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番外編短編・2023年のカヌレ

 2023年。


 コロナも五類になり、一時期よりはマスク着用率も減り、アクリル板も撤去されつつあった。


 ただ、ワクチン薬害が騒がれていた。一部の大手メディアでも薬害が報道されつつあったが、愛は違和感があった。去年か一昨年にもっと公平に報道されていたら、薬害被害もなかったんじゃないだろうか。結局、日本のメディアは戦前から大差無い事がわかり、愛は憂鬱な気分だった。


「ねえ、成一さん。今更ワクチン薬害を報道し始めるのって何? あれだけワクチンを煽った人はなんの責任ないわけ? 相変わらず論破とか言って冷笑して楽しんでる人も多いし、令和は愛が冷えてるわ。もう終末よ、これは。もしかしたら次の年号はないかも」


 愛はリビングでテレビを見ながら、愚痴をこぼしていた。


 ここは愛と成一の新居だった。愛の教会の近くにちょうど良いマンションがあり、そこで二人で生活していた。成一のカフェにも近く、近所の桜並木も窓から見えて、スーパーにも近い。悪くない物件だろう。愛の教会の牧師館は神学生が住む事になった。そろそろ若い人に引き継ぐ事も考えているところだった。


「まあまあ、愛。メディアなんて元々そんなものだよ」

「そうだけど」

「そうだ、カヌレが余ってるけど、食べる?」


 怒っている愛とは違い、成一は冷静だった。そんな成一を見ていると、愛の毒気も抜けてきた。


 成一は冷蔵庫の中から、カヌレをもってきた。箱の中に小さな円柱型のカヌレが並んでいる。茶色い表面は艶があり、美味しそうだ。今年はまたカヌレブームが再燃しているらしく、成一が駅ビルで買ってきたものだったという。コンビニにもカヌレが置いてあり驚いた。1995年だったら信じられない事だ。


「そういえば1995年にもカヌレブームがあったね」


 あの頃から成一と仲良くなった。当時はオウム問題もあり、教会も色々と誤解されていたが、時々成一は励ましたりしてくれたっけ。カヌレやアロエヨーグルトやパンナコッタと一緒に。


「そうだね。なんかあの頃とあんまり変わってない気もするよな」

「うん。そうね。カルトや二世の問題も根強いしね。うちみたいなプロテスタントの教会でも両親に無理矢理教会連れてこられて、キリスト教も嫌いになってしまったとか、子供同士でいじめがあって教会行くの嫌になったとかよく聞くんだよね……」


 去年はカルト二世や統一教会の問題もクローズアップされ、愛は再び誤解を受ける事も多かったが、仕方ない。自分達だって所詮、罪ある人間。いつもズレずに正しいわけでもない。


「まあ、難しい事はいいからカヌレ食べよ!」

「うん」


 成一に促され、カヌレを食べる。外側はカリっとし、中身はもちっと独自の食感が楽しめる。


「美味しい」

「だろう?」


 隣にいる成一は穏やかに笑っていた。そう、難しい事はわからないが、隣にいる人が笑ってくれればそれで良い。目に見えるものでは家族以上に大切なものはない。今までは仕事命だったが、大事なものができてしまった。もう今までのように無理はできないが、人生に重しが乗り、すっかり落ち着いていた。


 もう人と人が距離をとり、お互いが憎み合う世になりませんように。


 心の中で祈り、隣にいる成一に笑いかけた。

ご覧頂きありがとうございました。これにて完結です。以下参考にした資料です。


参考資料

何が食べたいの、日本人? 平成・令和食ブーム総ざらい (インターナショナル新書)

阿古真理 著


日本人の愛したお菓子たち 明治から現代へ (講談社選書メチエ)

吉田 菊次郎 著


平成史全記録

毎日新聞出版平成史編集室


読むだけですっきりわかる平成史 (宝島SUGOI文庫)

後藤 武士 著


【幻の食材】()って何?実は作り方わかりません!

https://youtu.be/QHTS7j9N2k0?si=2ifwztLs0fGTsudh


いきものがかり「ありがとう」

https://youtu.be/VZBU8LvZ91Q?si=sIdvS36aaRa-_Ihm


【ゆっくり解説】お米が店から消えた日…「平成五年の米騒動」

https://youtu.be/RDw6vLRKWh8?si=thQg98tIAq0-e20Fp




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