1話 錆人とリメンバー
男が白い粉を出した瞬間、黄金の夜世界に2つの影が落ちた。
1つは男の隣に降り立つと同時に素早く短剣の頭でみぞおちを殴る。そうすれば抵抗する意識を与えずに男は気絶した。
「だっ、誰だ!?」
急に現れた影が女性だと気付いたのは粉を受け取ろうとしていた別の男。無造作なヒゲが特徴的だ。
そんな男の後ろに立つのはもう1つの影。
「動かないでください」
「ひっ」
低くも若々しい声をした黒スーツ姿の青年は無造作ヒゲの男の首に刀を当てた。
「殺しちゃダメよ」
「殺しませんよ。今のうちに縛ってください」
「ええ」
女は皮脂を吹き出し何も出来ずにいるヒゲの男にニヤリと笑う。
そして着用していた黒いドレスから縄を出して近づいた。
「違うんだ…やめてくれ…」
「安心してちょうだい。私達はこいつと違って悪党ではないわ。むしろ正義側の人間よ」
「何で…何で…」
「可哀想に。この白い粉が貰えなくなって怖くなったのね。でもこれをあげることは出来ないわ」
女は慣れた手つきで男を縛りあげる。身動きが完全に取れなくなった男は絶望したようにその場に座り込んだ。
「さぁ表に出すわよ。2人を持って行って」
「はい」
青年は刀を鞘へ戻すと、女の命令を受け軽々と男2人を持ち上げる。そして暗い路地裏から明るい夜の街に姿を現した。
すると待機していた同じ黒スーツの国家兵士団数人が敬礼をして男女を出迎える。
「お疲れ様です!本日も取り締まりのご協力ありがとうございます!」
「いいえ。これが仕事ですもの」
「こちらが錆人です。後はよろしくお願いします」
「かしこまりました!そちらの押収品はどうされますか?」
「この粉はうちで処分しておくわ。それじゃあ行きましょう」
「はい」
白い粉を売ろうとした男とそれを買おうとした男は呆気なく兵士達に引き取られる。
それを見届けた青年と女は軽くお辞儀をすると瞬く間にその場から消えてしまった。
そんな彼らの仕事ぶりを間近で見た新人兵士は感心したように頷く。
「先輩、あの2人が錆人取り締まりグループ“リメンバー”の方々ですか?」
「ああ。錆人関連の仕事なら彼らに任せた方が安心だ。なんせ国家上層部のお墨付きだからな」
「かっけぇ…!あんな人たちが取り締まってくれるのなら俺たち必要ありますか?」
「リメンバーは錆人全員取り締まれるほど大きい組織じゃない。けれど彼らが手を貸してくれなくなったらこの国は終わりかもな」
「2人とも素早くてかっこよかったなぁ。特にあの綺麗なお姉さんなんか…」
「興味があるのならリメンバーのボスが営んでいる酒場に行くといい。まぁあの2人が出迎えてくれるわけではないけどな」
新人兵士は先輩兵士からの情報に目を輝かせる。完全に黒ドレスの女性に会いに行く気満々だった。
そんな彼を鼻で笑った先輩兵士は捕らえた錆人と取り引き相手を見つめる。
気を失った錆人はともかく、薬を手に入れることが出来なかった無造作ヒゲの男は朦朧とした目で泣いていた。
「あ…あ…ああ…」
「チッ、富豪のくせに金だけでは足りなかったんだな。自業自得だ」
兵士はため息をつきながら空を見上げる。
ここは夜の王国ルナックと呼ばれる日が昇らない国。世界中の煌びやかな高級店が集結するこの国は人類の理想郷でもあった。
辺りを見渡せば富豪たちが金を握りしめて高級という名の快楽に浸っている。
しかしその裏には闇取り引きが頻繁に行われているという背景があった。
そんな取り引きを持ちかける闇商人達を国は錆人と表した。




