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16話 擬似火球実験(1)

「イーヒッヒッヒッ!」


 独特の笑い声が酒場の音と化す。誰かは魔女と例えるだろうし、また誰かは魔物と例えるだろう。


 メイさんはビクッと肩を上げて開きかけている扉を恐る恐る見つめる。


「お待たせ。姉さん引き上げてきたわよ」


 遂に開かれた扉の先で黒いドレスを着た女性にしがみつくボロボロの白衣を着た女性が顔を覗かせた。


 そう、この人こそリメンバーの縁の下の力持ちクロユリ先輩だ。

 久しぶりに見るクロユリ先輩は相変わらず長い前髪を揺らしてケラケラ笑っていた。


「やっと姿を現したか!クロユリ!」

「イーヒヒッ。ムキムキ猿に会うのは3ヶ月ぶりじゃな」

「お久しぶりです。ゾン……クロユリ先輩」

「ケツ青坊ちゃんに会うのは半年ぶりじゃな。そして妹ちゃんに会うのは昨日ぶりじゃな!」

「毎日会ってるから当たり前ね」


 こうやって姉妹2人が並ぶと全く似ていないのがよくわかる。

 外見を綺麗にし背筋を伸ばしているクロバラ先輩と、研究と開発以外の全てが無頓着で低い背を更に丸めているクロユリ先輩。


 そんな2人のギャップに初対面の人は固まってしまうだろう。実際にギャップの影響を受けている人物が俺の隣に1人。


「イヒッ!その新顔の女狐が妹ちゃんが言っていた子かぁい?」

「め、女狐!?」

「この方はメイさんです。現在は酒場の従業員として働いてくれています」

「イヒヒッ。なら女狐じゃ」


 流石ゾンビ先輩。メイを女狐に変えてしまった。まぁ俺もケツ青坊ちゃんと呼ばれているからこの人にとっては普通のことなのだ。

 それにこっちもゾンビって呼んでいるから何も言えない。


「イーヒッヒッ!せっかく地下から這い上がってきたんだ。ムキムキ猿よ、酒を用意しろ!」

「ガッハハッ!よーしわかった。とびっきりのを用意してやる!」

「イーヒッヒッヒッ!」


 ゾンビ先輩の笑い声にヤコウ店長の笑いも加わるとより一層賑やかになる。

 クロバラ先輩はうるさいと口で言いながらも柔らかい眼差しで2人を見ていた。


 そしてそれは俺も同じだ。久しぶりにリメンバー全員が集合できてとても嬉しかった。

 隣では女狐呼ばわりされたメイさんがショックを受けているが。


「さぁて。これが例の火球かぁ」


 クロバラ先輩にくっ付きながらテクテクとカウンター前に来たゾンビ先輩は瓶で保管された数個の火球を舐め回すように観察する。


「衝撃によって中の火薬が放たれ火柱を上げる。しかもその火柱は他に燃え移ることなく一定時間で消滅する……イヒッ」


 ゾンビ先輩は瓶を持ち上げると蓋を開けて中身を嗅ぐように鼻を動かす。

 そして小さくイヒ笑いするとボロボロ白衣のポケットから試験管を取り出した。その中には1つの球体が収められている。


「我が作った物よりは小さく出来ているみたいだぁ」

「ゾンビ先輩それって」

「我が作り出した擬似火球さ!妹ちゃんを生贄にし試行錯誤を繰り返した傑作!大きさ以外の見た目は瓜二つだろう?ヒヒッ」


 俺は遠目で見れば違いが全くわからない火球に感心の声を出す。


 すると厨房から戻ってきたヤコウ店長がゾンビ先輩の前にお酒を差し出した。

 おもちゃを貰った子供のように喜んだゾンビ先輩はクロバラ先輩に瓶と試験管を預けるとグビグビ飲み始める。


「ブハッ!ただ調査は終わってない。火球は作れても原理を解明しなければ。妹ちゃん、準備をしてくれ」

「ヨザクラ。そのジャケットを頂戴。燃やすわ」

「えっ燃やす?」

「ちょうどそれには錆人が用意した油が染み込んでいる。どうせ臭い取れないんだから良いでしょ?」

「新しいジャケットは…」

「店長が用意してくれるわ」

「ムムッ!?」


 ヤコウ店長は初耳だったようで目玉が飛び出るくらいに大きく開く。この仕事用ジャケットは結構良い値段をするため、彼の内心は汗をかきまくりだろう。


 俺は苦笑いしながら片隅に置いていた油付きのジャケットをクロバラ先輩に渡す。

 クロバラ先輩はそのジャケットをゾンビ先輩の鼻に近づけて臭いを嗅がせた。


「イヒッ。なるほどねぇ」

「姉さんの仮説を立証できそう?」

「ああ。ただもしも我の推測が当たってしまったら……相当面倒な状況になるぞぉ。ヒッ」


 姉妹でコソコソと何かを話すと、クロバラ先輩は少し離れた床に俺のジャケットを投げ捨てる。

 そしてゾンビ先輩はお酒を飲み干して試験管の中に入った擬似火球を手のひらに出した。


「ゾンビ先輩。始めるんですか?」

「おいクロユリ、まさかここで火柱上げるわけではないだろうな!?」

「イーヒッヒッヒッヒッ!」

「い、いくら特殊な火柱でも流石にお店の中ではやめておいた方が」

「大丈夫よメイ。特殊だからこそ、ここで実験する必要があるの。姉さんを信じて」

「待て待て!もしオレの店が燃えたら……」


 ヤコウ店長は燃え上がるリメンバーを想像して顔を徐々に青白くする。ここは酒場でありながら家でもあるので誰よりも恐ろしく感じているのだろう。


 しかし俺は冷静だった。その理由は初めて火球を目にした時の場所が屋内だったからだろう。

 しかも地下という密室。なのに燃え広がることなく炎は消えていった。


 そして現在、床には油が染み込んだ俺のジャケット。そこから察せるのはとある法則。


「行くぞぉ!キャンプファイヤー!……イヒッ」

「頼む成功してくれぇぇ!」


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