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14話 刺客(2)

「こっちだ!」

「逃すな!襲え!」


 耳を澄ませば錆人の声が鮮明に聞こえてくる。誰かを守らなければならないという重圧から解放されて頭が冷静になってきた。


 俺はしゃがんだ状態で腰にある刀に手を掛ける。


「……火球は衝撃によって炎を曝け出す。刀で斬ることは出来ない」


 足音が近づく。2人分。


「速さで勝つ」


 重心を傾けたと同時に俺は地面を蹴る。木の葉が枝から離れて光も当たらない土へ落ちる前に1人目の錆人を目の前にした。


「なっ」


 微かな油の香りが一気に近づいたことで混乱しているのだろう。

 ほぼ下から人が出てきたのだから無理もない。けれど俺は躊躇わない。


 抜刀によって横に振られた刀は錆人の腹に傷を入れる。そして即座に手の向きを変え、斜め上に切り上げた。更に俺はその勢いを利用して身体を反転させる。


 この一瞬でもう1人の気配を察知し一太刀でも傷を入れなければ。


「そこか」


 気配は俺に向かって進んでいたこの錆人を横からサポート出来る場所にいる。しかしこいつの相手をしたお陰でもう1人は既にこちらへ走り出していた。


 しかしちょうど雲に隠れていた月が顔を覗かせ、いい位置に月光を差し込んでいる。俺は刀を持つ手を固定して最後の仕留めに掛かった。


「あ、あれ…」


 すると錆人は戸惑う声を小さく漏らす。それを俺は聞き逃さなかった。そしてその声の理由を俺は知っている。


「見えないでしょう?俺の刀」


 ルナックは中心区から遠ざかれば遠ざかるほど暗くなる。それが森の中になればより暗闇に包まれるのだ。


 俺はそんな漆黒の世界とそこに差し込む月明かりの反射を利用して目の前の錆人に錯覚を起こす。研ぎ澄まされた刀は光を綺麗に反射する。角度さえ合っていれば漆黒の色が刀に写り、まるで刀身が消えたように見えてしまう。


 この錆人は俺の刀が今どこに、どの角度にあるのかわからない。


「大人しくしてください」


 持っていたはずの物が見えない動揺。そしていつ斬撃が来るか予想できない恐怖。それが錆人の動きを止める。


 俺は容赦なく錆人を斬った。


 やはりこいつらはどこにでも居るような錆人だ。武術の心得が無いのがわかる。

 ではなぜ逃げている時に違和感を持ってしまったのだろう。


「……さぁ。拘束の時間です」


 けれど考えている暇はない。刀を鞘に収めた俺は持っていた拘束用の小道具を取り出して動けないように縛る。


 斬ったと言っても隙を生むための攻撃でしかなかったため、傷は浅い。死ぬことはないだろう。


「他に仲間はいますか?」

「………」

「拷問は俺の役目ではないんですけどね」


 周囲にはこいつら以外の殺気は見当たらない。しかしこの錆人たちの口から聞かないと意味がないのだ。

 確かクロバラ先輩が言っていた初心者拷問のやり方はこうだった気がする。


「ああああああ!!」


 切り傷を踏みつけてグリグリ拷問。正直やっている方も不快だが仕方ない。


 国家兵士団だったらこのようなことはしないだろうが俺たちは個人で行っている錆人取り締まりグループだ。

 それに今回は依頼ではないので好き勝手やって構わないはず。


 俺は片方を踏みつけながらもう片方に視線を向けた。


「貴方にもやりましょうか?」

「クソッ……や、やめっ」


 次の瞬間、別の悲鳴が森に響き渡る。1人でお腹いっぱいなのだが2人もグリグリ拷問をしてしまった。

 結構不快だけど慣れるためだ。クロバラ先輩ならもっと凄いことをしてしまうから。


「他に仲間は?」

「い、いない。おれたちだけっ」

「目的は?」

「それは……」


 やはり自ら進んでやった強盗目的ではないか。このように言い淀んでいるのは第三者がいる確率が高い。


 後はクロバラ先輩に任せた方が効率が良い。結果的に国家兵士団に引き渡すことにはなるだろうが。


 証言を得るのを諦めた俺は錆人の腹から足を離して膝を曲げる。そして彼らの懐やポケットを探り火球を取り出した。


「これについて説明を」

「……貰った」

「誰に?」

「言えるわけねぇだろ!負けたからと言って何でも答えてくれると思う…あがっ!」

「傷を抉る行為は俺も嫌なんです。でも本当に答える気が無いようなので俺から聞くのはやめましょう」

「案外、素直にっ、下がるんだな」

「俺は肉体労働専門なので。でも覚悟はしておいた方が良いですよ。傷口グリグリ拷問以上の痛みが貴方たちを待っているので」


 冷たくそう言い放てば錆人2人は顔色を真っ青にする。きっと今まで国家兵士団にも錆人取り締まりグループにも遭遇したことが無いのだろう。


 一般人の道から外れた、一般人に近い錆人。そんな2人が刀を腰に下げる俺を襲うのは完全に間違っていた。


「ちなみに俺のことは知っているんですか?」

「国家の犬」

「正確には国家を支持するゴリラの犬です。これ、内緒ですよ」

「は、はぁ?」

「とにかく国家の犬に手を出したことはだいぶ重い罪になります。歯を食いしばってくださいね」


 俺は酒場の手伝いをしている時に覚えた営業スマイルを錆人に振り撒く。そうすれば更に顔は青白く染まり身体を震わせていた。


 それにしても違法取り引きを専門とする錆人が武器を手に取り自ら襲うことをするなんて。

 前回を含め、こんなの今までに無かった。


 何かが起こる前兆なのだろうか。俺は手のひらにある数個の火球を眺めながらため息をつく。

 その数分後、メイさんを連れたクロバラ先輩が眉間に皺を寄せながら俺たちを迎えにきてくれた。

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