12話 ヒーロー気取り
「ごめんね。怒ってる?」
「い、いえ」
「ちょっと調子に乗っちゃった。ごめんね」
「怒ってないので安心してください」
ルナック大劇場の地下にある第一倉庫にて早速俺とメイさんは検品を始める。
手取り足取りを教えればメイさんはすぐに理解してくれて今のところはスムーズに進められていた。
このペースなら今日で第一倉庫の検品は終わりそうだ。
そんな時、メイさんは俺の態度を気にして謝ってくる。先ほどから上手く話せない俺はそれすらもぎこちなく返事をしてしまった。
「その、ヨザクラくんは確かに可愛いけどかっこいい所もあるよ?初めて会った時に軽々抱っこしてくれたのはドキッとした」
「すみません。フォローさせてしまって」
「本当だからね!?そもそも私があんなこと言い始めたのが悪いから……ごめん」
お互いに少し離れた場所で謝り合う。クロバラ先輩が見たらため息をつかれそうだ。
けれどこのまま引きずるのもよろしくない。俺は話題を変えようと辺りを見回した。
「そ、そういえば気になった商品とかありました?」
「気になった商品?」
「例えばこれとか」
俺はついさっき検品が終わった絵画を指差す。
この絵画は森のような風景を描いたものだ。しかしそれはルナックで見るような真っ暗な森ではなく陽の光に照らされた明るい森。とても神秘的な絵だ。
「綺麗だね。太陽の下にある森ってこんな感じなんだ」
「俺たちは酒場近くにある真夜中の森しかみたことありませんものね」
「うん。ヨザクラくんはルナックの外に出たことあるの?」
「残念ながら無いんです。でもいつか見てみたい気持ちはあります」
「私も夜明けをこの目で見てみたいな。そのためにも頑張らなくちゃね」
メイさんは遠い世界を見るように絵画を眺める。吸い込まれそうな森の絵はつい検品の手を止めてしまうものだった。
すると俺の視界に残しておいた彫像が入り込む。結構大きめだから後回しにしていたがそろそろ取り掛からなければ。
「メイさん。この彫像を検品しようと思うんですが布を取るのを手伝ってくれますか?」
「うん。わかった」
俺から始まった話題だからもう少し絵画を見せたかったが時間は有限。
早くここを終わらせて少しでも第二倉庫の検品を進めないといけない。
名残惜しそうに絵画から離れたメイさんは脚立に乗った俺を見上げるように側に立った。
「随分大きな彫像だね。どんなやつなんだろう」
「では取りますね……よっと」
傷つけないようにゆっくりと布を取った俺たちは露わになった彫像に固まる。
「こ、これは凄いね」
「はい。想像以上に」
身長が低い女性なら入れてしまうのでは無いかと思うくらいに上下左右、そして奥行きがある彫像。
そして思わず声を上げてしまう理由はその彫像が持つ筋肉だった。
「ムキムキだ」
「ヤコウ店長が喜びそうな筋肉ですね…」
「店長さん、逞しい筋肉の彫像があったらオークションに参加するって言ってたよ」
「この存在を教えたら本気で参加しそうですね。それだけは避けなければ」
「何で?」
「仮に競り落とせてもリメンバーに持ち帰った時点でクロバラ先輩が破壊するだけです。こんな物どこに置くのよ!って」
「アハハッ!確かにクロバラさんなら言いそう!」
「加えて大金を使ってしまったことにキレるでしょうね。普段からやりくり頑張っているので」
「えっ?リメンバーってルナック国家から信頼されている錆人取り締まりグループでしょ?バーの経営を出来るくらいだしお金は沢山あると思ってた」
俺はそんなメイさんの純粋な想像に苦笑いを浮かべる。しかし彼女の想像は半分当たっていた。
リメンバーは国家直属ではない外部の錆人取り締まりグループだが信頼度は高く、報酬金も多く貰えている。
けれどその他での出費が多いのだ。1つは酒場リメンバーの運営費。そしてもう1つが小道具や武器などの必需品に多く当てられていた。
それをメイさんに伝えると納得したように頷く。
「だから店長さんも酒場に人が来なくて悩んでいるんだ」
「ヤコウ店長は趣味で営んでいると言っていますが、実際は副業に近いですからね。高級店ではなく安価な酒場で周りと差をつけようとしていますが」
「場所が場所なだけに人が来ない……」
「その通りです」
だからこそ飾ることしか出来ない彫像に手を出させるわけにはいかないのだ。
それに何となくだがこの彫像は高値で競り落とされそうな気がする。
筋肉関連になると知能が下がってしまうヤコウ店長は歯止めなく金を上乗せしていくだろう。
「それにしても本当に大きな彫像だね。これだけ存在感が違く感じる」
「守り神みたいですね。まぁリメンバーには本物の筋肉を持つ守り神が居るので必要なさそうですが」
「そうだね。店長さんが居れば何でも解決できちゃいそう」
「では俺はこれを検品します。そろそろ第一倉庫の終わりが見えてきたので頑張りましょう!」
「うん!私はそっちの続きやってるね!」
俺は布を畳んで元の場所に戻って行ったメイさんの背中を見て思う。
こんなに良い人が錆人に縋らなければ生きていけない世の中を変えたいな、と。
でも取り締まる立場の俺では何も出来ない。だからこそ手の届く範囲にいるメイさんはリメンバーで守ろう。
そんな柄にもないことを考えてしまって乾いた笑いが出る。
「ヒーロー気取りはやめなきゃ」
誰にも聞こえないようにそう呟いた俺は気を取り直して逞しい筋肉の彫像に検査機械をかざした。




