想像もできない思考だ。もう考えるのも疲れてきた。


 結局俺を陥れた奴らは錆人ではなく兵士で、既に国家兵士団に捕えられた。それで終わってくれたのならもう良いのでは?


「……いや、終わってない」


 そうだ。肝心なことを忘れかけていた。俺は脳内で1人の女性を浮かべる。

 今回の件で彼女は大きく関わっていた。


 俺が兵士の罠に嵌った時も帰り道に襲撃を受けた時も彼女はいた。レイ団長の報告が確かなのであればちゃんと確認しなければならない。


 メイさんは本当に買われていた存在なのかと。


「レイ団長」

「ん?」

「錆人と繋がっていた兵士は9人ではないんですね?」

「今確認できているのは8人だよ。もしかして誰か心当たりが居るのかい?」

「いえ。ですが急用を思い出したので帰ります」


 俺はレイ団長の返事を聞かずに第二倉庫から出ていく。もう検品は終わったのだから依頼完了と言っても大丈夫だろう。

 何かあればヤコウ店長の所に連絡が来ると思うし。


 俺は地上への階段を登りながら頭を掻く。あの2人のどちらが間違ったことを俺に教えている?

 思い返せば何もかもが淡々と進んでいた。


「ひとまずリメンバーに戻らないと」


 俺は受付の従業員に軽く挨拶をしてルナック大劇場を後にする。

 しかし黄金世界の中心であるこの場所に相応しくない人物を見つけて思わず足を止めた。


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