20002001
前世紀が終わった瞬間を覚えている。おれはまだぎりぎり10代で、童貞だった。街はまるでお祭り騒ぎ。なにがそんなにめでたいのかおれにはさっぱりわからなかったが、アルバイト先の女子大生がここに来たいって言うもんだから仕方ない。おれに選択肢なんてあるわけがない。土下座したってお願いしたいんだから、うっとうしい連中の中に放り込まれることくらいは我慢してやるさ。おれはやれればそれでよかった。相手にこだわるもクソもない。さっさと済ましちまいたかっただけだ。
なにしろどいつもこいつも浮かれてやがった。よくもまあここまで間抜けが集まったものだ。むかつくなんてもんじゃない。あっちでこっちで猿みたいに騒ぎやがって。こいつらがなにを食ってなにを考えて生きているのか想像もできやしなかった。だがおれは不機嫌を隠し通す覚悟ができていた。ばっちり決めてやると誓っていた。
建物という建物がギラギラと下品に光って、昼間よりも明るいんじゃないかってほどだ。綺麗だねと女子大生が言った。これが綺麗だと? こいついかれてるんじゃないか? もちろん言葉にも表情にも出さずに曖昧な返事で茶を濁した。さっさと終われよ20世紀このやろう。いつまでここでこうしてりゃいいんだ? この寒い中、間抜けの洪水の中、おれはいつまでふてくされていりゃいいんだ?
想像していたよりもラクではない仕事だった。こいつはかなり神経をすり減らす。これなら土下座でも靴を舐めるでもした方がマシってもんだった。女子大生がおれを好いていることは気づいていた。とっくの昔に。だがおれはどうすればそうなるのかが全くわからなかった。下手に動いて、ばれるのを恐れていた。おれが女を恐れていることがばれるのが。
とにかく女ってのが謎だった。なにからなにまで謎だった。年上の女にからかわれるたびに、おれは顔を赤くしてうつむくことしかできなかった。連中はそれを見て囃し立てた。カワイイと声をひっくり返してわめいた。おれがうつむきながら、ぶっ殺すぞクソ女ども! 心の中でそう叫んでいるのも知らずに。おれはまだ知らなかった。図々しく生きる術を。なめられっぱなしでうつむくこと以外になにも知らなかった。
カウントダウンが始まった。酒の匂い、タバコの匂い、香水、整髪料、その他諸々の生活臭。なんて貧乏くさい祭りなんだこいつは。100年に一度のクソ地獄。とにかくふざけてやがる。とことんたわけた馬鹿騒ぎに、おれが構成員として参加していることに、おれの自尊心は砕けちる寸前だった。
年が明けた。花火が上がった。口笛、指笛、拍手、ハイファイブ、そのほか色々。女子大生がおれに抱きついてきた。奔放な髪の毛がおれの鼻をくすぐった。おれは急激に痒くなった鼻を掻いた。そのあと彼女を抱きしめた。彼女の襟のフェイクファーのせいで、またおれの鼻が痒くなったが、なぜだかおれは急にしおらしくなっちまって、彼女の耳元で明けましておめでとう、なんて言いやがるのだった。